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ヤスラギ委員長は死ぬほど忙しい  作者: スウェイル
第一章︎ ︎ ︎委員長、死す
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源琉花

(……ーい、ラギ長。聴こえてるー?)


 …………んぅ?


(ラギ長ー、……ダメか。やっぱり、まだ寝てるみたいね)


 ……ん〜……いやぁ、いま起きた……よ?


 まだ少し寝ぼけているヤスラギは、誰かの呼びかけにふにゃふにゃと答える。


 しかし、うっすらと目を開けても部屋には誰も居ない。


「……あれ? 今、誰か呼んでたような……気のせい?」


 誰かの声なのか、【伝心】で届いた思念なのか、はたまた夢の中で呼ばれたのか。

 その判別がついていないヤスラギは周囲をキョロキョロと見回すのだった。


 さて、それからしばらくして。

 

 トイレに行ったり、顔を洗ったり、服を着替えたり、『シルバーズ・リング』で【伝心】をセットしたりして、あらかた身支度が済んだ頃。

 

 タイミングを見計らったかのように、再びテレパシーのメッセージは届いた。


(ラギ長、聴こえてるー? 聴こえてるなら返事してー)


 僅かに疲労感と諦めが混じった女子の思念がヤスラギの脳裏に響く。


 運動部特有のハキハキとした声で再生されたため、送り主はすぐに見当がついた。


(おはよう、ルカさん。ごめんね、昨日夜更かししちゃったせいで、ついさっき起きたんだ)


 昨日、一昨日と5時過ぎには目が覚めていたヤスラギも、今朝の起床時刻は6時半。

 

 今日が土曜日、というのも影響したのだろう。身体もいつもより多めに眠りたかったのかもしれないとヤスラギは思っていた。


 それでも、再三の連絡に応じれなかったのは事実なので、ヤスラギは朝の挨拶に謝罪の言葉を添える。


(それで、いったいどうしたの? 戦闘探索班で何かあった?)


(んーまぁ、そんなところかな)


 ルカからの返答は、当たらずとも遠からず、といったところだった。

 

 彼女から連絡がくるということは、それは戦闘探索班に関わる内容であるはずなのだが、とヤスラギは思案する。

 

 理由は単純。

【伝心】が使える9名のうち、戦闘探索班に所属しているのは源琉花(みなもとるか)ただ一人だからだ。

 

 ほかは、施設管理班の金原海澪(きんぱらみれい)蒔田希穏(まきたきおん)を除けば、ヤスラギを含め皆、渉外輸送班に所属しているのである。


 そんなことを考えているうちに、再びルカから思念が届く。添えられた感情からして、なにやら困った様子のようだ。

 

(今日は警備巡回の無い人達で、資材集めに行く予定だったんだけど、思ったより天気が悪そうでさ。

 昨日言ってたアレ、早速で悪いけどお願いしてもいい?)


 えっ、天気が……?


 ヤスラギがふと窓の外に目を向けると、たしかに空には暗雲が立ち込めていた。

 

 こうなると、山の中に薪や粘土といった資材を集めに向かうのは得策ではないだろう。

 せっかく薪を拾っても濡れてしまうだろうし、粘土が取れる川沿いや崖下は、鉄砲水や土砂崩れに巻き込まれる危険性が高まる。

 

(……たしかに、今にも降り出しそうだ。これじゃ、集めに行くのは止めた方がいいね。ちょっと待ってて)


 と、簡潔に答え、ヤスラギはすぐさま別の人物の反応を探る。


 えーっと、カケノリとミレイさんの反応は……と。


 【伝心】で魔力の痕跡を探る。

 大体の予想通り、研究所の地下にいるカケノリと、食堂の辺りにいるミレイを見つけ出した。

 

 昨日言ってたアレ、とは、「仕事の手配」のことだ。

 

 今回の場合は、雨でやることがない戦闘探索班のメンバーを、万年人手不足の施設管理班や研究開発班に上手いこと派遣して欲しい、という趣旨の依頼だった。


(おはよう、カケノリ。丁度よく研究所にいるみたいだから、人手が欲しそうな部署を書いてメールで送ってくれ。頼んだよ)


 研究開発班には【伝心】を使える人がいないため、電話のようなリアルタイムでのやり取りは出来ない。


 だが、代わりに魔力式伝令装置(メッセンジャー)がある。

 それを使えば、連絡は可能だ。


 カケノリと同様に、ミレイにも思念を飛ばす。


(おはよう、ミレイさん。食事中……か、もしくは調理中にごめんね。

 施設管理班で人手が必要になりそうな仕事を教えて欲しいんだ)


 こちらからの返事はすぐに返ってきた。


(おはよ、そしたら男子は全員、蒔田まきたのところに行って。女子がいたら、食堂に来て、って言っといて。……じゃ)


 ミレイの男子に対する素っ気なさは筋金入りで、今のメッセージもほとんど無感情だった。


 サクラのクールさとはまた違ったクールさを持つ彼女だが、ヤスラギもあまり話したことが無いので、正直、その人となりがよく分かっていないところが多い。

 

 サクラのクールさを大人びた冷静さと喩えるならば、ミレイのクールさは無関心なときの猫のような冷たさに喩えられるだろう。


 ヤスラギは、ひとまずルカにミレイからの伝言を伝え、カケノリからの返信を待つ。


 ――10分後。

 実は寝ていて届いてないのでは? と疑い始めるヤスラギの元に、ようやくオレンジ色の魔素メールが窓の外から飛び込んできた。


「……思ったより時間がかかったみたいだけど、こんな朝早くから何してるんだ?」


 もしも緊急事態に巻き込まれていたとしたら、少し申し訳ないことをしたなと思いつつ。

 

 ……けど、カケノリだしな。


 と秒で切り替えた。

 ヤスラギは早速、手紙を開封する。


『シオリ、ホクトからは特になし。

 ハルアキが2,3人よこせと言っている。

 とりあえずヤスラギは来い 太田』


 オレンジ色に発光する光の便箋には、そのように書かれていた。

 

 とりあえずで僕を呼ぶなよ……。


 そうボヤきつつ、ヤスラギは朝ごはんを食べるために自分の部屋を後にする。

 風に吹かれて葉っぱが擦れる音には、パラパラと雨粒が当たる音が混じり始めたのだった。

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