表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤスラギ委員長は死ぬほど忙しい  作者: スウェイル
第一章︎ ︎ ︎委員長、死す
21/49

蒔田希穏

 今日の会議の影響だろうか。

 今夜の拠点は、普段よりもずっと静かだ。

 

 普段なら、食堂にずっと入り浸ってる連中とか、今から風呂に入りに行く奴とかもいるのにな……。


 キオンは人気(ひとけ)のない浴場の横の道を、寝巻き姿で下っていく。


 ……けど、おかげで人目を気にせずに来れた。

 はぁー、いつもこうなら無駄に「索敵」を発動させずに済むんだけどなー……。


 そんな愚痴っぽい感想を抱きながら、蒔田希穏(まきたきおん)は時計台のある広場へと足を踏み入れた。


 時計の二本の針は12時の僅かに手前で、ピッタリと重なる瞬間を待っている。


 月の無いこの世界において、夜の光源は空に輝く星々だけだ。

 

 それでも、全く見えないということは無い。

 

 暗さに目が慣れさえすれば、初夏の夜らしい心地よい風が吹き抜ける高原を、しっかりと見渡すことができた。


 つまり、もしそこに“青い光を放つ不思議な手紙”がふわふわと浮かんでいたのならば――。


「……相変わらず、目立つなー」


 ――決して、それを見落としたりはしないだろう。


 真夜中の12時を告げる時計の真下に、突如として現われたそれは、今日の会議のしらせを班長たちに伝えるのにも使われた魔力式伝令装置(メッセンジャー)による魔素メールにそっくりな、魔力で編まれた手紙だった。

 

 ただし、放出される光の色はオレンジではなく、青白い。

 その色にはいったいどんな意味があるのか、奇しくもヤスラギたちが使うスキル「遣直」の魔力の光と同じ色だった。

 

 キオンはなんの躊躇いもなく近づいて、そんな幻想的な光に包まれた手紙を掴む。


「“開封”」


 その言葉を待っていたかのように、封筒は弾けるように無数の光線となる。

 そして、ぐるぐると集まって、一枚の便箋の形を織り成すのだった。

 

 ――最初に俺がコレを見つけたのは、つい九日前のこと。

 

 施設管理班の仕事が長引いて、疲れを取ろうと長風呂になってしまった日の深夜0時。

 宿舎棟へ戻る途中で、このめちゃくちゃに目立つ謎の手紙を発見した。


 最初は流れ星でも落っこちてるのかな、と思って近づいたら、どうみても魔素メールにしか見えない何かがふらふらと浮遊していた。

 

 となれば、試しに“開封”と言ってみるのは、自然な流れだ。

 

 やはり、それが読むための合言葉で当たっていたらしく、ずっと誰かに読んで貰いたかったかのように弾けた光は、一枚の手紙へと変わった。


 そして、そこに書かれていた“たった十文字のコトバ”によって、俺は風呂上がりだというのに寒気と鳥肌が止まらなくなったのだ――。

 

(キオン、そこで何してるの?)


「うひゃあるるるるらぁあああ!!? ら、ラギちょうか!? 脅かすなよ!!」


 突然、頭に響いた柔らかい男子の声。

 【伝心】によって届いた、ヤスラギの思念である。

 

 ちょうどこの手紙を見つけたときの恐怖(こと)を思い出していたキオンは、まるで背後にきゅうりを置かれた猫の如く、飛び上がりながら反転し、ファイティングポーズを構えながら背後を威嚇する。

 

 ……が、その背後にヤスラギの姿はない。


「……あ」

 

 そう言えば、今日の会議のときに。


 ヤスラギの提案で【伝心】のスキル持ちは、クラスメイト全員に一度「伝心」をして、いつでも誰にでも連絡ができるようにさせられていたことを思い出す。


 キオンは、自身も【伝心】のスキルを発動し、ヤスラギの位置を探った。


 彼の反応があったのは宿舎棟の方向。

 距離もだいたい宿舎までくらいである。

 つまり……。


(……なんだ、ラギ長はまだ宿舎にいたのか。音もなく後をつけられてたのかと思って、ビックリしちまったぜ)


 まだ心臓がバクバクとしているキオンは、自身を落ち着かせようと胸に手を当てながら鼻で深く呼吸し、息を整えながら【伝心】で返事をした。


(いやいや、誰にだってプライベートなことはあるでしょ。勝手に後ろをつけて覗くなんてこと、僕はしないよ)


 そんな言葉がどこからともなく頭に響く。


 ヤスラギはキオンから伝わる焦りや後ろめたさの感情から、彼になにか秘密があることには気づいていた。

 

 しかし、別にその秘密に探りを入れる気はない、ということをキオンに伝えると。


(……とかいって、本当は暗闇が怖かっただけだろ。そういう怖気付いたときの感情がうっすらと混じっているぞ)


 キオンもまた、ヤスラギから届いた感情を読み解き、そう指摘し返すのだった。


(あはは、まぁね。バレてたか)


 思念だけでなく感情も伝わることで、下手に対面で話をしているときよりも、腹を割ったように話しが進む。

 

 しかし、それはこのメールのことを出来れば隠したいキオンにとって、この上なく不都合な状況であった。

 

 ……マズイな。

 このままだと、ヤスラギには俺には何か隠し事があるって思われたままになっちまう。

 

 なんとか別の秘密があることを装って、それをバラして誤魔化すか?

  ……いや、今すぐダミーの秘密を思いつかないことには不可能だ。……くそっ、冷静さが足りない。


 ひとまず、追及される前に今日の分を確認して、さっさとこの場を離れるか。


 そう考えたキオンは、ヤスラギとのやり取りを中断し、手紙に目を通していくと……。


「! ……なんだよ、大丈夫なのかよ! ハハハッ、ったく。心配して損したわー」


 読んだ途端にキオンは目を丸くしたかと思うと、拍子抜けしたように一人で笑い出したのだった。


(オイ、ラギ長! 面白いものを見せてやるから、今すぐこっち来いよ!)

名前:蒔田希穏

年齢:16(5月16日)

性別:男

容姿:168cm、平凡だが足は速そう

髪と肌:黒のふんわり七三分け、少し色白

一人称:俺

イメージカラー:限りなく白に近い黄色、水色

動物に例えると:鳩

似ているキャラクター

(活動報告にあります)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 漂流教室のような展開になるのでしょうか?そんなことを思いました。登場人物の個々の能力やスキルがポイントになってそうで、いろんな災禍を能力で克服していく展開が期待できそうです。 登場人物が多…
2022/07/09 17:31 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ