鈴木康良義6
「ふぅー……あと、ちょっと」
凝った肩をぐりぐりとほぐす。
3日ぶりに見るスマホは、ブルーライトが思いのほか強烈だった。目の奥がジンジンする。
「それにしても、茜先生って聞いたてよりも忙しかったんだな……」
先ほどまで書いていた内容に関連して、今朝、先生と研究所で一緒に降りていったときに話したをことを思い出す。
先生の仕事は主にふたつ。
この山奥で僕らが少しでも快適な生活ができるように、常に現実世界に意識を向けておき、目に付いた有用な物を逃さずコピーできるように備えること。
そして、もう一つは研究所での仕事。
龍脈から得た魔力を施設で利用できる魔力に変換する装置の調整をしたり、自身の特殊な体質についての研究したり、と多岐にわたる。
その一つ一つが今の僕らには難しい大仕事だというのに、それらを同時にこなしているというのだから、本当に尊敬する。
うーん、僕もこのくらいのことで音を上げていられないな。記録作業に戻ろう。
残る班はあと一つ。
しかし、気合を入れたにも関わらず、ヤスラギの表情は浮かばなかった。
「んー……でも、ここからが重いんだよな……」
その理由はとても単純なもので、ここまで順調だった会議は、最後の渉外輸送班の発表で大いに荒れたのである。
【渉外輸送班】
班長 朝倉桜蘭
班員 煙山夜香、兒玉遊治、佐藤アリア、鈴木康良義、山本光剛、湯ノ本銀雅、渡辺閒宙
「……山本の奴、いったい何が気に食わなかったんだか……」
メンバーを書き終えたヤスラギが、珍しく毒を吐く。
悪口を嫌うヤスラギは普段から一人でいるときでも、こういうことはほとんど言わないのだが、今日はそれほどにまで鬱憤が溜まっていたのだ。
〜主な仕事〜
ヌース市街地における事業所の運営、
その一行を書いて、またしてもヤスラギの手が止まる。
「っと、【遣直】」
ヤスラギがそう呟くと、パァッと青く光り、日記から書いたばかりの文字が消えた。
そういえば、ヌースという地名は漢字で書けると言う話を聞いたんだった。
書いている時に、そんなことを思い出したヤスラギは、スキルで消して書き直したのだ。
消しゴムの方が早いが、こっちの方が綺麗に戻るので地味に気に入っている使い方だ。
〜主な仕事〜
沼洲市街地における事業所の運営、資金管理、物資の購入と販売および輸送、市場調査、周辺地域の情報収集、各種ギルドへの手続き
沼洲と書いて沼洲と読む。
ほかにも漢字で表記される地名や名称があるらしく、漢字の持つ意味もほぼ同じらしい。
ただし、読み方が少しだけ違っているとのことだ。
サクラさんが言うには、気候的にもこの周辺の地域はアジア圏の国々の文化が色々と混じりあったような独特の雰囲気があるらしい。
なかなか興味深そうで、街に行く日が楽しみである。
「……いや、でも街に出るってことは、山本と遭遇する可能性が高くなるのかー……」
それは嫌だなとやる気を無くし、ぐにゃりと身体を曲げるヤスラギ。
机にだらしなく寝そべること、数秒。
「……っし! あとちょっと!」
ヤスラギは再び気合いを入れ直し、検討課題を分かりやすくまとめながら記入する作業を再開したのだった。
〜検討課題〜
①魔法の杖について
――時刻は少し遡り、午後8時45分。
渉外輸送班の近況報告がひと段落し、講堂には落ち着いた雰囲気が漂っていた。
眠たそうに欠伸をする者もいるほど呑気な空気を一変させたのは、渉外輸送班班長から告げられた悪い知らせだった。
「落ち着いて聞いて欲しいのだけど、手に入る魔法の杖が予定よりも確実に少なくなるわ」
ザワッ……!
空気が揺れるほどの動揺がまたたく間に広がった講堂をまっすぐとサクラは見つめる。
「静かに! 遠足組は知ってることもあるでしょうけど、順を追って説明するわ!!」
凛とした声が響いたことで、ざわめきは少しづつおさまっていく。
「そもそも、魔法の杖とは“誰でも魔法が使えてしまうが故に、便利で危険な代物”というのが、こちらの世界の常識。つまり……!」
サクラは一歩前に出て、教壇に両手をバンッ!とつく。
「早い話が、杖を使うには“免許”が必要なの!
自動車とかと同じで、杖を持つのにも、杖そのものにもお金がかかるし、腹立たしいことに試験を受けることや“受ける権利を得る”ことにまで、とにかく、いろんなことにお金がかかるのよ!」
おそらく、その多額の出費について相当根に持っているのだろう。
怒りをあらわにしたサクラの形相は、子どもが泣いて逃げるだろうと思わせるほど、恐ろしかった。
「しかも、よ! よりによって、試験を来月に控えたこのタイミングで、“保証金”の値上げですって?! ふざけんじゃないわよ!!」
保証金とは、サクラの言葉を引用するならば、“試験を受ける権利”に必要な金だ。
名のある家の出身でも、有名な商隊の一行でも無い僕らが、自身を保証するには追加金を納めるしかないのだが、その額は嫌がらせのように高いのだ。
それが値上げとあってはたまらない。
しかし、こればかりは誰かが悪いわけではない。
だからこそ、サクラはやり場のないその怒りを吐き出すしかなかったのだ。
吐き出せたことで幾分かはスッキリしたらしく、いつもの整った顔つきに戻ると、サクラは話しを続けた。
「……コホン。えー、というわけなので、杖を持つための、試験を受けるための、身元の保証を得るためのお金は、ここにいる人たちの半数以下の分しか用意できそうにないのよ。
……だから、今日、ここで決めちゃってもいいかしら、――」
わざとらしく小首を傾げ、皆からの意見を待つ。
賛成にしろ、反対にしろ、全員が同時に魔法の杖を持つまで待つ……という考えは、サクラには毛頭無かったのである。
「――誰が試験を受け、魔法の杖を一足先にゲットするのかを」
サクラの発言を受け、再び講堂はざわめきに包まれる。
「おいおい、公平にじゃんけんで決めるってんじゃないだろうな」
「試験……って、どんな感じなんだ?」
「それってつまり、選ばれなかった人は、もうしばらく魔法が使えない……ってコト!?」
皆の反応は様々だが、これだけはわかる。
好意的に捉えている人は誰一人としていない。
「あ、ちなみに試験自体は、甘やかされて育った貴族の子たちでも受かるくらいには簡単だから」
そう言われて、真っ先に声をあげたのは。
「だったら、俺らでも問題ねぇワケだな!」
勉強は苦手なくせして、声と身体だけはデカい山本光剛だった。
いや、そもそもお前も渉外輸送班だろうが。
なんで、試験のこと知らなかったんだよ。
と、みんなが心の中でツッコミを入れる中、コウゴの隣からも冷ややかな声がかかる。
「俺ら……って、いったい誰を含めてんだ?」
「あぁー?! そりゃ、おまえらだろ。テニスバカと野球バカ」
「オイオイ、オレもかよ!?」
「そうだぞ。ていうか、テニスバカはお前もだろうが」
コウゴの隣に座っていた眼鏡の方のテニス部員こと渡辺閒宙と、一段下の席に座っていた絵に描いたような野球少年の湯ノ本銀雅は、慣れた調子で彼をあしらう。
コウゴとマヒロは同じテニス部ということもあり、性格は真逆だが、意外と仲は良い。
同じ渉外輸送班であり、同じ体育会系運動部仲間ということもあり、この三人はよくつるんでいるのだが、今回ばかりは様子が違うようだ。
「なぁ、サクラ。その選抜メンバーはどうやって決めるんだ!?」
コウゴが馴れ馴れしくサクラに尋ねると。
「だから、今からそれを決めるのよ。ちゃんと話聞いてなさいよ」
サクラも慣れているのか、サラリとこれを受けながした。
「おぉー、そうだったのか。すまねぇ!」
パンッ! と顔の前で、手を強く合わせて謝罪すると、コウゴはドカッと深く腰掛けた。
勢いよく手を打ったときの破裂音で耳がキーンとなったマヒロが、横で耳を抑えながら顔をしかめていたのだが、コウゴはそんなこと一切気にしていない。
そんな横柄な態度の問題児、山本光剛だが。
「さて。それで、問題の“試験を受ける人の選び方”、なんだけど……」
サクラが提案した、その方法は。
「せっかくだから、ヤスラギくんに決めて貰おうかなって、思ってるの」
「……えっ」
「はぁ!!?」
なぜか、ヤスラギに矛先が向くような形で、コウゴの怒りを買ってしまうのだった。
名前:山本光剛
年齢:15(9月24日)
性別:男
容姿:181cm、イカついテニスバカ
髪と肌:黒のマッシュヘアに、横に流れる白のメッシュ、がっつり日焼け
一人称:俺
イメージカラー:紅色、くすんだ白色
動物に例えると:土佐犬
似ているキャラクター
(活動報告にあります)
名前:湯ノ本銀雅
年齢:15(8月9日)
性別:男
容姿:170cm、
髪と肌:丸刈り坊主から少し伸びた、肌は意外と綺麗
一人称:オレ
イメージカラー:透き通った水色、白、茶色
動物に例えると:ダルメシアン
似ているキャラクター
(活動報告にあります)




