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ヤスラギ委員長は死ぬほど忙しい  作者: スウェイル
第一章︎ ︎ ︎委員長、死す
16/49

全員集合

 茜先生からの招集がかかった、5月27日の夜。


 『ヒポカムポス』の拠点内にある講堂には、30人の生徒が集合していた。

 もちろん、隅の方に茜先生もいる。


 僕の予想では、2人か3人くらいは不参加になるだろうと踏んでいたのだが……。


「へぇ、意外! ()()()()なんて、珍しいじゃん!」


 施設管理班班長、殿岡奏(とのおかかなで)は茶色の三つ編みを振り回しながら、その場でぐるりと回るように人数を数えてそう言った。

 

 白のTシャツに自作のデニム風オーバーオールがよく似合う、ハツラツとした工作系女子だ。

 

「へぇー、これがラギ長の人徳ってヤツか、流石だな」


 戦闘探索班班長、狩野達人(かのうたつひと)は普段の班員たちの統率のない行動からはとても信じられないと、心の底から褒め称える。

 

 今日はもう風呂に入ったあとらしく、スッキリと短い黒の短髪には普段は見られない光沢がある。

 

 一応、会議だと聞いているはずなのだが、グレーの無地のTシャツに緩めのズボンという、まさに風呂上がりといった格好だ。


 正直その、大事な所でのゆるさが統率のなさに繋がっている気がするな。


「んー……。おれはどっちかってーと、緊急の会議だから参加してる感じだけどな」


 研究開発班班長、太田翔典(おおたかけのり)はボサボサの少し伸びた黒髪をかきながら、今さら僕個人に対する思い入れは無いと言い切った。

 

 といっても、こちらに来てからというもの、ほとんど一緒にいたのだから、その感想はまったくもって正しい。

 

 大きな体格に合わせて縫製された高校の制服をシャツとズボンともに着崩し、その上からシワだらけの白衣を羽織っている。

 いったい何日(いつ)からその格好なのか、気にはなるが、聞きたくない。風呂に入れ、風呂に。

 

「あぁ、たしかに。それもあるわね」


 渉外輸送班班長、朝倉桜蘭(あさくらさくら)もまた、肩まで届くサラサラの黒髪を耳にかきあげながら、さらりと会話を受け流す。

 

 ただし、この場合、“ヤスラギくんが魅力的であることは当然”いう意味での返答だ。

 会議の緊急性は、あくまで補助的要因にすぎない、というのが彼女の考えである。

 

 中流階級の街娘がよく着ているというチュニックは濃いめの緑色、過度すぎない白の刺繍が施されている。

 長めのベージュのボトムと併せ、ここではあえて前を閉めずに現代風に着こなしているようだ。


 そんな個性的な4人の班長たちに囲まれ、僕は労いの言葉を受けた。


 ゆるんだ制服をきっちりと着込み直し、襟元のボタンをしっかりと留める。

 髪の毛は、一度お風呂に入ったことでツヤツヤふんわりとした仕上がりだ。

 

 時刻はもう間もなく、予定開始時刻の午後8時になる。


 誰もがしっかりと5分前行動が出来ているのは、良くも悪くも、ここには林間学校のような雰囲気があるせいだろう。


 だが、ここは学校ではない。

 厳格なことを言う頭の固い大人はここには居ない。

 

「ねぇ。もう揃ってるなら、さっさと始めない?」


 サクラからの指摘を受け、ヤスラギが音頭をとる。


「そうだね。さっさと始めて、さっさと終わろうか。

 それじゃ、学級会議……、じゃなかった。えー……『ヒポカムポス』の運営会議を、そろそろ始めたいと思います! 皆、席についてくださーい」


 壇上からの呼びかけに、いたるところでお喋りしていた者たちはいそいそと席に着く。


 大学などでよく見られる段々状に座席が並んだ講義室は魔法の力で昼のように明るく、どの席からも班長たちとヤスラギの顔がよく見えた。

 

 そうなると当然、前にいる5人からも全体の様子はよく見える。

 

 わざわざ一番後ろに座るやつ。

 中段あたりでまとまって座る仲良しグループ。

 そのせいで前の方の席がスカスカになっている様子などが目につく。


「……もうちょっと前に詰めてくれない?」


 ヤスラギが控えめに頼むが。


「えー」

「めんどい」

「後ろのやつが詰めればいいじゃん」

「それなー」


 顔を見合わせるだけで誰も動かない。

 

 まぁ、ここは学校じゃないし、あんまりうるさく言ってもなー。


 そんな風に考えるヤスラギに、さらに荒っぽい声がかかる。


「別に、声は聞こえてるんだから、このままで良いっしょ」


 一番後ろの席からそう発言したのは、渉外輸送班の山本光剛(やまもとこうご)


 声も身体もデカく、人を舐めたような態度でバカにすることも多い、クラスの要注意人物だ。


 しかも、厄介なことに、向こうはヤスラギのことを()()()()()()()

 

「それもそうだよねー。そんじゃ、このまま始めます」


 こういう奴は真面目に取り合うだけ損だ。


 害がない限りは放っておくのが一番の対処法だ。

 学級委員長歴8年目(小学校のクラス代表を含む)は伊達ではない。


 これまでは班長4人たちで協力して仕切ってきた会議も、僕が自然に進行役を務めたことで、任せるとばかりに空いていた最前列に座る。

 

 これで、準備は整った。


「……さて、聞けば、入学して間もない頃には、既にこちらに来ていたという人も多いとか。というわけで、遅くなりましたが、簡単に自己紹介をさせていただきます」


 このような場に馴れていることが第一声から分かるほど、落ち着いた声が講堂に響く。


「12HR(ホームルーム)の学級委員長を務めます、鈴木康良義(すずきやすらぎ)と申します。

 “ヤスアキ”ではなく、“ヤスラギ”。リラックスの方ですので、間違えのないようにお願いします」


 こうして、ヤスラギ委員長の忙しい異世界での日々は、実に穏やかに、始まりを告げたのだった。

名前:殿岡奏

年齢:15(9月29日)

性別:コンタクトレンズ

容姿:156cm、すこし肉付きが良い

髪と肌:茶色の三つ編み、日焼けあと

一人称:ワタシ

イメージカラー:紺色、茶色

動物に例えると:ビーバー

似ているキャラクター

(活動報告にあります)

 

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