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ヤスラギ委員長は死ぬほど忙しい  作者: スウェイル
第一章︎ ︎ ︎委員長、死す
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朝倉桜蘭3

 夕暮れが近づく山道から馬の蹄と木製の車輪が砂利を蹴る音が近づいてくる。

 それがクラスメイトの煙山夜香(けむやまよるか)によって操縦された馬車のものだと気がつくと。


 それと同時に。


「ヤッホー、おまたせしちゃってゴメンねー!」


 という明るい声が、こちらへ届いたのだった。


「あらら、もしかしてお邪魔しちゃった?」


 馬車を停めながらヨルカが尋ねる。

 二人きりという状況に割り込んで、ニヤニヤと二人の初々しい反応を待つが……。


「別に、大丈夫よ」


 ヤスラギが何か言うよりも早く、サクラは素っ気なく返事をした。

 ヨルカの知る中で過去一、クールな返事だ。


 それもそのはず。昼過ぎから今まで夢のような時間を過ごし満ち足りたサクラは、もうこの程度のからかいでは動じない。


「なによー、サクラらしくなーい……なんてね。

 フフっ、しばらく見ないうちに、ずいぶん顔色も良くなってるじゃん。ヤスラギくんの安らぎ効果は健在! ってとこね」


「はいはい、馬鹿なこと言ってないで。

 さっさと積荷を載せて、夕食を取りにいくわよ。夜までには向こうに戻らなくちゃ」


「はいはーい♪」


「ごめん、ヤスラギくん。最後にコレだけ手伝いをお願い」


「うん。もちろん!」


 ヤスラギは快諾すると、先程サクラから聞いた話を思い出しながら、荷物の積み替え作業に取り掛かるのだった。


 さて、何故わざわざ馬車でヌースの街から3時間以上かけて運びに来たのかというと、あの街に【飛翔】のスキルを使って運ぶのは悪手だから、という他ない。


 もちろん、街の近くまで運んでから、残りの行程を馬車で運ぶことだって出来る。


 しかし、万が一にも目撃されてしまうと面倒なことになりかねないので、拠点の敷地外ではなるべく【飛翔】を使わないようにと、渉外輸送班からクラス全員に通達されているのだ。

 

 ヌースの街は、明治時代のような日本古来の和と中世欧州の洋が混じったような街で、すぐ近くには国境にもなっている大河が流れており、その港には海と河の両方から船が集まっている。

 

 この拠点の最寄りにして、国内でも最大級の貿易街。

 

 ところが、そんな人や物の往来が激しい街にも関わらず、空を飛んでいる者はほとんど見かけなかった。

 

 それはつまり、魔法の世界といえど、空を飛ぶのは一般的ではない、ということ。


 この事実を確認したことで、渉外輸送班はあえて【飛翔】のスキルに頼らないことを決めたのである。

 

 今更だが、”渉外”とは外部とのやり取りを指す言葉だ。

 ただでさえ、言葉を魔法に頼っている余所者が街で信用されるためには、わずかな疑念さえ致命的となる。


 まだ知名度もないうちから、空を飛んで目立ってしまえば、必ずと言っていいほどトラブルに巻き込まれるだろう。

 

 よって、たとえ非効率であっても、遠回りであっても、一般的に使用されている馬車による輸送こそが最適解なのである。


「――よいっしょ、っと! ふぅー、これで全部かな。おっつかれさーん♪」


「えぇ、お疲れ様」


「うん、お疲れさまでした」


 軽くパンパンと手を叩き、砂埃を払い落とす。

 

 日が沈む前に商品の積み込みが完了したことで、三人は安堵の笑みをこぼした。


 貿易が盛んな街だけあって、夜でも搬入することができるらしく、二人はこの後すぐに夕飯を確保したら出発するそうだ。


 ヨルカさん曰く、「馬車に揺られて食べる料理も、なかなか悪くないよー」とのことだ。


 きっと、いつかそんな風に食べる機会も来るのだろうな。今から楽しみだ。

 

「それじゃあ手、洗ってくるね」


 そういって、サクラがその場を後にしようとするとヨルカが引き止めた。

 

「あっ、待って! ついでにそのまま、食堂に寄ってこようよ。荷物はこの子達に任せれば大丈夫だからさー」


 この子達、というのは、馬車を引っ張ってきた二頭の馬のことだと、ヨルカの視線が教えてくれた。


 一見すると、茶色と白の毛並みのごく普通の馬にしか見えないが、なにか秘密でもあるのだろうか。


「ヒカル号もヒトミ号も、どっちも私よりも賢いから大丈夫!」


「それはそうかもしれないけど、それなら普通に、ヤスラギくんに任せた方がいいんじゃ……」


「んー……でも、それだと一緒に食堂に行けないじゃん? ヤ・ス・ラ・ギ・く・ん・と♡」


「むっ…………、それもそうね」


「でしょでしょー!」


 サクラは少し頬を膨らませながら、ヨルカを素通りし、二頭の馬の方に向かって歩く。


 そして、大きな目をじっと見つめると、手で撫でる代わりに頬擦りをして、お願いをするのだった。


「すぐに戻るから、ちょっとだけ荷物をよろしくね。勝手に出発しちゃダメよ? 人参とか林檎とかがあれば貰って来てあげるからね」


 その姿はまるで絵画のようで、とても絵になる光景だと、ヤスラギは目を見張る。

 

 タイトルは、そうだな……『慈しみ』とか『馬と娘』といったところだろうか。

 もしかすると僕は今、息の仕方を一瞬だけ忘れてたかもしれない。


 そんな僕に、サクラさんはこちらを向くことなく語りかけてきた。


「ヒカルもヒトミも本当に賢いから、私たちの言葉をちゃんと理解してくれるの。

 ……もちろん、【伝心】のスキルも使ってるから、実はそっちのお陰かもしれないけどね」


「いやー、どうかなー。お馬さんて、元から賢い動物だから、意外とスキル無しでも通じてるかもしれないよ?」


「……そうね。もしそうなら、嬉しいわね」


 二頭の馬は頬擦りだけでは飽き足らず、今度はペロペロと頬を舐め、とびっきりの愛情表現をする。

 

 いずれにせよ、ちゃんと通じてるのは確からしく、二頭はひとしきり舐め終わると、道のど真ん中にも関わらず馬小屋でくつろぐかのように座り込むのだった。


「うわぁっ、本当に伝わってるんだ!? 魔法、凄ッ……!?」


 野生はおろか、飼い慣らされた馬でも珍しいであろうその光景に、まるで子どものようにヤスラギは目を輝かせる。


 そんなヤスラギを見た二人は、互いに顔を見合わせクスクスと笑うのだった。

名前:煙山夜香

年齢:15(10月4日)

性別:女

容姿:159cm、わんぱくなお嬢様

髪と肌:黒のショートボブ、少し日焼けしたイエベ

一人称:ウチ

イメージカラー:金色、緑色

動物に例えると:マーゲイ

似ているキャラクター

(活動報告にあります)

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロイン候補?きたーー(゜∀゜ 三 ゜∀゜) サクラちゃんのテレパシーで感情が伝わってしまうの可愛いです(*´∀`)♪ また読み進めていきますね♪
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