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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
地底の王と天上の神《地底編》
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第五十五話 意外的効果

「「「!?」」」

 

果たしてそこにやってきたのは、狐の面をつけた男と面布をつけた黒髪の女だった。


(い、いやいやまあ王林だろうけど、王林には違いないんだろうけど!!)


しかし全員が驚いている理由は別にある。

狐面の男は片手に酒瓶をつかんでどこかふらふらと歩いており、隣を歩く華女の両手には大量の酒瓶をぶら下げていたからだ。


「紀清殿〜」


何事もなかったかのように挨拶して片手を振ってくる王林だが、そうではない。何平然としてるんだ…ってか、なんか妙に楽しそうだな?


「おま、は?何をしてるんだお前は…」


「いやあ、聞いてくださいよ。ちょうど合流しようとした時に通りすがりに狐の妖がいたもので、彼らが酔っぱらっていたのをいいことに隙をついて面を奪ったんです。あ、ちゃんと騒ぎを起こさないために殺さず記憶を奪うにとどめましたよ?ご心配なさらず」


「いや、何も心配はしていな……情報量がいささか多いな」


「それでですねえ、それはそれとしてその後狐たちを追いかけてきたのでしょうか、狸の妖たちがやってきてですね。面をつけている私のことを狐だと思ったのか、流れるように化かし合いの勝負を挑まれてしまい…つい全勝したら大量の酒をくれまして」


「ええ…(ドン引き)」


「その…王林様はどうやって化かし合いの勝負に勝ったのですか?」


「ええ、ええ。そんなの簡単です。相手に幻術叩き込んで変化させてるように見せかければ一発ですよ。」


「大人げねぇ…」


いやまあ、この場合には神げねえが正しいのかもしれないが。確かにそれなら自分がわざわざ変化する必要ないけど、それでコレだけの量の酒瓶を分取るって相当な事してる自覚はあるのだろうか。


「…いやまあ、うん…それはいいんだが。」


「そういえば先ほどの狸たちは「少し前に狐に奪われた腹いせにお前で晴らしてくれる!」みたいなこと言ってましたねえ。まあ今頃その狐と狸は仲良く隣で目を覚ましてる頃でしょうけど」


「…そいつらはどちらもお前にモノを奪われて記憶消されているわけか…」


「ふふふ。それにしてもこれ、道すがらいくらか呑んでみたのですがなかなか妖のくせに良い酒を作りますねえ。味もクセがなく美味しいです。」


「お前既に呑んでるのか!?いくら普段がザルだからって今ここが敵地であることを忘れてはいないよな?」


「勿論ですよ。それにこの程度飲んだうちに入りません。水です水!あっはっはっは」


(いや確実に何か酔っ払ってはいるだろ!?)


酒のせいなのか妙にテンションが高い王林に紀清は思わず額を抑える。華女は一言も発さないままただ後ろの方で申し訳なさそうに縮こまっていた。主人が破天荒なことをしている自覚はあるようだ。


《そういや王林って酒好きでしたね…その設定今の今まで忘れていましたけど》

(いやそれは流石に知ってるけどさあ…それにしても妖から奪ってその場で飲むなんてことやってのけるとは思わないだろ流石に)


幸いなことに、少しフラついてる程度で呂律もしっかりしているし足取りもまあ普段通りだ。いったいどれほど飲んだのかはわからないが彼が酒に強い気質だったおかげか確かに水だと豪言するほどに酒を飲んだからと言って影響があるわけではなさそうだ…この妙にウザいテンション以外は。


「紀清殿も飲んではいかがですか?なかなか美味ですよ美味」


「う、遠慮する…って無理やり口に押し付けるな!やはりお前変だぞ、普段珍しく酔った時もこんな酔い方はしないだろう!?」


流石に口に無理やり飲み口をあてがわれ文句を言うと、華女がおずおずと片手をあげて「あの…」と口を挟んだ。


「…おそらく、我々が普段、口にする、神酒とは違う、なにかの成分に、当たって、悪酔いなさったのかと…」


(えええ…そんなことってある?)


まあ確かに妖の飲む酒と神様の飲む酒だと色々勝手は違いそうだが。じゃあ尚更マジでこいつ何が入ってるかもわからない酒を飲んだ挙句俺にも飲ませようとしたってわけ!?ヤバすぎるだろ!


「ふふふ、紀清兄は随分心配性ですねえ。私がこの程度で不覚をとるわけないでしょう。むしろいつもより調子が良いくらいです!」


「だろうな…こんなに楽しそうなお前を見たのはここ十数年で初めてだよ」


楽しい気分になってるせいなのかなんなのか、普段は抑えているらしい謎の兄呼びまでもが出てきている。げんなりした調子で言うと、何が面白いのか王林はまた快活に笑った。


「こ、この人が紀清さんのお仲間の神様なのかい…?随分なんだかこう…」

「しっ、言ってはなりません」


(一応酒のせいだと弁明した方がいいのだろうか…)


後ろの方で度肝を抜かれたらしいテンロクと霞ノ浦のやりとりが聞こえてくる。しかし普段の様子を説明するにしてもなんて言えばいい?胡散臭いけど悪いやつではないが容赦はなくて、兄弟おれを場合によっては殺す(世界線もある)ヤバいやつなんですってか?…ダメだな。そっちの方がまずいわ…なんなら酔ってる方が胡散臭さが抜けて十数倍いいまである。

紀清は背後のやりとりから目を背けて説明を放棄することにした。


「でも、オイラびっくりしたよ!兄さんの反応からしてその人が神様なんだよね?そこの狐の兄さん、全然神様の気配がしなかったから。てっきり妖かと思っちゃった。」


「…神の気配がしない?」


「うん、神様だって分かってだはずなのにどれだけ探っても全然神様の匂いがしないっていうか…兄さんと姉さんは意識して嗅ぐとわかるんだよ。神様特有の匂いがあるんだ。まあ多分上級じゃないとわかんない程度の匂いなんだけど…」


そしてうーん、と腕を組んで悩むテンロクだったが、それを見上げて尻尾を揺らした氷雪丸が心話で語りかけてきた。


《もしかして、その酒を飲んだせいなんじゃないですか》

(えっ、匂いが消えた理由が?)

《だって王林と貴方たちの違いなんてそれくらいしかないじゃないですか》

(…まあ、そうだな。妖の酒を飲んだから気配が妖に寄った的な…?)

《さあ…でもまあヨモツグヘイ的なことかもしれませんし。…試しに飲んでみたらどうです?》


「いや、ヨモツグヘイだったらそれ妖から戻れないじゃねーか」


「紀清様、どうなされたのですか?」

「あ、ああいやなんでもない。気にするな」


《馬鹿ですか貴方!》

(いやだってお前が変に不安煽ること言うからだろ!うーん、でもまあそれでより擬態ができるのならまあ…試す価値あるか…)


「王林、少しその酒を分けてくれ」

「師匠!?」


先程まで王林の飲酒を咎めていた立場だった紀清が突然反転し自ら進んで酒を飲もうとしたことで、霞ノ浦が驚いたように声を上げる。

すかさず王林が「いいですよ〜」と酒瓶を俺の手に押し付けてくるので苦笑いで受け取り、一口酒を口に含んだ。なかなか強い酒らしく一口飲んだだけでも少し目眩がしたが、まあ確かに味は悪くない。発酵酒だろうか。


「どうしたのですか、師匠。突然進んで酒を飲むなど……」

「いや、この酒を飲んだことでテンロクがいうように王林の匂いが妖の気配に近いものになったのではないかと思ったのだが…」


正直自分では何が変わったのかわからない。するとテンロクが徐に近寄ってきてスンスンと鼻を動かし紀清の周りの匂いを嗅いだ。


「…!すごい、確かにさっきまでの神様の匂い消えてるよ!わかってても妖にしか見えない。」


「当たりというわけか。王林、その酒は凡陸と冥炎が合流するまで取っておけ。使えるぞ」


紀清がわざとらしく尊大に言い放つと、ケラケラと笑っていた王林も笑いを収め納得したように酒瓶を覗き込む。


「へえ、なるほど臭い消し…確かにその世界でモノを食べるとその世界に認められると言いますからね。華女、貴方の巾着の中に入れておいてください」

「はい」


そうして華女が無限に物が入る術をかけた自分の巾着に十以上はあった酒瓶をしまっていく。

すると、霞ノ浦が何かに気がついたようにハッと顔を上げた。


「…!なるほど、ですから先程師匠はヨモツグヘイと仰っていたんですね」


「あ、ああそうだ。」


(聞こえてたんかい…!)


師匠として偉そうに振る舞っていた手前、なんとなく素の口調がバレてしまったようで気まずい。目を逸らしながら誤魔化すように紀清はその酒瓶を霞ノ浦にもぐいと押しつけた。


「一口でどの程度効果があるかはわからないが、…あまり呑み過ぎてこいつのように酔っても困る。取り敢えず少しは飲んでおきなさい」


「はい」


そのまま霞ノ浦がコクリと飲みこんだのを確認して、紀清はすっかり座り込んで追い酒を決め込んでる王林の腕を引っ張り立たせ背中をバシッと叩いた。


「痛っ」


後ろから抗議の視線が送られるが無視をする。


「行くぞ。テンロク、王都の入り口とやらに案内してくれ」


「任せておくれよ!」



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