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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
地底の王と天上の神《地底編》
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第五十四話 合流的予感

王林を待っている間、紀清は木に寄りかかってぼうっと黒く澱んだ空を眺めていた。

文神でありながらも戦闘に力を極振りしているこの紀清の体では簡易的な結界を張ることもできないため、こうして見つかりづらいところで佇んでおくしかないのだ。


しかし流石に一刻も過ぎようかという頃、全員することもなくなってしまい暇を持て余していた。氷雪丸はその小さい手足での長距離の移動や追いかけっこは流石に堪えたらしく、今は丸くなって足元で休んでいる。


紀清は徐に懐から自分がまとめた“翠河救済ついでにハピエン目指そう考察ノート“(元の名前は忘れた)を取り出し、パラパラと捲った。


例の、好奇心に負けた王林に中身を見られそうになった事件。あの時は後から氷雪丸から聞いて本気で肝を冷やしたが、異世界である日本の文字がこの世界の人間には読めないことは盲点でありラッキーな事でもあった。いやまあ文字が視認できないわけではないから本気で解読されたら終わりではあるけど。それを取り巻いて色々と面倒なことが起こらなかったのはありがたい誤算だ。

しかし念のためというものがある。なので紀清は結局いつでも懐に入れて取り出して置ける様にしていた。ついでに少し前に逢財から貰った神具であるインクが永遠に途切れない羽ペンも栞が代わりに挟まっている。これはあり得ないくらい便利だ。こういうインクを持ち込めない遠出の場で役に立つし、なんなら簡易的な符を書くことくらいならできなくもない。本当は筆とかの方がいいが。


(…うーん、結構絞れてきた様な気もするんだがなあ。肝心の本人の状態がわからないからにはどうにも)


そのまま手に持った羽ペンで【翠河が夢妖の言う“地底の王”になっていた時はどうするか】の項目に“なんか戦うとやばそうなのでできれば穏便に話し合いをする”と書き込み、その後ろに小さく“多分無理!”と付け加える。


(うん、いやだってそんなのでなんとかなる様な甘い展開あり得ないだろうからなあ…話し合いで解決すればこの世に争いなんてものはねーんだわ。)


紀清は転生し神様の世界にやってはきたものの、やはりここが小説の世界であると思っている限りメタ的思考は抜けないものだ。しかし今はそれが役に立つ。

“闇落ちした主人公がかつての師匠を倒して悪の頂点に君臨する“ルートにしても、“師匠が主人公を正気に戻して主人公が再び正しい世界を歩けるようになる”ルートにしても絶対にその合間で一戦は交えるのが世の中の定積だ。なぜならここはアクションファンタジーの世界だからだ。

なんなら引き立て役の師匠おれは展開の中で主人公の正気のためだけに死んだって構わないだろう。絶対に嫌だが。そしてできれば闇の帝王ルートは勘弁してほしい。



……俺も一応、何年も目をかけて育ててきた我が子同然の翠河のことはそれなりに心配なのだ。できれば、今すぐにでも思い出してくれないだろうかと常々思う。もう彼の「師匠!」と呼ぶ声すらも頭から霞んで消えそうになるたびに焦りが積もり積もっていく。



霞ノ浦は仕事をしているとでも思っているのかこちらをチラチラと見るものの特に何も言わず自分の持っている巾着の中を取り出して種の選別を行なっていた。幾つか発芽しているものがあり扱いに困っている様だ。なるほどそういう気をつけるポイントがあるのか…


すると、先程までは興味深そうに霞ノ浦のそばでその作業を見守っていたテンロクと不意に目があった。小動物のような俊敏さでこちらに駆け寄ってくる。


「ねえねえ兄さん、聞きたいことがあるんだ。」

「なんだ」

「これから来る人って何人なんだい?どんな人?おんなじ神様なの?それともオイラみたいに妖の友達とか?」

「…今から来る者たちは二人と1匹、胡散臭いやつだが悪い奴ではない。同じ五神とその従者だ」

「へええ…!!すごいや、オイラ今日で二人も五神と会えるんだ!その人とも友達になれるかなあ」

「…どうだろうな」


嬉しそうに頬を染めるテンロクに、そもそも全員集結した暁には五神のうち四柱と出会うことになるんですけどね、なんてことは今は言わないでおいた。


というか王林友達になろうとするとはなかなかチャレンジャーだな…

自分でさえなんかよくわからんうちにあっちから友好的になっていたものの、今王林がわかりやすく友好的に接しているものなど五神と木谷派の弟子達くらいしか心当たりがない。それ以外の神には無関心か攻撃的だ。妖なんて殲滅対象程度にしか思っていないだろう。

…つまり、妖であるテンロクが友達になれるかどうかは保証できない。


(すっかりこの子に情が移ったな…でもまあ、あんまり子供の泣き顔とか見たくないから王林には大人の対応をしてもらいたいところなんだが…)


神になっても人間関係で頭を悩ませることになるとは思わなかった。

そうして紀清が思わぬところで頭を捻っている時、不意に遠くの方から足音が聞こえてきた。


(お、王林たちきたか…?)


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