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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
地底の王と天上の神《地底編》
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第五十三話 術符的会話

紀清を含めた主神達の声が脳内に響く様に伝わってくる。しかし術を扱うことを得意とする文神である王林はその精度にまず驚いた。普通この様な術を神派の繋がりもなく御使でも血族でもない者たちが行った場合、言語が崩壊したり水中の如くくもって聞こえたり、会話の内容がわかれば御の字といった程度にしか通話としての機能が保証されていない事がほとんどなのだ。


(さすが逢財様。御使と主神の間での心話よりも難しい条件の中、ここまでの精度のものを制作できるとは。)


しかもそれを本人の手を離れた札に仕込むなんてとてつもない力が必要なはずだ。

改めてその桁違いさを実感した王林は(いつまでもあのお方には敵わないな…)と目を伏せて彼らの会話に参加するために自らの額に手を当てた。


「…翠河の手がかり、ですか。こちらは何の収穫もありませんでしたが…それは確かな情報なのでしょうね?」


『ああ、全ての妖が嘘でもついてこちらを騙すような手の込んだことをしていない限りは正確な情報のはずだ。調べた結果、この地底の中央に王都という場所があることがわかった。そこに行けば翠河に会える可能性が高い』


『王都とは…それまた奇怪な。もはや無法地帯であるこの地底に都なぞ作ってもそこに意味があるとは思えんが…』


『紀清はどうしてそこに行けば翠河に会えると思ったの?』


『それが、どうやら今の地底は私たちがかつてきた時と様子が違う様だ。もはや十年前の地底の常識は捨て去った方がいいだろう。実際、中級たちの村もあれば妖の営む市場も存在した。…その裏には、翠様という者が十年前にやってきて、王となることで地底の文明を底上げしたという事実がある。』


『翠様…翠。…それって確か翠河の人間の時の名前よね?これは偶然かしら』


『偶然なはずがない。夢妖は翠河が地底の王であることにやけに執着していた。…だからおそらくその翠様と呼ばれる王は翠河のことだろう。そしてその王は何故か王都に上級の妖のみを集めて軍を形成しているそうだ。』


「上級の妖のみの軍、ですか。それはなんとも不穏な…」


『…そうだ。噂によると、天上界へ乗り込んで戦争を仕掛けるつもりらしい。もし翠様というのが全くの別人で、翠河に会うことができなかったとしても王都に行く価値は十分にある。そのため、我々は今からその王都に妖として潜入しようとしているのだが…』


そこまで聞いて、王林は思わず驚きに目を見開いた。

王都の話が知れただけで十分な収穫だというのに、まさかこの兄は上級の妖だらけの王都に潜入なんて危険な真似をしようとしているのか。もしバレたらどうするつもりだ。慌てて事情を説明する様言い募る。


「待ってください、王都にどうやって入るというのですか?我々は場所も知らないでしょう。そもそも入れたとして、神である我々に擬態などといった妖のような能力はありませんよ。せいぜい不認識の術を使う程度しかできないはずです。あなたに可能なのですか」


もし危険ならば止めるべきだ。そう思った王林だったが、続いた紀清の言葉に思わず怪訝な顔を晒すことになる。


『ああ、実は村があるということを知らず入ってしまったのだがそこが共喰いの村だった様でな…神だとバレた時、追われているところを運良く善良な妖が助けてくれたのだ。その妖には流石に事情の全ては説明はしていないものの、探し人がいると伝えてある。今も横にいるのだが、彼が王都に案内してくれると。』


「…その妖は本当に善良なのですか?騙そうとしているのでは?信用に足りますか。」


『そればかりは追求しても仕方がない。私たちには他に道がないのだから。たとえ騙されていたとしても、今はその妖を信じるべきだ。聞くに、その王都という場所は我々だけでたどり着くことは不可能の様だ。』


「…そうですか。仕方ないですね。確かに紀清殿以外これだけ歩き回っているのに何も手がかりを見つけられていないのを見るにその妖を逃せば次はないでしょう。…では擬態についても教えていただけますか。」


『擬態については、上級だと偽り仮面をつけるのが最も良い。上級の妖はその階級を示すために人間の姿でいることが多く、その場合自らの種族を仮面で示すそうだ。勿論我々の世界の如く煌びやかな面は不相応なので地底に流通しているものを身につける方がいいだろう。』


『ふむ…なかなか難しいな。未だに我らの進んできた道では中級以上の妖を見ていない。市というのもそう簡単に見つけられるかはわからぬ。仮面の入手だけで手間が要りそうだ』


『まあ、とにかく私たちは紀清の元に合流したほうがいいってことよね。この札を使えば互いの居場所がわかるようだし…あら、どうしましょう、私たち結構遠いじゃないの。紀清より凡陸の方が近いわ。』


『…そうだな。冥炎と凡陸が近く…私と一番距離が近いのは王林の様だ。』


こうして心話を繋げることによってわかったのだが、どうやらこの札は神力を込めている間は互いの居場所が大まかにだがわかる様だった。闇雲に捜索するよりもそれを利用して合流するのが手っ取り早い。王林はそれに一つ頷いた。


「では、ひとまず位置の近いもの同士でまとまりましょう。私と紀清殿、冥炎殿と凡陸殿…それから紀清殿の向かう方向を皆で目指せば、王都に辿り着けるのではないでしょうか」


『それがいい。では、私は王林が来るまではこの場所で待っておく。偶然にも妖もあまり通らない良い居場所をを見つけた。…ああ、それと忠告だ。どうやら傀儡として作られた死鳥が地底全土を見回っているらしい。それに見つかってしまうと厄介なことになるだろう。もし怪しい鳥を見つければできるだけ身を隠し、早めに顔を隠すものを手に入れた方がいい。どうにか入手してくれ』


その言葉を最後に心話が途絶えたのを確認し、王林も札に込めた神力を弱めた。心話こそ切ったものの居場所を探るための力は残してある様で、紀清のいるであろう方向から水の気を帯びた神気が伝わってくる。


(面…面ですか)


王林は顎に手を当てて考え込んだ。

実はこの全ての会話は同じく札を持っている一番弟子や華女ももちろん聞こえていたのだが、主神同士の会話に口を出すわけにもいかずみんな黙っていた。


「聞こえていましたね、華女。あなたはその面布があるからいいでしょうが…私ですね、問題は。文神ゆえあまり地底に顔を出した覚えはありませんが、一応は古い神の一人なため顔が知られていてもおかしくはない…」


とりあえずそれは紀清に会ってから考えようかと結論づけた王林は紀清のいる方向に歩みを進める。ようやく毒の花の道を抜けることができた二人は、やがて向こう側からやんやと騒ぎ立てながら妖が2匹やってくるのが見えた。


「それで狸の旦那はなんて言ったんだい?」

「ふふふ、それがのう」

「なんじゃそれは!愉快愉快」


酒甕を片手に千鳥足で歩いてくる二つの影。それらはどうやら狐の妖の様だった。二本足で立っているが見た目は獣のまま…ということはつまり中級だ。しかし、運がいいというべきか彼らの右の1匹の頭にはお面が付いていた。その作りは決して神聖とは言い難いもので目は糸目に吊り上がり、黒の下地に赤で紋様が描かれていた。

そこで王林はあることを思いつく。徐に扇を顔の前で広げ意味ありげに「ふむ…」と呟いた。


「…華女、いいことを思いつきました。協力していただけますか」


「…はい」


華女はその“いいこと”の想像がついたのか、憐れみを帯びた目で何も知らずにやってくる妖たちを眺める。しかし主人の命令とあらば仕方ない。哀れみこそすれ、妖に遠慮なんてものは必要ないだろう。華女はそっと束縛の術符を構えた。


それからは予想通り、その妖から剥ぎ取った面をクルクルと指の上で器用に回した王林はそれを自分の顔に嵌め、満足げに笑った。紀清がこの場にいればきっと(その姿で扇を揺らすと胡散臭さが二倍増しだな…)なんて思ったことだろう。とにかく、王林は見事に面を入手することに成功したのだ。


「いやあ、親切な妖たちがいて助かりましたね」

「…そう、です…ね…」


華女は若干気まずそうに目を逸らした。その妖たちにそっと合掌しながら忘却の術を施す。彼らは必要な犠牲だったのだ。


「さて、紀清殿の方向はあちらですね。いきましょう」

「はい」


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