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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
地底の王と天上の神《地底編》
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第五十一話 友好的少年

謎の手に導かれるまま岩陰に隠れて追手をやり過ごす。霞ノ浦と氷雪丸も共に隣の岩に身を潜めた。妖達はしばらく付近を捜索していたものの、やがて見つからないことで諦めたのか来た道をぞろぞろと帰って行く。


「チッ、逃げられたか」

「上級にあげてもらえるチャンスだったのになあ」

「仕方ない、今度見つけたら確実に殺そう」

「首さえ献上すれば体は食っちまってもいいんだよなあ?」

「バカだね、アンタには肉一片やらないよ。アタシが最初に捕まえるんだからね。神がノコノコ地底にやって来たんだ、この機会を逃してなるものか」


まるで百鬼夜行の如く一列に連なった妖達が完全に視界から消えたのを確認して、紀清はほっと息を吐いた。助けてくれた礼を言おうと隣に視線を向ける。しかし予想していたより低い位置にあった頭に驚き少し視線を下げたところでその人影がぴょんと立ち上がった。


「ふー、やっと行ったよアイツら!兄さん達、大丈夫だったかい?災難だったね、あそこの村の奴ら平和主義を気どってるけど本当はみんな弱いから早く昇格したくて新入りを騙して食ってる野蛮な奴らなんだ。だから森に入って行くのが見えたとき、助けに行こうと思ってずっと後をつけてたんだけど…まさか神様だったなんて驚いたよ」


その少年は「ほら、もう出てきても大丈夫。」と言って紀清と霞ノ浦の手を引き立ち上がらせ、満足げに頷くと橙色の短い髪を靡かせて下から紀清達の顔を見上げる。その背丈は霞ノ浦の胸元ほどしかなく、ひどく小柄なように感じられた。

霞ノ浦が戸惑ったように礼を言う。


「助かりました…ありがとうございます。ところで、あなたは一体…」


「オイラはテンロク!今日はたまたま見回りに出てたらすごく綺麗な格好をした兄さん達が歩いてるのを見つけて不思議だなって思ってついてってたんだ。勝手に後なんてつけてごめんよ。でも結果的に助けられてよかった!」


明るくずっと後ろをつけていたと言った発言をするテンロクに焦ったのは紀清と氷雪丸だった。


《えっ、ちょ僕たち結構こっそり口に出してメタっぽい会話とかしてましたけどまさか見られちゃったりしてませんよね!?》


(た、多分大丈夫だろ!大丈夫だと言うことにしておこう、うん!それに地底の妖にならバレたって別に問題はない…はず)


こそこそと心話で会話する二人をよそに、少年は霞ノ浦のことが気になったのか近づいていき首を傾げた。


「兄さん達は神様なんだろう?紀清ノ神とその御使は地底でも有名だから知ってるけど、オイラはあんまり神様に詳しくないんだ。姉さんの名前は一体なんて言うんだい?」


「私は霞ノ浦と申します。水泉派の神の一人です」


「霞ノ浦!いい名前だね、美人な姉さんにぴったりだ」


そうしてニッコリと笑みを浮かべたテンロクという少年を紀清は少し離れたところから眺めながら(もしかしてこの少年、タラシか…?)なんて思ったが、そんなことはどうでもいいと足元にいる氷雪丸に心話を使って話しかけた。


(テンロク…そんな名前のキャラなんていたっけか)


《いえ…少なくとも原作にはいませんでした。ただのモブか、もしかしたら夢妖と同じくこの世界に発生したイレギュラーの一人なのかもしれませんね》


(イレギュラーの一人だった場合、こいつももしかしたら夢妖みたいに厄介な奴の可能性もあるってわけか…多分妖だもんな)


先ほど妖に襲われたのもあって、警戒した様子で観察している紀清達気がついたテンロクは、邪気のない笑顔を浮かべて警戒しないでとでも言うように両手を広げて近づいて来た。


「安心しておくれよ、オイラは兄さん達のこと絶対御上に伝えたりなんてしないからさ!じゃなきゃわざわざ助けないよ。でも今地底は王様のせいで神様に対して敵対心が強いから、ちょっと気をつけたほうがいいかも。さっきみたいにわかる人には分かっちゃうみたいだから」


「そうですね、先ほど師匠の顔を知っている妖がいたわけですから…面などがあったほうがいいのかもしれません」


「そうだね。それがいいよ。よかったらオイラが売ってるところ探してこようか?今の地底には定期的に開かれる市があるんだ!」


「そうなのですか?不思議ですね、いつのまにか地底でそんなに文明が発達していたなんて…」


霞ノ浦が感嘆して口元に手を当てた。しかし少年はハッと顔を上げると「でもオイラ、お金持ってないから買ってあげることはできないんだ。ごめんよー」と申し訳なさそうに両手を合わせる。

その少年のあまりにも友好的な様子に、紀清はうっかり警戒を解いてしまいそうになり慌てて頭を振った。なぜかこの少年には翠河と似たような…うっかり心を許してしまう類の素直さがある。

それが全て演技により作られたもので、紀清達を騙そうとしているとかの可能性を除けば、相当性根が善なのだろう。


「…テンロクと言ったか、感謝する。おかげで助かった」


「いいんだ、気にしないで!兄さん達は自分から妖を狩ろうとしてここに来たわけじゃなさそうだったからね。にしてもどうしてわざわざこんな地底の奥までやって来たんだい?流石にここら辺にはわざわざ地上まで出て行く妖はいないよ。なにか探し物でもあるのかい?」


「…」


紀清はこの少年を信用するべきか考え込んだ。

地底にいると言うことはおそらくこの少年が妖であることに間違いはないのだろう。しかしその姿は殆どが人間と同じもので、つまりこの少年の見た目に油断してしまいそうだが彼は立派な上級の妖の一人ということになる。


(でもなあ…なんか、めっちゃただのいい子っぽいんだよなあ。…ここは賭けるべきか)


紀清は自分の直感を信じて、この少年に協力を求めることにした。先程の村で得られた情報は大きかったものの、結局このまま少年と解散して地底を歩き回ったところで先程のように妖に襲われるか迷子になる未来しか見えない。それよりはこの少年を頼ってみる方がいいだろう。

しかし流石に馬鹿正直に『目的なんて、お前達の王様を天上界に連れ戻すことに決まってる!』なんてことを言えばこの友好的な少年さえも敵に回すことになってしまう。

紀清は直接的に目的を告げるのはやめて、遠回しに手がかりになることを聞いていくことにした。


「探している者がいる。」


「そうなのかい?神様が地底に人探しなんて珍しいこともあるんだね。オイラで良かったら探すの手伝うよ、さっきやるべきことも終わった後だし!その探してる人ってどこにいるのかは分かってるのかい?」


「ああ…おそらく、王都にいるだろう。」


正確には王都というかそこのトップの王様なのだが。

紀清のその言葉を聞くと、テンロクは少し悩んだ後「王都かあ…それは難しいなあ。」と呟いた。


「難しいとは、どういうことだ。」


「王都には特別な結界が張ってあって許可された者しか通れないんだよ。だからこんな感じの通行手形が必要なんだけど…」


そう言ってテンロクは腰にぶら下げられた術の施された小さな勾玉を手のひらに乗せた。

やはり、この少年は紀清が睨んだ通り上級であることに間違いはなかったようだ。王都に入る許可があるということはそういうことなのだろう。

そのままうんうんと唸っていたテンロクだったが、やがて手のひらと拳を合わせて名案とでもいうように「そうだ!」と声を上げた。


「じゃあオイラが連れて行ってあげればいいんだよ!オイラの後ろについていけば兄さん達も入れるからさ。この通行手形を持ってる人がそばにいれば本人だけじゃなく周りの人も入ることができるんだよ」


「…いいのか。」


「うーん、オイラの小さい頃はよく神様は怖い人達だって聞いてたんだけど…でもなんか兄さん達は想像してたのと違っていい人そうだったから!オイラのこういう勘は当たるんだ。でもオイラが神様を連れて来たってバレちゃったら大変だから、入り口の近くくらいまでしか案内できないかも。それでも良かったらできる限り協力はするよ!」


そう言って少年は拳をギュッと握る。紀清はそんな至れり尽くせりな状況に思わず心の中でガッツポーズを決めた。こちらから何も言わなくてもめちゃくちゃいい方向に話がいっている!ありがとう少年!

まあしかしこれでテンロクがすごい演技派なだけでこちらが完全に騙されているだけの可能性も捨てられないのだが、今ここでは彼を信用しておくのが得策だろう。紀清は今ここで彼の手を取らなければこの後結局今までと同じようになんの成果もなくただ天上界にすごすごと帰ることしかできないだろうとため息を吐いた。


一歩前に出て、彼に視線を合わせるために屈んで片手を差し出す。それを見たテンロクが笑顔を浮かべてその小さな両手で握ったところで、紀清も初めて僅かに口の端を上げた。


「…よろしく頼む。」



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