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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
第四章 師心あれば弟子心《修行編》
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第二十九話・裏 世界が認めた主役達の閑話

「あっ!水泉派の子たちきたー!」


「やっとか!おい翠河、早くこっち来いよ。オレは今すぐ妖を狩りに行きたいんだ!」


翠河と霞ノ浦が集合場所に駆けつけると、既にそこには引率の凡陸と愛爛、阿泥、吽泥が集まっていた。

こちらに気がつき大きく片手を振る愛爛に霞ノ浦が小さく手を振り返し、翠河は駆け寄ってきた阿泥に力強く肩を組まれる。


「…凡陸様。これで全員集まったよ。」


「ああ。まあ、まだ出発の時間には余裕がある。自分は今回の妖の発生地を改めて見直しておくのでその間は好きに話でもしておいてくれ」


「は、はい!」


凡陸に元気な返事を返しつつも、肩を組んできた阿泥の方が翠河よりも背が低いため翠河は腰を落とした不恰好な形になってしまっており、そのままの姿勢で困ったように頬を掻いた。


「ごめんね、阿泥。ちょっと師匠が出かける時の準備を手伝っていたら出発が遅くなってしまって…」


「お前ってほんとにお師匠サマのこと大好きだよなあ。普通弟子がそこまで身の回りの世話焼かないって!使用人とかいないのかよ」


「水泉派は師匠の方針で雇いの神は置かないようにしてるんだ…それにこれは私が好きでやってることだからいいんだよ」


「ふーん。土丘派は洗濯とか掃除してくれる付喪神達がいるのにな。まあ神派によって色々違うのは知ってるけどさあ…ま、そんなことはどうでもいいんだ!早く妖退治だー!」


「もう、そんなはしゃいでたらいつかうっかり攻撃くらっちゃうかもしれないよ」


「知らねえよそんなん。強い奴が来てもオレがバリバリ頭から食ってやる!」


意気込んだように鼻息荒く宣言する阿泥のその発言に(妖なんて食べたらお腹壊しそうだけどな…)と思った翠河だったが、それが彼らの戦闘スタイルの一部であることを知っているため余計な口を挟むことは控えた。


翠河と阿泥が話をしている間、霞ノ浦と愛爛は笑みを浮かべながら談笑している。


「それでねっ!その時相手の男の子、なんて言ったと思う?」


「さあ、予想もつきません。一体なんと?」


「貴方のことを一生かけて愛し抜くと誓います!だって。きゃーー!」


「あらあらそれはまあ…言われた相手もとても嬉しかったでしょうね」


二人は同期内唯一の女子同士ということで気があったのか、いつも楽しそうに愛爛が話題を振りそれに霞ノ浦が穏やかに応えるというやりとりが行われている。翠河の目には霞ノ浦が恋の話題を楽しそうに語っている姿が珍しく映り、やはり異性の自分とは違って同性の神と話す方が楽しいこともあるのだろうなと微笑ましく見守ることにした。


「凡陸様、ここはこっちの森から攻めた方がいいのかな」


「否、それではこちらの川に挟まれるぞ。それよりはこちらの案の方が良い。」


「なるほど。でもボクの戦い方だとこっちのやつも掛け合わせた方がいいよね」


「ああ、己の弱点をよく理解しているな。お前の刀は薄く鋭いのが特徴だ、その方法が一番いいだろう」


「ありがとう凡陸様。ボクこれで頑張ってみるよ」


「お前は戦いに夢中になるあまり“いつも”のようにならないように注意するのだぞ」


その間、吽泥は凡陸と今回の目的地について話し合っているようで、翠河の元にも所々戦術の話題が漏れ聞こえてくる。

阿泥と吽泥はどちらも戦闘に対してとても熱心なのだが、勢いと野生の勘で突っ切る阿泥とは違い吽泥は罠や戦術を立てて攻略することを好む。凡陸と共に妖の報告書を見ながら戦略を立てているのだろう。


「吽泥ってば、どーせ戦い始めたらあんなの頭からすっぽ抜けるくせに意味あんのかね」


「うーん。まあ、突っ走りがちな君をちょうどいいところで止められるのは吽泥だけだから多分意味はあるんじゃないかな」


「なんだよそんな人を暴走した獣みたいに!」


「君に関しては八割がたその通りじゃないか…」


怒りで頬を膨らませ尻尾を左右にブンブン振る阿泥に翠河は苦笑いを浮かべた。

阿吽の兄弟は確かに戦闘の面では流石土丘派だけあって目を見張るものがあるほど見事で頼れるのだが、二人とも熱中するにつれて暴走しがちなところがあるのが玉に瑕だ。


翠河はこの間任務地が近かった時に偶然見かけてしまった、阿吽の二人が目を光らせながら暗闇で妖に喰らい付き刀を滅多刺しにしている場面を思い出し身震いをした。普段は阿泥のストッパーである吽泥も、一度スイッチが入ってしまえば阿泥以上に静止することは困難で、いつもの口数の少なさはどうしたのか、敵へ語りかけながら無表情のまま嬲り殺しにするのだ。元々獣の神は血の気が多いとは言うが、それは付喪神にも有効なのかなあ…と翠河は少し遠い目をした。


「よし、子らよ。準備が整ったので今から出発するぞ。まず向かうのは彩玖さいきゅうの山の森だ。中に入った人間が次々と襲われ、死者は未だいないながらも大きな怪我を負っているらしい。おそらく妖の仕業であろうな」


「成る程、それは大変だ。早く退治しなければ」


「ねえ凡陸様ー、ほんとに誰も死んでないの?」


「ああ、そのはずだ。実際自分の御使にも行って様子を見てもらったが人を殺せるほどの強い妖の気配は感じなかった」


「なんだあ、つまんないの。そんなのすぐに終わっちゃうよ」


「もうっ!阿泥ってばいっつもそうやって余裕みたいな顔しといて、実際はいつも吽泥が居ないと最後まで倒し切ることできてないじゃないの!」


「うん。そうやって虚勢張るの阿泥の悪い癖だよ。ボクたちはまだ半人前なんだから」


愛爛に続き吽泥までもが乗っかるようにそう言ったため、阿泥は痛いところをつかれたと言わんばかりに顔を歪め、すぐに大声で言い返す。


「うるせー!小物くらい一人で倒せるし!吽泥のサポートなくても余裕だし!」


それを側から見ていた霞ノ浦と翠河は困ったように笑みを浮かべた。


「あらあら…」


「ちょっと、出発前に喧嘩しないで。凡陸様が困ってらっしゃるでしょう。いいから行くよみんな!」


凡陸はそのやり取りを見守りつつも「このまま移動してもいいものだろうか…」と言わんばかりの表情を浮かべ、転送陣の側に控えたまま頭を掻いている。それを鋭く見つけた翠河が阿泥と吽泥の手を引っ張って転送陣の中へと連れ込むと、やがて霞ノ浦も愛爛と手を繋ぎながら中へと収まった。

翠河はその時愛爛と霞ノ浦が所詮恋人繋ぎと言われる手の組み方をしていることに疑問を持ったが、よく考えれば愛爛が距離が近いのはいつものことだったためやがて視線を外した。


「それでは、向かうとするか。」


「はい!」


眩い光があたり一帯を包む。そのまま数秒もたたないうちにその場に立っていた全員の姿は掻き消え、後には物言わぬ赤い陣だけが残っていた。



▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎



その数日後。


「______阿泥!吽泥!凡陸様!!」


「そんなぁっ!みんなケガレがいっぱい体に…!」


「とりあえずこの札で応急処置を。一体なんなのですかあの妖は…」


何事もなく終わるかと思われた狩りは、突如現れた異形の妖の手により土丘派の三人の負傷という結果で終わってしまい、この時の出来事は翠河たち五人にそれぞれ違う思いを抱かせた。しかし、皆共通する思いがひとつだけあった。


力をつけなければ、より、強くならなければ。


翠河は、紀清に促され自室に帰った後一人掌を強く握りしめた。

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