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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
第四章 師心あれば弟子心《修行編》
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第二十九話 仮定的認識

結局その犯人に心当たりもなく、目的もはっきりとはわからないままな為話も平行線で終わってしまい、主神達には仕事もあるため一旦弟子たちを連れてそれぞれの屋敷へと帰ることになった。


「では、また後で使いを来させる」


「わざわざすまんな紀清よ」


五神として放っておくわけにもいかず、凡陸に見舞いとして水泉の泉から汲んだ聖水を分ける約束をして部屋を出た。後ろの方では王林が凡陸に薬草を渡している声が聞こえてくる。


紀清は心配そうに阿吽兄弟を見る翠河と霞ノ浦の手を引いてその場を去った。


「師匠…阿泥と吽泥は大丈夫なのでしょうか」


「ケガレの大半は凡陸が受けていた。あの双子もすぐに目を覚まし力を取り戻せるだろう。」


「情けありません…私たちが油断したがために、他派の主神様に庇わせてしまいました。」


水泉邸に戻るまで一言も発せずついてきていた翠河と霞ノ浦だったが、門を潜ったのを皮切りに落ち込んだように肩を落とし反省の言葉を漏らし始める。どうやら自分たちの力不足を人に庇われたことによって実感してしまったことで、心底落ち込んでしまっているらしい。


(でもなあ…これ多分今の時期の翠河達には早いイベントだろうしそりゃ敵わなくても仕方ないと言うか。)


「凡陸は気のいいやつだ。きっと気にしていない」 


「しかし!…自分たちが、許せないんです。」


そういって手を血が滲むほど握りしめて悔しさを明らかにする翠河や霞ノ浦の姿に紀清が心動かされないはずもなく、つい頭に手を伸ばす。そのまま二人の頭をやや乱暴に掻き撫でた。二人は突然過ぎて驚いたのか目を丸くしてされるがままになっている。


「お前達はまだやってきたばかりだろう。神格はそう簡単には上がらない。我々が力をつけるためには地道な鍛錬が必要だ。そんなお前達が敵相手に攻撃を喰らわせ、倒したと言うのだから十分すごい。もし私や凡陸に庇われたことが嫌だったのなら…そうならなくてもいいように、修行を積みなさい。」


そう言って(少し師匠らしいこと言えたな…)なんて考えながら体を翻すと、後ろから感極まったような若干震えた声の翠河が紀清の背中に向かって宣言するように言葉を投げた。


「はい!いつか…師匠の背中を任せてもらえるくらいに強くなりたいです!いえ、なってみせます!」


「きっとお前ならなれる」


(なんせ我らが主人公様だし)


そのやりとりを微笑ましげに見守っていた霞ノ浦にも声をかけ、そのまま二人には部屋に帰るよう言い渡して紀清は自室へと戻った。

先に部屋の中にいた氷雪丸が体を丸めながら一つ欠伸をこぼす。


「いやあ…なんかすごい話になってきましたねぇ」


あまりにも呑気なそれに、紀清は先ほどまで被っていた立派な師の皮を投げ捨てて思い切り叫んだ。


「おいお前、マジで何この一連の出来事!!なに強化個体みたいなあの妖!隠し設定とかじゃなくて?マジで知らないの?何にも!?」


その勢いに押され、耳をぺたんと伏せた氷雪丸は反論するために口を開く。


「知らないものは知らないんですって!勘弁してください、一番混乱してるのは僕なんですよ!!」


「うるせーー!あのケガレ受けた時実は主人公関係ないシンプルな命の危機が迫ってたって改めて理解したんだよ!こんな反応にもなるだろ!!!」


「そうですけど!結果的に命助かったからいいじゃな…い……

あの、いやちょっと待ってください…今何か思い出しそう…」


そう言ったきり突然無言になった氷雪丸を紀清はじっと睨みつけるように眺める。

しばらくして、器用に掌を拳でぽんと叩いた氷雪丸は「この状況なんか見覚えあるなと思ったんですよ」と納得したように何度か頷いた。


「なに!?なんか心当たりあるんならすぐに言えよ!こっちはちょっとでも説明が欲しいんだ」


「いや心当たりというか!…ただ前回僕が紀清だった時、原作改変した末に主人公を地底に落としてから何故か全く知らない設定どんどん出てきたこと思い出しまして…なんか今のこの状況それっぽいなあと」


紀清の訝しげな視線をスルーしながら、昔のことを思い返すように氷雪丸が目を細めて宙を眺めた。


「もしかして原作改変したらそれだけの分何か変わるとか…?」


「うーんどうでしょう。僕の予想では少し前まであれは原作の流れに戻すための強制力的なやつなのかなとか思ってたんですけど…思い返すとちょっと変ですよねえ。だって、もしちゃんと原作に軌道修正されるのなら本来の王道主人公になるはずでしょう?なのに僕が紀清だった時、結果的に闇落ちしたんですよ。それが一番かけ離れてるはずなのに。」


「まあそうだな。…でも、“紀清が死ぬ”っていう原作と同じルートを辿らせるためにそうなったとかそういう修正だったりしないの?」


紀清という存在をどうにか世界が原作通り殺すためにそういう修正が入ったとかならよく見たことあるけどなあ、と紀清が前世の小説の知識を思い出しながら呟くと、氷雪丸が若干呆れたような声音で返事を返した。


「あなたヒロイン死んでるのに原作修正できてるって言えますか…?紀清って多分ヒロインよりは大事じゃないと思いますけど」


「あー…そうだな」


「なんで余計な設定が湧いてくるんでしょうね…本気で今回の裏で動いてるらしき人物全く予想もつかないんです。僕の書いた設定の中で、そんな動きしそうなキャラ誰もいないんですよう」


「ええ…マジでお手上げってことか。じゃあもうなるようになるしかないんじゃね」


諦めたように紀清が肩をすくめながら椅子に腰掛けると、氷雪丸が呆れたような目で「いやいや」と言葉を紡いだ。


「もし本当にその謎の敵の目的が天上界滅ぼすことだったらどうするんです。呑気に待ってたら今までの紀清みたいに死んでバッドエンドになりますよ。僕みたいにまた違う世界線で違う体でコンテニューとかそんな都合のいいことになるかどうかもわかんないんですから」


「あっ…そうだった。この世界って紀清が生きるのが一番難易度高いじゃなかったかたしか。作者のお前がわざわざ悪役にならないと生き延びれないっていう選択するくらいには…ハァー、忘れてた…」


原作では王林に殺され、目の前のこいつが入っていた時は主人公に殺され…全く紀清ってやつは幸せに生き延びることはできないのか…?このままだと俺は死ぬのか…?


「うーん。でも、僕的にはこのままいけば原作のように貴方が王林に殺されることは多分ないと思うんですけどねえ…」


「いやなんで…?いやまあ確かにあれ以降何故かあいつたまにふらっときたりするけどそれって別に仲良くなったわけじゃなくてお前が目的じゃん。俺が生き延びれる要素全く見つかんないが」


「僕を連れ去って貴方の話をされてるんですー!勘弁してくださいよもう。だからこそわかります!今の王林は多分貴方を殺すほどの思いは抱いてません!………まあ貴方がもし王林を完全無視する方向に走ったら命の保証はしませんが」


最後にボソッと氷雪丸が口にした言葉は、都合良く紀清の耳に入ることはなかった。

そうやってしばらく二人で頭を捻りながら悩んでいると、やがて氷雪丸が「あ!」と何か思いついたように声を上げた。


「ちょっとわかったかもしれません」


「ええ…何が?」


「知らないキャラが今裏で動いてることについてですよ!」


氷雪丸の自身ありげなその様子に興味を惹かれた紀清は顔を近づけてよく話を聞こうとする。


「修正力とかさっき言いましたけど、まるで外れてるわけじゃないです多分!僕の予想では…悪役をこの世界に作ってるんじゃないかと思ったんですけど」


「悪役を作ってる…?あ、成る程!」


本来の悪役である王林はこいつ曰く今は何故か安全らしいし、紀清も(悪役になった先の最悪な未来を知っている俺が中に入っているため)悪役にならない。するとこの世界には倒すべき巨悪が誰もいなくなってしまうわけだ。そうなると主人公の活躍の機会は狭まる…だから、氷雪丸はこの世界に悪役を作ろうとしているのではないかと仮定したということなのだろう。


「まあ今の時点では憶測に過ぎないけど、可能性は高いなそれ」


「ですね。えっ待ってくださいと言うことはそいつ倒さないといけないわけですよね!?強化個体にやられてるようでなんとかなるんですかね!?」


「マジじゃんやべえ!!でも今回俺も凡陸も一応弟子庇ったせいで怪我したわけだから…俺の時はともかくとして凡陸とかは多分普通に戦えばなんとかなったわけだし…と、言うことは主人公御一行には早く強くなってもらわないといけないじゃん!!!マジで頑張って強くなってくれ翠河…!」


紀清は思い立ったら吉日とばかりに急いで近くにあった紙に凡陸への見舞いと合同の修行場である修行洞の使用許可を取りたい旨の文章を書き、扉を開けた先近くに控えていた弟子の一人を呼び止め水泉の聖水と共に金岳邸へ手紙を届けさせた。


「阿吽兄弟が治ったらすぐに主人公達には修行に入ってもらわないと…!そしてついでに水鏡で原作シーンを見るんだ…!!」


「あっ!貴方最後のが目的ですね!!!ちょっと!!」


氷雪丸がツッコミを入れたものの、主人公育成計画に熱を上げ始めた紀清の耳にはその声は届くことはなかった。


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