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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
第四章 師心あれば弟子心《修行編》
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第二十八話 未知的犯人

「ちょっとちょっと!!大変ですよなんか大変なことになってますー!!!!今すぐ出かけますよ!早く!!」


窓から音を立てて白い塊が転がり込む。紀清は手に持っていた筆を取り落としそうになり慌てて近くの書類を横に退けた。


「お前なぁ!!」


そこにいたのは、今朝“御使の獣に召集がかかったので行ってきます”という書き置きだけを残してすっかり今の時間までいなくなっていた氷雪丸の姿だった。


「こちとら今なんでか減らない妖退治の願いを捌くのに滅茶苦茶忙しいの!みてわかんない!?」


「いやわかりますけど!!でもそれどころじゃないんですって!」


「うるせぇ音量下げろ!一体なんなんだよ」


「凡陸さんが大怪我して帰ってきたらしいんですよ!」


「はっ!?」


紀清は思わず素っ頓狂な声を上げた。凡陸といえば、数日前から主人公世代五人を連れて地上に妖退治に行っていたはずだ。その凡陸が大怪我とは。

そもそも負け無しを誇る凡陸が怪我を負うことなんてそうそうないため、相当強い敵が出たということだろうか。


(だとしたらそんな敵に当たった翠河達はひとたまりもないんじゃないか!?もしかして全滅なんてことあったりする?でも主人公一行だぞ!!!)


「えっじゃあ翠河とか他の子達みんな無事なわけ!?」


「そこまではまだわかりません。ただ逢財の御使から早く五神を呼ぶよう言われただけなんで…とにかく!金岳派の本邸に他の主神たち皆今集まっているらしいので、仕事とかもうほっといて早くいきましょう!さあさあ今すぐ!翠河や霞ノ浦が待ってますよ!!」


「ええ待って待って!せめて墨くらいはしまわせて!!」


そのままドタバタと慌ただしく外行き用の礼装に着替え、金岳派の本邸へと急いで向かう。

着いてみれば、門の手前に少し顔色を悪くした愛爛が出迎えの為に一人で待っていた。側に近づくと、すぐに笑みを浮かべ「こっちです!」と主神たちが集まってる部屋へと案内をしてくれる。どうやら顔色が悪いのは神力を使い過ぎたせいらしく、顔や腕に治癒の術の跡が見えたためすでに怪我を治療し終わったあとだったのだろう。

部屋に入ると、愛爛は冥炎の側まで駆け寄り腰のあたりに勢いよく抱きついた。


「冥炎様ーー!紀清サンがきたよ!!これで五神様達全員揃った!」


「あら、お出迎えご苦労様愛爛。それにしても紀清ったら、ちょっと遅いんじゃないの?」


「うるさい。仕事をしていた最中突然呼び出されたんだから仕方ないだろう」


冥炎の軽口に応えながら部屋の奥へ足を踏み入れるとすでに王林が椅子に腰掛けており、その向こうでは凡陸がベッドの上で逢財の札でケガレの治療を受けている姿が見えた。思ったより傷の深そうなその様子に思わす動揺したところで、向こうから紀清のところへ二人が駆け寄ってくるのが見える。


「師匠!」


「お待ちしておりました」


「翠河、霞ノ浦」


二人ともすでに怪我を治療したあとなのか怪我は一つも見当たらなかったが、やはり愛爛同様顔色が悪かった。ここまで来ると双子の姿が見えないことが気になるもので、周りをよく見渡してみると隣のベッドに阿吽兄弟が尾を丸めて寝ているのが見える。凡陸ほどではないものの、こちらからもケガレの妖気を感じる。


「とりあえず私の御使の炉太ろたちゃんに呼ばれて集まってはみたけど…いったい何があったの?緊急会議なんて久しぶりだから驚いたわ。凡陸大丈夫?」


そう言って凡陸の目の前でひらひらと冥炎は手を振るが、凡陸といえばやはり顔にまで及ぶケガレが相当辛いのか眉間に皺を寄せながら唸る様に返事を返した。


「ああ、逢財様の治癒を受けているので先程よりはだいぶマシだ…こんなことになってしまい不甲斐ない。しかし、此度の妖退治なにかと不審な点が多かったのでな。皆にも知らせるべきだと思いこうして呼んだのだ。」


すまない、とか擦れた声で告げた後凡陸がゲホゲホと苦しそうに咳き込んだので、慌てて逢財が背を摩る。


「無理をするナ。お前が子らを庇ったせいで一番重症なんダ。…後の説明は私がしよう」


それから、逢財の口から今回の事態についての説明が行われた。

どうやら、六人は無事に討伐の任務を次々とこなしていたらしいのだが、小物を一体倒したところ、突然背後から不意打ちのように皮膚がドロドロに溶けている犬のような見た目の妖が現れたらしい。


「皮膚が溶けている…」


「ええ、似ていますね。紀清殿が対峙したという妖と」


「そうダ。よく似てイル…そして今回厄介だったのが、どうやら土丘派の剣技を完全に対策されていたようでな…全く攻撃が効かなかったんダ。なあ凡陸」


「うむ…我が派の剣技は波動が地を伝うことで敵の内側へ攻撃が入るようになっている特殊な型なのだが、どうやらそこを突かれたようでな。核以外を全て空にすることで攻撃が通らないようにされていたのだ。」


「土丘派の剣技が、ですか…」


「あア。だから凡陸は苦戦を強いられ、双子も攻撃を通すことができなかったようダ」


「その仕組みを見抜いてから、他の派の者たちの攻撃は効く様だったのでそれで私たちが応戦したのです」


「すでに戦闘を終えたあとだったから神力がぜんぜん足りなくて苦戦ちゃったんですよ〜」


霞ノ浦の説明に補足をし愛爛はしょぼんと肩を落とした。


「また、核に何者かの干渉の跡があっタ」


逢財がそう言葉を発した途端、場の空気が張り詰める。


「…成る程、そういう訳ですか」


「だからこうして全員を集めたのね」


納得したように頷く王林と冥炎を尻目に、紀清も顎に手を当て唸るように口を開いた。


「つまり、ほとんど私の時と同じようなことが起きたわけだな。」


「小物の妖を倒した後に本命が出てきてる点も同じですねぇ」


「…もしかしたら、紀清の時の妖も水泉派への対策がされていたのやもしれぬ」


突然向いた矛先に紀清は内心焦ったが、すぐなんでもないように「ああ」と言葉を返した。


「確かに。よくよく考えればただの妖相手に紀清殿が下手を打つ筈がありません」


「そうよねぇ。紀清、結構強いもの」


王林が紀清の実力を認めていることに氷雪丸と紀清は同時に心の中で驚いたが、思ったより周りから紀清は実力が高く評価されていたようだ。もしこれで別に強化されてたとかじゃなくてただ中身に別人が入ったから紀清が弱くなっただけだったとしたらどうしようかと紀清は少し肝を冷やした。


(いやでもまあ負け無しの凡陸がこうなるんだからもしオリジナル紀清だったとしてもそりゃ怪我くらいしたっしょ…するよな?頼むいっそ強化された妖であれ…!)


「今回の妖を生み出している犯人、何か五大神派に恨みでもあるのかネ」


「狙った様に目の前に出されているようですからねぇ…」


「しかし神派に恨みがあるとなると珍しい…妖を生み出すのならば神の力を持たねば不可能な気もするのだがなあ…神が妖を生み出しても利点は何もない」


「…となると、地底の者だろうか」


「その可能性は高いでしょう」


「一体、何が目的なのかしらね」


「……天上界を滅ぼすとかカ?」


揶揄うように言ったその逢財の発言に、その場の誰もが否定の言葉を返すことができなかった。




(マジで知らん何それ)


《僕も知らない設定出てきた上になんか滅茶苦茶物騒なんですけど》


ただ二名ほど、頭の中を疑問符で埋め尽くしていた者たちがその場にいたのだがそれはそれである。

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