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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
第四章 師心あれば弟子心《修行編》
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第二十六話 不知的設定

「つまり、あの妖は人為的に生み出されたものだったと?」


「はい。逢財様はそう仰られていました。」


「ほう…」


騒がしい出迎えを終えて暫くした後紀清は自室にて情報のすり合わせを行うため、当事者として霞ノ浦と翠河を呼び、時雨を補佐として控えさせ話し合いの場を設けていた。一応氷雪丸にも部屋の隅にいてもらっている。


「霞ノ浦は金岳派の本邸まで行ったんでしたっけ」


「ええ。王林様に“あの妖は何か様子がおかしいので本邸まで向かった方がいい”といった旨のことを去り際に言われたので一度水泉に帰ってから本邸の神官達へ報告に行きました。その際残った妖気などを調べた結果、不自然なところがあったため逢財様のもとまでお話がいったらしく」


翠河と時雨が興味深げに聞き入る中、霞ノ浦により淀みなく紡がれる報告を聴きながら紀清は思わず胸の内で小さくため息を吐いた。


(何この展開知らない…)


そう、そもそも原作でも原作改でも妖によって翠河達が大怪我を負い、親切な民家に保護され…と言う展開へとつながっていたため、妖が変だったとか人為的なだとか言われたって紀清が知ってるわけがないのだ。

無事に帰って来させるという目標を達成しただけで、ここまで原作に載ってない情報が出てくるのかと紀清は目眩を覚えた。それすなわちこれから先のことが予想し難くなってしまったと言うことだからだ。


本邸とは今現在金岳派の敷地内にある天上界の全てを取り仕切るような一番偉い場所で、五神が集まって会議する時は大体ここに集まる。実際紀清も神選の儀の時期に何度か行った事があった。

金岳派の弟子とは別に、役職を持った本邸専属の神官達が日々忙しく駆け回りながら天界の決まりを作ったり罪を犯した神を裁く時に活躍したりする場所である。ちなみに金岳派の管理圏内なので逢財がその総監…つまり一番偉い神というわけだ。そして全ての妖の情報はそこに一度集められる。


と言っても、それらの機関が動いているところはほとんど原作改では描写されていなかったためそこまで詳しく何をするか知っているわけではない。もしかして今回原作を大幅に動かしてしまったせいでそんな大御所が動く様な事態になってしまったのだろうか。


(しっかし…トップの逢財が出てくるとなると、もしかして結構やばいことが起こってるってことなのかもしれないな…原作知識があてにならないのがここまで怖いとは思わなかったぞ正直)


「それではあの妖“溶弟鬼”が何者かの意図で作られたモノだとすると…何処かに妖を作り上げた者がいると言うわけか」


「師匠、妖を作るなんてそんなこと可能なんですか?」


「できない。普通はな」


そう、出来ないはずなのだ。

だってそもそも妖は人間の欲や汚い感情という概念が形を持ってしまったものであり、有り体に言えば肉体だけ得たものの神になりきれなかった余り物みたいなものなわけだ。もし何か生み出せるのだとすれば力の強い妖か神のどちらかだろうが…意図的にわざわざ妖を発生させるなんてことしても神にはメリットは何一つない。それに、あんなに強いの一体作るのにいったいどれだけの恨みの感情が必要になったんだろうか。考えるだけで恐ろしい。


「でも紀清様、もし誰かが妖を故意に作ってるんだとすればそれって大変なことなんじゃ…」


「勿論そんな事許してはおけん。しかし、人為的と断定するからには何か証拠があるのだろう。他に何か神官達は言っていたか」


「はい。どうやら紀清様が見抜いたあの時の弱点…目玉に入っていた核が問題だった様です」


「核か…たしか、あの娘の弟の遺品だと聞いたが」


「ええ。実は私はあのお嬢さんが目覚める前に念の為にと中に入っていた指輪を本邸に提出していました。しかし調べているうちに陰気を集める術がかかっていることがわかったので…娘さんに返したのは浄化を終えてからです。」


それを聞いて、紀清は思わず額を抑えた。つまり…その術をかけた人間がしっかり居るってことだよなあ。紀清は背後の氷雪丸に目を向けないまま、心の中で問いかけた。


(なあ教えてくれよ作者さんよ。これの術かけた犯人って誰なの?こんなの本来の原作にはあった設定なわけ?)


《いやぁ、わかんないんですよそれが。僕溶弟鬼っていう主人公の敵の設定は作りましたけど、人為的に妖作る術とかそんなこと設定にすら一切書いてないですし。…もしかして世界の修正力でも働いたんですかね》


(ええー、お前にわかんないんなら誰にもわかんねぇよ…てか修正力とかそんな怖いこと言うなマジで。その場合最終的にどうあがいても俺死ぬか拷問の二択じゃんか!!)


全く役に立たない奴め、と紀清は自分が原作を改変したことを棚に上げながら口の中でぶつぶつと文句を呟いた。


「あそうだ霞ノ浦、あの人は無事でした?」


「はい。怪我もなくとてもお元気でしたよ。目が覚めた瞬間は何が何だかわからない様子でしたので…妖のことは伏せ、うまく誤魔化しておきました。」


そうして指を軽く鳴らすと「忘却の術をかけたのです」と言いながら霞ノ浦が微笑む。そのあまりに鮮やかな手口に翠河は若干慄いたものの、すぐに流石だと手を叩いた。そのまま質問する時の様に片手を上げ霞ノ浦に問いかける。

 

「もしかしたら、人為的に作られた妖だったからあの溶弟鬼は見た目がどろどろの失敗した人間みたいになってたんでしょうか」


「その可能性はありますね。私も今まで地上に居た時に幾らか妖を見たことはありますが、あそこまで原型がはっきりしていないものは初めて見ましたから…」


「ええっ!ってことはつまり弟を亡くして傷ついていた娘さんの弟の遺品を勝手に使って、無理やり妖を作り出した様な人がいるってことだよね…なんてひどい…」


「あの娘の願いが願欲に近かったため、その陰気をおそらく利用されてしまったのでしょう」


「たしかにあの子一人の願いであれだけ強力な妖ができるとは考え難いですね」


「もしかして最近妖退治の願いが増えてるのってそう言うことなのかな」


「なるほど、人為的に作られた妖が他にもいるかもしれない」


「もし全部あれほど強いのなら討伐にてこずってしまいますね」


次々に自分の考えを話し合い始めた三人の姿を後ろで眺めつつ、紀清はひとり遠い目で窓の外を眺めた。


(ただでさえこっちはこっちで手一杯なのに、また何か考えないといけないこと増えたんだが…)



しかしそれからしばらくしても、紀清達がこの時の様に核に外部から干渉した跡のある妖に出くわすことは無かった。


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