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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
第一章 悪役転生なんて猫も食わない《出会い編》
3/68

第一話 衝動的批判

『八百万戦記』という作品をみんなは知っているだろうか。

簡単に説明すると、大人気漫画家自ら手を挙げ漫画化が決定、そろそろアニメの制作も始まるのではないだろうかと囁かれ始めている大人気web小説だ。


主人公は人間から神となった「青柳翠あおやぎ すい」。神になると同時に神名として「翠河すいが」の名を与えられ、齢十八にして神の住まう天上界へと足を踏み入れた。

そうして神として修行を積み、着々と信仰を集め、八百万の神を統べる五大神派の主神のひとり「紀清きしょう」の元へ弟子入りした翠河は、同時期に弟子となったヒロインともいい感じに甘酸っぱいやりとりをしたりしながら順風満帆な生活を送っていた。


しかし、この作品はジャンルとしてはダークファンタジーだ。後半になるにつれ段々かなり暗めのストーリー展開になっていく。そんな作品において主人公の幸せが長く続くはずもなかった。


神派に入ってそう立たないうちに次期主神候補と言われる一番弟子の座についた翠河は、その力に自らの地位が脅かされるのではないかと恐れを抱いた紀清と、彼と同じく五大神派の主神の一人である「王林おうりん」の結託によってある時嵌められてしまう。そして無理やり神の力を剥奪され、妖の住まう地底へと突き落とされてしまうのだった。


尊敬していた主神に嵌められ裏切られ、なんの力も後ろ盾も無くなってしまった翠河はどうすることもできず、地を這いながら獣の妖と肉を奪い合い、腹が極限まで空けば誰とも知れぬ骨の混じった土すら食い、泥水を啜るような生活を長きにわたって強いられた。

生まれてからずっと苦労を知らず生きてきた翠河は、初めてここで挫折を経験した。しかも自分にはどうすることもできない、身勝手な理由で。正しく、清らかにと生きてきた彼の新雪のように美しく潔白だった心はぐちゃぐちゃに踏み荒らされ、今や見る影もない。


しかしそんな生活も終わりを告げる。

翠河がいつものようにぼんやりと赤い空を眺めていたところ、彼は突然あることを思い立った。ああそうだ、なんで今まで考えつかなかったんだろう!彼の暗く澱んでいた瞳には光が宿り、土気色だった頬には赤みが混じった。大量の濃い瘴気に混じりながら頬を両手で覆うその様子を見て、周りにいた妖は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


では、いったい何を思いついたというのだろうか。

そんなのもちろん、復讐に決まっている!


彼は元々清らかで心優しい青年だったが、だからといってやられたことを全部笑って許すような仏の心を持って生まれたわけでもなかった。なぜ自分は理不尽にもこんな扱いを受けたのか。何がいけなかった?いや、何も悪くない。ならば悪いのは誰だ?嫉妬に身を焦がし、身勝手に自信を陥れこんな場所に落としたあいつらではないか。


翠河は賢かった。知性も理性も到底ないような、涎を垂らしながら地面を這い回る妖の中からわずかにでも自我を感じるものには本心を隠し恩を売り、信頼を勝ち取った。そうやって翠河は今まで誰一人考えつかなかったような方法で着々と信仰を集めていった。まさか神になるために妖から信仰を得るだなんて、綺麗なままの彼だったなら到底思い付かなかっただろう。


そして二度目の天上界。足を踏み入れれば草花は枯れ果て、たちどころに黒い煙が上がる。指を鳴らすだけで地面が割れ、刀を振るえば縦に並んでいた5人の首が同時に切れた。当然天上界は大騒ぎだ。かつてここまで大きな力を持った堕神がやってきたことなどなかった。しかも無闇矢鱈に振りかざすその攻撃はもはや虐殺に近く、攻撃を仕掛けた神達は次々と辺りに散らばっていく。そして、当然ながら変わり果ててしまったその姿の翠河をかつての紀清の一番弟子と繋げる者もいなかった。


そこからは主人公の無双の始まりである。抵抗してきた武神達をちぎっては投げちぎっては投げ、立ち向かってきた者はたとえかつての仲間であろうと容赦はしない。そうして主犯であった紀清と王林を嬲り、かつて己がやられたように神の力を奪い去り地底へと落とした。今や翠河の従順な手下となった妖たちは主に命じられるがまま落ちてきた肉に食らいつき、力を失っても神の身であるがために死ねない巨悪二人組は永遠の苦しみに苛まれることになった。


そしてそれから復讐を遂げた翠河は何をしたかと言うと、自身の力で新しい神派を作り上げ妖から神になった行き場のない者達を対象とした「陰派」の始祖となった。元妖の神々には深く慕われ、かつての五大神派ももはや解体され主神や弟子達も全て翠河の下についた。

彼は自分に付き従う者には優しかったので、そうやって天上界を支配したあとは何事もなく平和にくらしましたとさ、めでたしめでたし。




「作者の頭の中には芋虫でも詰まってんのか!?」



紀良清太郎は思わずパソコンの画面にグーで殴りかかりそうになった。我にかえるのが一歩遅ければ、そこにはきっと無惨に穴の空いた数十万円のゴミが転がっていたことだろう。

だって、考えてもみて欲しい。こっちは最初の1話からずっと更新を楽しみに待っていて、更新されない間は何度も読み返し、もういまや道端に生えてた草の名前だって覚えている。律儀に金を払い続きを待ち、それでようやく迎えた最終話が、これ!?こんなののために俺はプレミアム会員になって金払ってたってのかよ!?


いや聞いてくれ、決してこのオチが嫌なわけではないんだ。うまく復讐もやり返してて綺麗にまとまってるし、まあ別に幸せに暮らしましたが悪いわけでもない。苦労してきた主人公は確かに幸せを掴むべきだ。


し!か!し!


主人公とフラグが立っていたヒロインが、最後の最後にあっさりと殺されたのはどういうこと!?

あの時主人公が突然使えるようになった不思議な力の説明は!?

どうしてあの時意味深なことを呟いた!?特に何もないんなら絶対そのシーンのためだけに十ページも使う必要なかったよね!?


こんな調子でこの「八百万戦記」には全く回収されていない伏線が大量に転がったまま完結してしまって、番外編も後日談も存在しない。

はいこれで終わりですちゃんちゃんなんて言われても納得できるはずがなかった!


紀良は急いでかぶりつくようにしてコメント欄をスクロールしたが、そこに寄せられていたのは想像とは全く反対に作者を褒め称えるような言葉ばかり。誰一人としてあのガバガバな伏線回収に異議を唱える人間はいなかった!!そのことにすっかり頭に血が上ってしまった紀良はキーボードを破壊するのではないかという勢いで文字を打ち込む。並べる言葉はもちろん全部作者への罵倒の言葉だ!!

こんのクソバカ作者め!!!立てた!!フラグは!!!回収してくれ!!!

このままじゃ気になって夜も眠れない!しかし続きは来ないんだろ!?くそじゃないか!!!!


感情の昂りに任せて打ち込み続け、連なったコメントが二桁を超えた頃。突然紀良の視界が真っ暗になって体が前に倒れた。キーボードに激しく額を打ちつける。

なぜか体が重く、口も開くことができなかったので普段のように「いてえ!!」なんて声をあげることもできないまま、紀良の意識は遠くなっていった。

その途中どこからともなく「じゃあ代わりにあなたがやってくださいよ!!」と言う怒気に塗れた声が耳元で響いた気がしたが、それを気にする余裕はこの時の彼にはなかった。

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