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悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
第三章 犬猿の仲ならぬ狐猫(こびょう)の仲《王林編》
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第二十四話 難解的好情

(やっぱ、生きてるんですよねえ。)


氷雪丸は自身の背を機嫌良さげに撫でている王林を見上げた。

先程までの話は全て作者である自身が確かに設定として書いたものではあった。悪役というものは皆理由あってそうなっているものだという持論があった氷雪丸は、王林にもそういった過去をつけたのだ。しかし…自身がつけたもののこうして本人の口から聞くとなると成る程、やはり目の前にいるのは生きている人間(まあ神だが)でしかないのだなと思い知らされる。


設定は詳細に作っても、それに付属する感情なんてものを作った記憶はない。

前回自身が紀清だった時には、彼とこんな話をする機会なんてなかったものだから…自分が書いた設定の裏で彼が考えていたことを知るというのは少し奇妙な経験な気もした。


「それにしても…彼は、弟子を庇って怪我をできるような人だったんですね。」


「…主は振る舞いこそ厳しいですけどそこまで冷徹な人じゃありませんよ」


「ああいや、そうだった。もともと彼はそんな気質でしたね。あまりにも冷たく接される期間が長すぎて勘違いしていました。」


それになんて答えればいいか分からず、氷雪丸は鼻を鳴らして心地の良い体制を取るために腕を体の下に収めた。


「…今の話ですけど」


「はい。」


「主も少なからず悪いところがあるとは思いますけど…あなたがそんな捻くれたことしないで、もうちょっと素直になれば変わったものもあるんじゃないですかね」


もうすぎた過去のことにこんなことを言っても仕方はないが、少なくとも紀清と王林が仲良くなる未来は確かにあったのだから(もっともそのお先は真っ暗なのだが)二人がもう少しこんな面倒な性格でなければもっと現状はマシなものだっただろうなとは思う。


(そんなこと言って、こんなひどい設定作ったのは全部自分なんですけどね)


「ふふ、そうかもしれませんが…もう遅いんですよ。」


「遅いことありません。最近の主は言ってた通りちょっとまあ…丸い感じなので。多分前よりは少しはとっつきやすいとは思いますよ」


氷雪丸は(だって中身別人だし)とは思ったが流石に口には出さなかった。

まあ、別人であるから逆に数百年前のように兄弟として接してくれることは永劫ないだろうけれど。取り敢えず今の紀清が王林を恐れないようにさえなれば、会話くらいはできるようになるんじゃないだろうか。


「まあ…私のことを見てくれるのなら、別にそこに付属する感情は“嫌い“でも構わないので。」


「歪んでますねえ」


氷雪丸はのんびりと昼寝でもするような格好でつぶやいた。

我ながら、これが自身の考えを投影して作ったキャラだと認めたくないくらいに愛情に対する飢え方が歪みすぎている気がする。よく前回の紀清としての自分、何事もなくただ仲良くなれたな…。


「ははは、あなた本当に遠慮がありませんね。話してて清々しいですよ全く」


「それはどうも」


そのまままた違う話題に移ろうとしたところで、遠くの部屋から我らが主人公様の溌剌とした声が氷雪丸の獣の耳に届いた。


『師匠!よかった、目を覚ましたんですね』


それに合わせて御使の狐の木ノ助と氷雪丸の耳がピクリと動く。

やがて会話の声に紀清のものも混じり始め、王林の元にもそのわいわいと騒ぐ声が聞こえてきた。


「おや、何か騒がしい。紀清殿の目が覚めたのでしょうか」


「おそらく。そこそこの大怪我なのに結構元気そうです。やっぱり主神ともなると回復力高くなるんでしょうか」


「さすが動物の耳はよく音を拾いますねぇ。しかし、それは華女の処置が良かったからだとでも言ってもらいましょうか」


そのまま立ち上がる雰囲気を察知した氷雪丸は膝から降りようと伸びをしたのだが、何故かそれは王林の手によって阻止され立ち上がると同時に腕の中に抱き抱えられた。


「ちょっと、まさかこのまま行く気ですか」


「はい。この光景を見た紀清殿の顔が見ものですね。最近表情まで豊かになられたようで」


「だからそれは貴方だけ…ああもうわかりましたから、そうしっかり握らなくても飛び降りませんって」


「そうですか、ではおとなしく抱かれていてもらいましょう。それにしても話し足りませんねえ…なんだか、あなたと話しているとひどく話が弾んでしまう。なんだって話してしまいそうです」


「はあ、まあ程々で解放してくださいよ」


一応氷雪丸としては変なボロが出ないか気をつけながら会話しているため、少し精神力を使うのだ。それにあんまり長く話していると前回の紀清だった時の癖で変なことを口走ってしまいそうでこわい。


「じゃあ、あなたと話すためだけにたまに水泉にお邪魔しましょうかね。」

 

「前みたいに誘拐みたいな連れて行き方じゃなくてきちんと主に了承をとってからならいいですよ」


「おや、あの時は中身は紀清殿だったのでは?」


それに氷雪丸は心の中で盛大に(やっべ)なんて思ったが、これでも何百年も紀清を演じていた経歴があるため、早々に取り繕ってそれっぽい言い訳を口にすることにした。


「そんなの元に戻ってから事情を知ったに決まってるじゃないですか」


「そうでしたね。…あの時は、もしかして話せないフリでもしていたのですか?」


「…まあそうですよ」


「おや素直。まあしかし貴方がこうして会話できるおかげでいい暇つぶしになりました。

それでは、たかが新入りの弟子などを庇い傷を負った愚か者の様子でも見に行くとしましょうかね。」


(…わっっかりずら!)


氷雪丸はその棘のある言い方の中に含まれるわかり辛い心配の色を感じ取り、苦笑いをしながら仕方がないなと言うように小さく息を吐いた。王林というやつは警戒心は強いし、本当に素直じゃないし、やる事は相当物騒な上に対話で返事を間違えると命の危険があるような捻くれた面倒なキャラクターだが…作者として、紀清として氷雪丸として…こういうところがあるからどうしても嫌いにはなれないのだ。

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