表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役が挑む神話級自己救済  作者: のっけから大王
第二章 猫にまたたび、紀清に翠河《翠河編》
16/68

第十四話 推定的疫病

「二年ほど前のことです。私の住んでいる地域である病が流行り始めたんです」


少女が俯きながらぽつり、ぽつりと話し始めていく。


「病、ですか」


「はい。罹ると高熱を出し、首元に変な痣ができるんです。そして長くて三日…早いと、一日もたたないうちに罹った人は皆命を落とします…」


ちょうどここら辺に痣が、と少女は短い髪をかきあげ頸の辺りを指さした。


「そんな…」


その話に心を痛め、翠河が純粋に悲しむ一方、霞ノ浦は顎に手を当てて思考を巡らせる。


「それほど厄介な病気、一体原因はなんなのでしょう。疫病にしては何か妙です」


「それが…わからないんです。二年経った今でも、皆謎の病に怯えながら暮らしています。それで…ッ…その…っ…」


そしてそのまま次の言葉を話そうとする少女だったが、途端になにかを思い出したのかじわりと目に涙を溜め自分の身を掻き抱くようにして震え始めた。翠河が優しく背を撫でて落ち着かせる。

その時に翠河は無意識ながらも神力を手に纏わせていたのだが、それが癒しの作用となったらしく、少女の気持ちは不思議とだんだん落ち着いてきてまたぽつりと溢すように話し始めた。


「原因がわからず、対処もできないまま…やがて若い人々は町に行くようになり、余計に村には無力な老人が残りました。私と弟は元々病気だった母を置いてこの村を出るわけには行かず、二人で村の病にかかった人たちを世話していました。そうしたら、つい一年前私の弟も…ッ…すみません」


そうして少女は堪えきれずこぼれ落ちる涙を袖で乱雑に拭っていたのだが「それでは目が腫れてしまいます」と霞ノ浦がハンカチを差し出しそっと目に押し当てる。


「…ありがとうございます。それで、この鳥居を建てたんです。神様に祈れば、もしかしたら病が治るのではないかと誰かが言い始めて」


同時に三人はその小さな鳥居を仰ぎ見た。しかし、先程確認した二人はそこに神などいないことを知ってしまっていたため、なんとなく少女の顔を見ることができず、そっと視線を下に落とす。


「皆町に出たり、病気でいなくなったり…そのせいか神の力を信じる人は誰もいなくなってしまって、結局こうして今祈りに来ているのは自分だけになってしまいました。」


…この少女は、いつきてくれるかもわからない天からの助けをずっと待っていたのだろうか。毎日毎日ここに通いながら。

しかし…と翠河は思う。彼女の本当の願いは弟を生き返らせることだ。今回自分達が確かにその願いのためにここにやってきたものの、きっとその願いはどの神にも叶えることは不可能だろう。何故ならそれは“叶えてはならない願い”だからだ。


彼女は病気の根絶を願って此処に通っていると言ったが…本当の願いが別にある状態で毎日通ったところで、その村の疫病に関する願いが聞き届けられることもない。

翠河はこの少女の思いの報われなさを哀れに思ったが、同時に何としてもその疫病の原因を解決してやりたいと考えるようになった。弟を生き返らせてやることはできないが、病気の原因を突き止めることくらいならできるはず。



この時の翠河は紀清に言わせてもらうと“一周回ってむしろ愚かなくらい超真っ白なピュアピュア主人公ちゃん”だったので、本来この疫病の問題は別に解決しなくても今回の任務に不都合はないはずなのだが、弱きを助けるの名の下全力で首を突っ込もうとしていた。天上界でこれを見ていた紀清は「うへえ流石主人公。別に神として少女に出会って“お前の願いは叶えられないよ”って告げて帰ってくるだけでも十分だったのに」なんて神としてどうなんだと言ったことを考えていたがそれはそれである。




「せめて病気の原因だけでも分かれば……」


「…私たちがその原因解明、力を尽くします。いいですよね、霞ノ浦」


「ええ、勿論。」


迷いなく頷いた霞ノ浦に翠河は内心ホッと息を吐いた。少女が目に涙を溜めたまま二人の顔を見上げる。


「そんな…っ、どうしてそこまでしていただけるのですか。」


「…困っている人達を助けることに、理由など必要でしょうか」


霞ノ浦がそう言って淡く微笑んだ。この時、少女にはまるで二人のことが神か仏のように見えた。(実際その通りであるのだが)

少女は祈るように手を組み涙を流しながら二人に何度もお礼を言い、そのまま何度も振り返りながら名残惜しげに帰っていった。その際に村の場所を教えてもらった二人は地図を挟んで話し合う。


「あれ、先程の金岳派程の規模ではないにしろこの村は近くに水泉の社があるじゃないですか」


「近くと言ってもあの小さな鳥居の位置よりは遠いですけどね。…もしかして、だから彼女の願いが紛れ込んでいたのでしょうか」


「きっとそうです。これならば我々も堂々と水泉派の人だと名乗りをあげて聞き込みができますね」


そう言って苦笑いした翠河は、どうやら一時的についた嘘とはいえ己のことを金岳派だと名乗ったことに罪悪感があったようだった。霞ノ浦も同じく苦笑を浮かべる。


「しかし…翠河は彼女に触れた時何か異変を感じませんでしたか」


「…ありました。あのお嬢さんの背中に触った時、ほんの少しですが妖気を感じたような気がします」


「私もです。…やはり、その原因不明の病気というのは妖の仕業のようですね」


「はい。おそらくは」


それから暫く話し合った結果、二人は原因特定のためその村で聞き込みをして回ることにした。そう長くもない距離をまた二人で歩く。やがて、その村の入り口らしきところにたどり着いたが、日は既に傾いてしまっていた。


「此処がその村、ですか。」


「人が少ないですね…」


その村は一見廃村に見えるほど人の影ひとつ見えず、いつ掛けられたのかもわからない洗濯物がボロボロの状態で風にたなびいている。しかし、ほんのわずかに霊力が感じられるため人間自体はいるのだろう。


「どうします。もう夜も遅いですし、聞き込みは明日にしますか」


「そうですね…しかし、そうなると野宿ということになってしまいますが…」


「そうですね。ではこうしましょう」


そうして迷いなくどこかを目指して進む霞ノ浦に慌てて翠河がついていくと、やがて少し距離をとった先の林の中で足を止める。翠河が疑問に思っているうちに、霞ノ浦が懐からいくつか種を取り出して地面に撒くと瞼を閉じて何か呪文を唱え始めた。

翠河にはわからなかったが、それは豊作の神が己に向けて祈る祝詞であった。


そう時間も立たないうちに、タネを巻いた地面から長い蔦のようなものが現れ始めた。それは互いを追い掛けるように成長し、やがて木の間に絡まり合い天然のハンモックを作り上げた。


「すごい…!」


「ふふ、こんなことくらいにしか役に立ちませんね。でもどうです。これなら多少は野宿でも悪くないと思えるのでは?」


「…随分と手慣れていますね。霞ノ浦は今までよくこんなことをしていたんですか?」


「ええ、たまに。星が見たい夜なんて丁度いいでしょう?」


そう言ってふんわりと笑みを浮かべる姿は、背景の夕陽も相まって随分と幻想的な景色のように思えた。翠河は、今回の任務で知った霞ノ浦のこう言った意外な面に驚きつつも、なんだかんだ気に入りつつあった。この人は一見大人しそうな見た目をしておいてやることはとても大胆だ。

しかし、それもいいのかもしれない。人だけでなく、神も見た目通りとは行かないものなのだなあ。

そう思いながら、翠河は星空を見上げ蔦で作られたハンモックに揺られるのだった。




一方それを天上界で見ていた紀清は、原作で明かされなかった一晩の過ごし方のまさかすぎる展開に心の中で作者を質問攻めにしており、その勢いに押された作者こと氷雪丸が精神的疲労でクタクタになったりとまあまあ愉快なことが起こっていたのだが、まあそんなことは閑話休題

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ