表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/33

商会と攻略対象、ひとりめ

 

 六歳になりました。ルチアです。


 自分が乙女ゲームのヒロイン、ルチア・パラディンになってしまったことに気づいて早くも三年。

 今年の冬はとても寒いです。


 どうやら私以外に転生者がいるのはほぼ確定のようだ。


 三歳の時に起きたレベッカ嬢と王太子殿下の婚約という私的には革命的な出来事のあと、なんとまず今まで一切聞こえてこなかった新しい商会が生まれた。


 その名もパラドックス商会。


 パラドックス、商会。


 もうめちゃくちゃわかりやすい。

 そもそもこの世界にパラドックスという言葉はない。

 前世でもそんなに有名な言葉では無いはずだ。

 パラドックスとは確か、逆説、矛盾、本来おこる筈のことと違ったことがおこる現象、なんかに使う言葉だったはずだ。


 多分これは、本来進むはずだったシナリオや分岐以外の道を辿っている現状に対して付けたネーミングなのだと思う。

 このパラドックス商会、なんと怒涛の勢いで大商会に登りつめた。


 まず販売されたのが貴族向けの甘味。甘みの強いマカロンやマシュマロである。

 比較的レシピが広く知られていて、作りやすい、けれどこの世界では今まで無かったスイーツ。


 ちなみにチョコレートがラインナップにないのは、既に存在しているからだ。

 一応乙女ゲームの王道要素を取り入れたかった親友の意向で、好意を相手に伝えるためにチョコレートを贈る文化がこの国にはある。

 ただし、バレンティヌス司教はいないので、名前は違う。


 その名も感謝祭。

 安直ではあるがわかりやすい。


 お世話になった人や好意を持った相手に花やカードをつけて贈るのだ。

 ちなみに学園での好感度アップブーストアイテムでもある。


 閑話休題。


 とにかく今まで無かったお菓子がたて続けに発売され、大きくなった商会。


 しかも今度は一般向けの新しい調味料も発売されるらしい。


 そんなもの、転生者がいないと思う方が無理がある。

 しかもそれが商業国のトルルコ国発祥ではなく、このザウスクラスト王国から。

 しかも貴族間で流行ったのだからこの国の社交界に関わりが深いのはわかりきっている。


 流行は上から降りてくる。

 なので貴族をターゲットにするのは定石だ。

 でも上流階級に直で新作を持ち込むことができる存在は限られる。

 そしてこれらのスイーツは王妃様お墨付き。


 なので私は多分レベッカ嬢が発案だろうなあと思っている。


 もうひとつ理由として、商会長が表舞台に出てこないのだ、パラドックス商会。

 顔のでるイベントや式典では常に代理の副商会長が出席している。


 本来ならありえない。

 普通は商会長がわからない商会なんて信用出来るものじゃないと跳ね除けられるはずなのに、そんな話は一切ない。


 レベッカ嬢、好きに生きてるなあと思いながら向上した食生活にライラック公爵家に足を向けて寝られない。

 飽食の日本に生きていた私だ、やはり食事が美味しくないのは辛かった。


 私が暮らす別邸にもわりと出てくるようになったマシュマロをつまみながら、お茶のマナーを教えてくれる先生の話を聴く日々だ。

 ぜひ調味料も頑張って欲しい。





 六歳の私はたまに本邸で礼儀作法や勉強の進捗を確認される。


 この世界の成り立ちや歴史、魔法や貴族のマナー。

 向こうの世界で役に立つことの方が少ないような状況だが、成人の思考回路があるので物覚えはよかったので助かっている。


 そして流石ヒロイン、この体の基礎スペックはとても高かった。


 明らかに前世より記憶力がいいし、体も動く。

 この世界、貴族とはいえある程度の戦闘力を求められるのだ。

 なんせ、ダンジョンがある。そして、魔物もいる。


 なので伯爵家の令嬢として、ある程度の成績を残していなければ名字を取り上げられ、平民として街に下ろされることになっているからだ。

 もちろんそうなってはただでさえハードモードのこの世界での死亡率がさらに上がってしまうので、必死に勉強した。


 そういった理由から本邸への定期訪問を無事に終えた帰り道、私ははじめての攻略対象と出会った。


 シナリオで唯一はじめからヒロインと一緒に学園に入学することになる、ヒロインに盲目的な忠誠を捧げる従者。


 凍えるような寒さの中で道端に打ち捨てられるように転がっていたエルフの少年。


 アランドルフ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ