もしかして、同士ですか?
王太子の婚約発表に王都は浮かれていた。
王家の婚約ともなれば余程のことが無ければそのまま長じて婚姻となる。
未来の国母、王妃の誕生に都市をあげてのお祭り騒ぎだ。
どこもかしこもその話題でもちきりになりいろんな噂が溢れる。
レベッカ嬢の可愛らしさに王太子が一目惚れしたのだとか、逆にレベッカ嬢が一目惚れだったのだとか、どこまでが本当かわからない話題が飛び交っている、らしい。
もちろん三歳のルチアが街を見て回れる訳ではなく、使用人が囁く噂を漏れ聞くだけだ。
普段はきちんと教育され無駄口を叩くことのない使用人達だが流石に三歳児が意識して聞いているとは思っていないようで、わりと雑談が多い。
部屋で静かに絵本を読んでいるだけで、ある程度の情報が入ってくる。
ちなみにこの世界の文字が翻訳されて〜とか、この歳で難しい本が読める!とかはない。
完全に知らない形の文字が謎の配列で並んでいるだけなので、ほぼ絵を楽しむことしかしていない。
貴族だし、三歳になったし、そろそろ本格的に文字の勉強が始まる筈だと期待している今日この頃。
どうやらパラディン家からも婚約祝いを出したようで、本家には返礼も来たらしい。
ということは、やはり王太子とレベッカ嬢の婚約は何かの間違いではないようだ。
ストーリー上はレベッカ嬢と婚約するのは第二王子で、王太子のウォルター第一王子はレベッカ嬢のことを見初めなかった。
どのシナリオ分岐でもレベッカ嬢が王太子の婚約者になることは無い。
そもそも第二王子との婚約ならともかく流石に王太子との婚約を解消して身分の低いヒロインが後釜に座ることは出来ないだろうと言うのが親友のこだわりだった。
つまり、シナリオが変わる何かが起きた、ということだ。
考えられる可能性は、私と同じ存在。
ゲームの記憶持ちの転生者がいるという可能性。
例えばレベッカ嬢に記憶があるなら、もしかしたらシナリオ通りに事が進むのを回避しようとしたのかもしれない。
このゲームでライバル役の令嬢が没落することはないが、婚約の解消は貴族の令嬢としてはあまり褒められたものでは無い。
王子殿下のどちらかが記憶を持っている可能性もある。
けれど、その場合レベッカ嬢との婚約相手を変えるメリットがちょっと思い浮かばない。
だって彼らはほっといてもある程度自分の思う通りに動けるのだから。
よし、とりあえずレベッカ嬢が記憶持ちであると仮定しておく。
もしそうなら、私が無理に攻略対象から逃げ回らなくてもいいかもしれない。
既に王太子ウォルター第一王子のルートはほぼ潰れたようなものだ。
これから先もレベッカ嬢がシナリオを変えるように動いてくれるのであれば、私の理想の攻略対象と関係ない人と結婚して人生謳歌して老衰して死ぬ、という目標もだいぶハードルが下がる気がする。
伯爵家の庶子であるルチアがレベッカ嬢と出会うのは学園に入ってからになるので、答え合わせはあと十年先になるけれど、レベッカ嬢頑張ってください!
心の中でエールを送りながら、読めない絵本をめくった。