ぼっち
想像してみてほしい。
滅多に里から出てこない美形エルフに天使呼びされている同級生。
第二王子殿下からにこやかに挨拶されパッと見親しげに見える貴族令嬢。
しかしその令嬢、上級貴族と言うにはちょっと心もとない伯爵家。
ついでに従者は美の女神が裸足で逃げ出しそうな儚げ美人。
この学園は平民や他国の生徒もいるが、国内貴族は年齢差こそあれほぼ全員入学して卒業しているものとする。
つまりこの学園はザウスクラスト王国の社交界とほぼ同義なのだ。
当然派閥があり、水面下の勢力争いもある。
そんな中我がパラディン伯爵家は治癒魔法の適正者が多く産まれる家系で、大きな派閥には属さずに中立の立場にいる。
つまり干渉は少ないが、後ろ盾も少ないのだ。
そういった事情を加味して先程の状況を考えた場合、どうなるか。
そう、ぼっち現象である。
大きな派閥に属している貴族子息子女は様子見を決め込み、派閥に属していないもしくは小さい派閥の貴族子息子女は巻き込まれたくないと距離を取る。
第二王子殿下とあからさまに私至上主義なエルフの反感を買うのを恐れて平民は近づかない。
繰り返すがこの学園は、王国の社交界と同義なのだ。
当然私も在学中にパラディン伯爵家として利益のある友好関係を結ぶ必要がある。
だがしかし、今のこの状況でそれが出来るはずもなく。
今日も今日とてひとり寂しくはた迷惑その1とその2をあしらう。
純粋に迷惑である。
そしてもうひとつ、懸念事項があるのだ。
私がとてもとてもとても迷惑しているということを除くとこの状況、私が顔が良くて地位のある男を侍らせてるように見えなくもないのだ。
そう、それこそルート攻略をするヒロインのごとく。
そう思われている可能性がとても高く思えるのは、他でもないレベッカ嬢の視線が日に日に険しくなるからだ。
ちがう、そうじゃない。
そう声を大にして言えたらどれほどいいか。
そしてよく見てほしい、どう見ても私は一定の距離を保とうとしているでしょう。
しかし悲しいかな私がヒロインであるという先入観か、レベッカ嬢はどうも私を警戒しているようで、この気持ちが届いている様子はない。
声を掛けようにもレベッカ嬢は公爵家、そして王太子殿下の婚約者。
しかも派閥は最大派閥の王国派。
中立の伯爵家がおいそれと声をかけられる相手ではないのだった。
「そういえば、そろそろ実践実習がはじまるね」
「え、ああ、そうですわね。今年は鈴呼びの森で一週間ほどの予定と聞いております」
「班わけは先生方が決めるが、是非ルチア嬢とおなじ班になりたいものだ」
「…………………………………………光栄ですわ」
私はなりたくないものだ。
たっぷり開けた間に気づいた様子もなく朗らかに笑うユーリカ第二王子殿下は本気で脳内お花畑なんじゃなかろうか……。
いい加減私が困っていることに気づいて欲しい。そして王族らしく適切な距離をとってほしい。
身分の下の私から苦言を呈することも出来ないのだから本当にどうにか自分で気づくか王太子殿下やレベッカ嬢にたしなめられて欲しい。
というか王太子殿下もレベッカ嬢も頼むからこの王子を放置しないで欲しいのだけれど、無理ですか。
にこにこふわふわと笑うユーリカ第二王子殿下に視界に捉え、思わず出そうになったため息を飲み込む。
ゲームではもっとしっかりしてて王太子殿下を支えます! って感じの頭脳派だったと思うのだけれど、どうしてこうなった。
やはりシナリオが変わってしまっている弊害なのか。
私やレベッカ嬢のような転生者がいる上に、現実になっているのだからある程度違うのは当然なのかもしれないが。
班わけは別でありますように!!
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