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誰が天使か

 

「やあ、おはようルチア嬢」

「おはようございます、第二王子殿下」

「いやだな、ユーリカでいいといつも言ってるじゃないか」

「いえ、既に過分な呼び名をさせていただいておりますので、これ以上は私には勿体なく存じます」

「ルチア嬢は丁寧だなぁ」


 にこやかに私に声をかけるユーリカ第二王子殿下ともはやお決まりになったやり取りをして席に着いた。

 思わずため息が出そうになるのをぐっと力を入れて堪える。


 いったいどうしてこうなった。





 学園生活初日、クラスには予想通り王太子殿下、第二王子殿下、アランドルフ、レベッカ嬢がそろい踏みだった。


 これはクラスが成績順に決まるのではじめからわかっていたことではある。

 できれば目立たないようにしたいがまったく無視することもできないので、当たり障りない程度の付き合いが出来ればいい。


 そんなふうに思っていた時期が私にもありました。


 それがもろくも儚い願望だったと知ったのは、ユーリカ第二王子殿下が最初にクラス全員にぶちかました演説のせいだった。


 ユーリカ第二王子殿下とウォルター王太子殿下のきらきらと眩しいあかがね色の髪は光を受けると金色の天使の輪を描く。

 王族はみんな夕焼けにも暁にも見えるあかがね色の髪をしていて、王家に近い貴族ほどこの色に近い。

 ちなみにレベッカ嬢、王家の縁戚である。


 その暁の髪色から王国の暁、夜明けの君などと呼ばれるのだが、ユーリカ王子はその尊称を不要だと言った。


「僕達はこれから肩を並べて皆おなじ学問を学ぶ。ならば毎回王族の為の尊称など不要だ! 僕のことはただのいち国民だと思って、名前で呼んでくれたまえ! 」


 とのこと。


 この宣言を聞いた全員が面食らい、王太子殿下は頭が痛いとばかりに自分の額を抑えていた。

 そしてレベッカ嬢はわかりやすくため息をついていた。


 いやそんな、流石にいくら何でも名前で呼べるわけねーだろ! と言うのがクラス全員の心の声だったと思う。

 そもそも王族には尊称のあとに殿下呼びが挟まって、さらに親しくなってやっと名前を呼ぶことが許されるのだ。


 それをすっとばして名前で呼ぶのは、たとえ本人が許していてもありえない。


 そう強く思ったせいでついぽろっと、ユーリカ第二王子殿下がたまたま目が合った私に同意を求めた時に言ってしまったのだ。


「いや無理です」


 と。


 王族の声掛けにいきなり拒否してしまったのだ。

 あわてて取り繕ったがその時にはもうユーリカ第二王子は私に満面の笑みを浮かべていた。


「そう! そのように歯に衣着せぬ物言いこそ僕は求めているんだよ! 素晴らしい! ええときみは、パラディン家のルチア嬢かな? 」

「これはご挨拶が遅れまして申し訳ありません。王国の暁の君に名を覚えて頂けましたこと、光栄に思っております。改めましてパラディン伯爵家が娘、ルチアでございます。どうぞルチアとお呼びくださいませ」

「いやいや、そんな固くならなくていいよ! 先程のように気軽にしてくれたまえ。名前もユーリカで構わない」


 完璧なカーテシーで淑女の礼をとったが時すでに遅し。

 ユーリカ第二王子殿下は私を取っ掛りにしようと

 思ったのかそれはもう、フランクに寄ってきた。


 そこまで王族に親身に接されては、完全な社交辞令として頑なになるのもまた失礼にあたってしまう。

 仕方なしに「では、第二王子殿下とお呼びさせていただきます」と言うしかなかった。


 以来、私を見かける度にユーリカ第二王子殿下は声をかけてくる。

 初対面をしくじったのは私なので、多少はどうしようもないのだが、ここまでグイグイこられるとやはりヒロイン補正かと泣きたくなってしまう。


 私が必死に殿下呼びで頑張っているので、クラスの皆もこれ幸いと殿下呼びだ。

 名前で呼ぶ強者はまだいない。


 そもそも王太子殿下がとめてくださればいいのに、このことに関して彼は我関せずを貫いている。


 もちろんおなじ学生として必要なことは話すし挨拶もするが、ユーリカ第二王子殿下ほどフランクにはこない。


 王族として適度な距離感を保っているのだ。


 それならそれでユーリカ第二王子殿下にもその距離感を保つよう言ってくれればいいのにと思ってしまうのは実害をこうむっているから仕方ないと思う。



 そんなこんなで初日から三ヶ月、今日もユーリカ第二王子殿下は諦めずに私にお馴染みの声をかけてきた、というわけだ。


 そしてもうひとつのため息の原因が、


「第二王子殿下、天使が困っています」

「天使ではありません」


 席についた直後にユーリカ第二王子殿下との会話に割り込んできたこのきらっきらのエルフだ。


 このエルフ、もといアランドルフ、初日に私に向かって「俺の冬の天使! おぼえていらっしゃいますか! 」と訳のわからない声をかけてきたのだ。

 感極まった顔でうるうると涙を浮かべた瞳と好調した頬のエルフは大変美しかったですが、とっても怖かったです……。


 なんだ天使って。

 なんだ冬の天使って。

 どんな呼び名だ。


 反射で「どなたですか? 」と返せた私を褒めたい。

 天使と呼ばれた直後からあなたのことなんてこれっぽっちも覚えていません! という立ち位置でいくことにした。


 だって天使って……。

 さすがにない。


 大声で天使と呼ばれた時のクラスの戸惑う声がひどがったのだ。

 私も第三者なら盛大に戸惑いと困惑を声に出していた。

 いや、真っ当に当事者として困惑したのだけれど。


 とにかくこのアランドルフ、私がどれだけやめろと言っても天使呼びをやめない。


 ユーリカ第二王子殿下以上の悩みの種だった。



中途半端ですが長くなるのでいったん切ります。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

よかったら評価・感想・ブクマなどいただけたらとても嬉しいです。

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