彼女は、恐怖
とうとうこの日がやってきた。
入学式で一際目立つ綺麗な銀髪を壇上から眺めながら、そう思った。
私がレベッカ・ライラックとしてこのゲームに転生したことを理解したのは産まれてすぐだったと思う。
まさか自分が、あのゲームの悪役令嬢になっているなんてと、当時は絶望した。
ゲームのレベッカは没落まではいかなくとも理不尽な婚約解消をさせられたり、王太子ルートではやりすぎとして社交界で嫌厭される。
そうでなくても未来の王妃との対立なんて、実際に自分に降りかかると思ったらたまったものじゃない。
だから、原作を変えようと思った。
ヒロインがどのルートを選ぶかはわからなかったから、とにかく王太子ルートを選べないようにしてしまえばいい。
幸いこのゲームでは悪役令嬢は死なない。
悪役令嬢よりヒロインの方が死亡ルートが多いとかどんなゲームだって話題になったのをよく覚えている。
まず、ユーリカ第二王子との婚約を王太子との婚約にする必要があると思った。
原作でヒロインが王太子ルートを攻略する上で必須なのはステータスの高さ。
なら、婚約が決まる3歳の時にその片鱗を見せればきっと王太子は興味を持ってくれるはず。
そう思って顔合わせの時に前世の知識をちょっと披露したら王太子はすぐに食いついてくれた。
簡単な数学でも3歳児がしたら天才と言われる。
そこからはトントン拍子に話が進んだ。
困ったのは天才だと言われた私は自分の価値を下げるわけにはいかなくなったことだ。
一度天才だと言われたら、一生天才でないといけない。
でないと、すぐに見放されてしまうから。
前世の知識とゲームの知識で立ち上げた商会や教会への寄付でどうにか評判は高いままでいられた。
王太子との仲も原作じゃ考えられないくらいいいはず。
王妃教育は大変だったけど、中身が大人だったから何回も言われなくても覚えられたし、その度優秀だと褒められた。
それでも、不安がある。
もし、ヒロインが王太子ルートに入ったら?
もし、王太子がヒロインに恋をしたら?
もし、今までの努力は全部無駄だったら?
私は、なんのためにここに転生したの?
この世界はゲームの世界によく似ている。
でもたぶん、ゲームの世界そのままじゃない。
もし原作が全ての世界だったらルートのない私が王太子の婚約者になって学園入学まで来れるはずがないから。
もっと早く修正されてたはずだから。
だからきっと、大丈夫。
入学式の代表挨拶をしながら、ヒロインを見る。
驚いたような顔をした、とても可愛い少女。
その少女が、とても恐ろしい何かに見えた。
私はこの世界の悪役令嬢。
でも、私の人生は私のもの。
お願いだから、私の人生を壊さないで。
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