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代表挨拶

 

 凛とした雰囲気をもつ、綺麗なワインレッドの髪をハーフアップにまとめた少女が拡声補助機の前に立つ。

 まっすぐな髪は毛先の先端まで丁寧に手入れをされていることがわかる。

 少しだけ猫目の大きな瞳。

 ヒロインのルチアが淡い色だからと、濃い色を与えられた少女。

 前世では結構人気が高かった。


 髪と同じ色の瞳が燃えるようだ。


 公爵令嬢らしくとても丁寧で綺麗な礼をして、壇上でレベッカ嬢が口を開く。


「本日はこのように栄誉あるお役目を頂きましたことを身に余る誉と心震えております。本来なら我らが王国のいと尊き方が――――」


 涼し気な声だった。


 しっかりとした挨拶をしているのだろうが、私はほとんど聞いていなかった。

 外からの情報は全て上滑りして、なにひとつ入ってこない。

 あまりに予想外の事態で、処理が追いついていないのだ。

 がつんと頭を殴られたような衝撃にぐるぐると思考が纏まらない。


 ――――なぜ?


 代表挨拶とは、その年の入学者の中で入学試験を最も優秀な成績で通過した者がする。

 順位は魔力測定や座学試験、体力試験などの総合点で決定される。


 王太子殿下はルート自体がものすごいハイスペックを要求してくるだけあって、とても優秀だ。


 それは歳の近い第二王子がいるのに、表向き一切の王位継承争いが起こっていないことからもわかる。

 王太子殿下のあまりの優秀さと、第二王子があくまで兄に尽くすと公言しているが故。

 その評判は旅をしていても聞こえてくるほどだった。


 だから、この入学式の代表挨拶は当然王太子殿下がするものだと信じて疑っていなかった。

 というか、他の選択肢を考えたことすらなかった。


「―――私達新入生も、これからこの学園でより多くを学び――――」


 鈴を転がすような声、とはこんな声を言うのかしら。

 流れるような挨拶にそんな場違いな感情を抱ける程度には混乱も落ち着いてきた。



 改めて考えてみれば、その可能性があってもおかしくはない、のかもしれない。


 レベッカ嬢は確かに優秀で、おそらく転生者で、実績もある。

 元々ライバルキャラとして登場するだけあってスペックもとても高い。

 そのスペックを最大限引き出すことが出来れば、もしかしたら王太子殿下よりもいい成績で入学することも、できたのかもしれない。


 そこまで思い至ったあとは、気になるのは死亡フラグの分岐だ。

 レベッカ嬢が挨拶をしたことで、このあと王太子殿下に声をかけられることはないだろう。


 私が何をするでもなく、入学式のルート分岐は潰れたのだろうか。

 爆発騒ぎ自体が回避された訳では無いから、念の為にどうにかして現場に近付かないようにした方がいいだろう。


「――――以上をもって、挨拶と代えさせていただきます。新入生代表、レベッカ・ライラック」


 そう締めくくり、レベッカ嬢はぐるりと新入生のほうを見回す。ひとりひとりの顔を見るかのように。


 ばちり。

 視線があった。


 その瞬間、周りの音が消えたような気がした。

 レベッカ嬢の燃えるようなワインレッドの瞳がきらりと輝いているのまでわかるような気持ちになる。

 視線はすぐに外されて、綺麗な礼をしてレベッカ嬢は元の席に戻っていく。


 私はシナリオ上のヒロインだから、レベッカ嬢が注目するのはわかる。もし私がレベッカ嬢の立場でも意識しただろうから。


 ただ、絡んだ視線の中にとてつもない決意と覚悟を感じたような気がして。

 その覚悟は私に向けられていたような気がして。


 それがどうして私に向けられるのかが、わからなかった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

よければ評価・感想・ブクマなど頂けたらとても嬉しいです。

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