入学式
ザウスクラスト王国の国立学園ルピスはシラーユア大陸全土を見ても最も大きく、歴史があり、誰にでも門戸を開いている学園だ。
魔力・体力・知力をはじめとして特異な精霊召喚や従魔術が使えるなど、特別な才能を持った人材を育てる事を目的としている。
余談だが精霊召喚は個人の魔力でなく精霊の力を借りて魔法を使うことの出来る才能の総称で、従魔術はこれを魔物を使って行うことが出来る才能のことだ。
どちらもとても珍しく、滅多に使える人間はいない。
精霊召喚はエルフならかなりの割合で使えると噂されているけれど、実際のところはハッキリしていない。
ちなみに、設定集的にはこれは事実だ。
エルフは種族的に精霊の力を借りやすい。
もちろん個人差もあるし、普通の魔法も使えるのでこの事実はほとんど知られていないし、エルフはそもそも排他的なので情報が表に出回らないのだ。
閑話休題。
学園の入学資格は一定以上の才能と13歳以上であること。入学において年齢の上限はない。
なんと国も関係がない。もっとも他国からの入学者はほとんどいないが。
才能次第で誰でも入れる。
それがこの学園を大陸一と言わしめ、幾多の天才や傑物を世に送り出した要因である。
そんな学園の入学者は毎年かなりの人数だ。
今年の入学者だけでも千人を超えている。
その中で卒業までいくのは毎年3割ほどなので、学園の厳しさがわかるだろうか。
講堂に響き渡る学園長の長い演説を聴きながら今後について思考する。
私の座っている周囲はぱっと見て同年代が多い。
たまに年齢が上のような人達がチラホラいるのはライアンのように主人の入学に合わせて入学を遅らせたか、何回か入学試験に落ちたかだろう。
学園は全寮制。
これから5年間、夏の長期休暇以外で家に帰ることが出来るのはよほど特別なことがあった時だけである。
5年間、ひっきりなしに起こるイベントで、ことごとく死亡フラグを回避しないといけない。
考えただけで気が遠くなる。
けれど目を逸らしてもいられない。
シナリオではルチア・パラディンの死亡フラグは入学式からはじまるのだ。
実は、王太子ウォルター殿下は今年で15歳になるが、学園の入学は今年だ。
これは王太子殿下が優秀すぎたことに由来する。
王太子殿下が13歳になった年、ザウスクラスト王国では大不作だった。
各領の収穫は例年の半分に満たないほどで、あわや飢饉が起きるかと危惧された。
この解決に王太子殿下が奔走したのだ。
結果として飢饉は起きず、ザウスクラスト王国はより豊かになることになる。
代わりに王太子殿下はこれの対応によって2年、入学が遅れた。
シナリオでは入学式の代表挨拶は王太子殿下が挨拶するのだが、その時にたまたまルチアと目が合う。このときに視線を逸らせば死亡フラグ、逸らさなかったら次の選択肢がはじまる。
ちなみに視線を逸らした時に死ぬ理由はこのあと学園で軽い爆発騒ぎがおきるのだが、その時に爆発に巻き込まれるからだ。
視線を逸らさなかった場合王太子殿下に記憶にとめられていて、入学式後に声をかけられるので爆発時には現場にいない。
爆発の原因は薬学実験の失敗と公表される。
なのでルートが進むとはいえ、入学式では目を逸らしてはいけない。
アランドルフを拾った時以来のルート分岐がもうすぐ来ると思うと心臓が痛い。
ばくばくと鼓動が大きくなっているのがわかる。
死にたくない。
生きていたい。
だから、死亡フラグは折らないといけない。
長い演説が遠くに聞こえる。
冷や汗が背中を落ちていく。
もうすぐだ。
演説が終わった。
「――――――それでは次に、代表挨拶。代表のレベッカ・ライラック嬢」
「はい」
え?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よければ評価・感想・ブクマなど頂けたらとても嬉しいです。