結果
治療をはじめてどれくらいの時間が経っただろうか。
ひたすら傷口に治癒魔法を使いながら、解毒薬を効果が切れる前に振りかける。
合間に体力回復薬を飲ませ、ラフィノアさんの体力の限界を見極めながらほんとうにゆっくり、けれど確実に治療を進めていく。
途中で何度か人が入れ替わった気配がしたけれど、誰だったかまでは確認していない。
多分ラフィノアさんのパーティメンバーの誰かだろう。
長時間治癒魔法をかけ続けている私の体力もどんどん削れている。
額から流れた汗が顎からぽたぽたと落ちるのを感じが、拭っている暇はない。
見かねた誰かが途中で拭いてくれた気配を感じたけれどすぐにまた玉のような汗が滴り落ちた。
はじめ滲んでいた血は既に止まっている。
今は無くなった皮膚を繋げているところだ。
この世界の治療魔法は無くなった場所をいきなり復活できたりはしない。傷口がかさぶたになって新しい皮膚が出来るように、体の回復を手伝うだけだ。
じわじわと抉れていた傷口に新しい肉が盛り上がり、周りの皮膚と同じような硬さになっていく。
体から毒が完全になくなる前に傷口を塞ぎきってしまってもまずい。
ラフィノアさんに意識が無いので、解毒薬の経口摂取が難しいからだ。
体力回復薬と違って解毒薬は少しずつ飲むと効果が変わってしまうので、せめて意識を取り戻してもらわないと飲ませられない。
傷口に振りかける解毒薬でできる限り毒を薄めて、傷を塞ぎつつ体力回復薬を飲ませているのでそろそろ意識が戻ってもいいはずで。
逆に言えば、このまま意識が戻らなかった場合は助けられない可能性が高くなってしまう。
はやく気付いてくれと願いながら更に治療を続けた。
と、ラフィノアさんの体がぴくりと動いた。
「ぅ―――、」
小さな呻き声をあげながらラフィノアさんのまぶたが震え、そのままゆっくり開く。
「っラフィノア!! 」
横からペルさんが叫んだ。
どうやら今隣にいたのはペルさんだったようだ。
必死なペルさんの声に応えるかのようにゆっかりと視線が動くのを確認して、彼女の意識が戻ったことを確信した。
「ペルさん、ラフィノアさんに解毒薬を、口から飲ませてください。それで……多分解毒が終わります」
「! わかったわ! 」
本人の意識が戻ったのなら、経口摂取してもらえばもう毒は気にする必要がない。
あとは体力を見つつ傷口を塞げばいいので、かなり楽になるはずだ。
そうしてペルさんが口元に持ってきた解毒薬を、ラフィノアさんはしっかり飲み込んでくれた。
―――――――――――よかった……。
傷口にほんのり残っていた紫色が完全に消えたのを確認して、解毒が完了したことにひとまず安心した。
そのまま大事にならない程度まで治癒魔法で治して、一旦魔法を止める。
途端に疲れがどっと襲ってきて思わずその場に経たり混んでしまう。
気づかなかったけれど全身汗みずくで、服が汗を吸ってぐっしょり濡れていた。
「……ふぅ。解毒は終わりました……傷もかなり塞がったのでもう命の危険は無いはずです。あとは体力を回復させつつ何回かに分けて傷口を完全に塞ぎましょう」
「ありがとう……っ!! ほんと、に!ありがっ……! 」
ラフィノアさんが助かったことに感極まってしまったペルさんの、嗚咽混じりの感謝の言葉に胸が熱くなる。
「私こそ……助けられて、ほんとうによかった……」
心の底から絞り出すように、言葉が溢れた。
命の危険がほぼ無くなったことに安堵する。
「傷口は、綺麗な包帯で巻いて…………一旦、それで大丈夫の……はずで、す……」
体の力が抜けた瞬間にまとめてやってきた疲れに流されるまま、やってきた暗闇に私はそのまま意識を手放した。
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