治療
多少のグロテスク要素を含みます。
ペルさんに連れられて行った部屋の中には、他に4人の男女が居た。
それぞれ顔に不安や焦りの表情を浮かべていて、戻ったペルさんに対してほんのすかに、期待と希望を滲ませている。
「ペル……っ! 治癒士は見つかったの!? 」
「落ち着いて、ルールゥ。治癒士は連れてきたから」
「見つかったのか!! よかった……っ!! 」
見つかったと聞いて崩れ落ちたルールゥと呼ばれた女性を支えた男性が思わずと言ったふうに声を上げる。
他の人たちも落ち着いたのか、明らかに先程より空気が軽くなった。
そこまで期待されても、困るのだけど……。
確かに治癒魔法を優先して訓練したけれど、確実に助けられるとは言いきれない。まだラフィノアさんの状態を見てもいないのだ。確約なんて出来るはずもないのである。
「こちらが治癒士のルチアさん。ルチアさん、ラフィノアはこっちです」
「あ、はい」
挨拶もそこそこに奥の部屋へ案内された。
誰も何も言わない。
悠長に自己紹介をしている状況ではないと皆思っているのだろう。
「――――っ」
ベッドに横たわるラフィノアさんの容態は、想像よりも深刻だった。
うつ伏せに寝かされた肩から背中にかけての傷は塞がっておらず、巻いてある包帯にじわじわと血が染み出している。この傷がいちばん酷い。
他にも小さな傷があちらこちらに出来ていて、顔色は悪く、呼吸も速い。
このままでは治癒魔法に本人の体力が負けてしまう。
慌てて近寄り、ライアンから受け取っていた魔法薬の口を開ける。
「ライアン! ラフィノアさんの体を起こして! まず魔法薬で体力と毒をどうにかする! 」
「わかりました! 」
「私になにか出来ることは!? 」
「清潔な包帯と布をできるだけ多く持ってきてください! 」
「わかったわ! 」
うつ伏せのままでは魔法薬を飲めないし、私では意識のない成人女性を持ち上げることは出来ない。
ラフィノアさんの上体を向きを変えながら起こしてもらい、包帯をとる。あらわになった傷口は紫色に変色していて、所々皮膚が抉れていた。
グズグズと変色し爛れた肉が見えている場所もある。
血自体はほぼ止まっているものの、傷口が塞ぎきれておらずじわりと滲み出している。
まずこの血を止めて、毒をどうにかしないといけない。
魔法で水を出して傷口を洗浄する。
そこに解毒薬を満遍なくかけていく。
だんだんと薄くなっていく紫色に効いているのがわかる。
本来解毒薬は服薬、つまり飲ませるのが1番いい。
今回はラフィノアさんの意識がないので傷口に直接かけた。
傷が完全に塞がっていなかったことが逆に幸いして、傷口から解毒薬が体内に入って効果を出してくれたようだ。
「今まで使った解毒薬はわかりますか?」
「上級解毒薬を3本、1本はすぐに本人が飲んで、残りは後から飲ませたわ。特級は街に在庫がなくて手に入らなかった」
「なるほど」
前の3本のおかげで今までもったのだろう。
ライアンの解毒薬は伯爵家の専属従者になるだけあって効果が高い。とはいえ市販の特級魔法薬ほどの効果はない。
特級さえ手に入れば毒はどうにかできていたかもしれないが、ダンジョン特需の弊害で手に入らなかったようだ。
無いものをどうこう言っても仕方ない。
「解毒薬の効果が切れる前に手持ちの解毒薬をかけて効果を持続させます。何回か繰り返せば毒はなんとかなるはずです」
問題は、傷口と体力だ。
体力回復用の魔法薬は口から飲まないといけない。
意識のないラフィノアさんに一気に魔法薬を飲ませたら窒息してしまう可能性もある。
少しずつ、ゆっくりと時間をかけて1本目を飲ませる。
飲ませながら、傷口に少しずつ治癒魔法をかけて傷の回復を助ける。
一度にしてしまうと逆に体力が持たずに危険だ。
傷口の回復と、毒の解毒、そのふたつとラフィノアさんの体力が持つかどうか。
助かるかはそこにかかっている。
魔力回復薬を飲み干しながら、治癒魔法をかけ続ける。
長い治療がはじまった。
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