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死亡フラグも恋愛フラグも要りません!

 

 私の親友は凝り性だった。


 気になったことはとことん調べないと気が済まないし、ハマった趣味はとことん極めようとする。

 没頭型でまわりを巻き込むことがとてつもなく上手かった。


 そんな親友がいちばん没頭していたのが、乙女ゲーム。

 その中でも魔法や異種族が出てくる世界の、学園モノと言われるジャンルだ。


 現行リリースされている乙女ゲームなら据え置き型もスマホゲームも関係なく片っ端からプレイし、考察し、果てはバックグラウンドやシステムまで検証した。


 その結果、彼女が突き当たった結論は「乙女ゲーム、設定が甘すぎる」だった。


 例えば王子が攻略対象で、学園モノの場合なぜそんな年齢まで婚約者がいない?

 そもそも王族が普通に通う学園とは?

 学園内では身分差がないとはいえあからさまに王族の取り巻きなんて出来るのか?


 例えば仮に悪役令嬢がいるタイプの場合、婚約解消ではなく破棄にする必要があるのか?

 そこそこ身分のある悪役令嬢を公式の場でわざわざこき下ろしてあげつらう、その醜悪さを他の貴族や学生に見せるとは為政者としてどうなのか?


 例えば魔法がある世界設定ならその魔法とはどんな理論で出来ているのか?

 幼い子供が強大な魔力を持っていた時の処置方法は?

 国ごとのスタンスは?


 例えば、例えば、例えば。

 彼女がゲーム内で疑問に思った事が設定としてきちんと網羅されているゲームは意外と少なかった。


 もちろん皆無では無いのだが、分かりやすくテンプレート通りの王道シナリオこそが人気になるような市場だったのでそれこそわざわざゲームシナリオに関係ないバックグラウンドまで拘っているゲームは少なかったのだ。


 そしてとことん極めなければ気が済まない凝り性の親友は考えた。


「そうだ、ないなら作ればいい」


 その一言から始まった彼女の理想の乙女ゲーム制作は、王道ゲームが飽和状態になって飽きかけていたユーザーの心を掴む。


 企業から資金提供を獲得して完成まで三年をかけ、そうしてきちんとリリースされた。そして、大ヒットした。


 中でも一番の目玉は『バッドエンド・死亡エンドの多さ』である。



 このゲーム、めちゃくちゃ細かくルートが分岐する。

 そしてめちゃくちゃ死ぬ。

 信じられないくらい死ぬ。

 なんなら死亡ルートの方が生存ルートより多い。


 攻略対象のメインシナリオでは選択肢をひとつ間違えたらふたつ先のシナリオでいきなり死んだりするのだ。


 直前の選択肢を変えても必ずそこで死ぬ。

 ひとつ前の選択肢のせいかとやり直してみても死ぬ。

 何故か?

 ふたつ前の選択肢で既に死亡ルート確定していたから。


 そんな理不尽なルート確定がシナリオ中に物凄くあり、ユーザーはオンライン上の有志の攻略ページや公式から出された辞書のように分厚い攻略本を片手にクリアしていく。

 そのやり込み要素が普段乙女ゲームをプレイしない層にまで飛び火し、大ヒットしたのだ。


 公式からのキャッチコピーは『愛か、死か』だ。


 繰り返すが乙女ゲームである。

 間違いなく乙女ゲームなのだが、普通のロールプレイングゲームより死ぬ。

 そしてこのゲーム、なんと自動セーブであった。


 つまり、任意の選択肢の前でセーブして失敗したらそのデータからやり直すということが出来ない仕様だったのだ。


 親友曰く人生にやり直しはきかない。

 重ねるがゲームである。

 ゲームの中でまでなぜそこを突き詰めてしまったのか。

 凝り性もいい加減にして欲しい。


 ちなみに私はこの凝り性の親友に巻き込まれて全シナリオの矛盾やシステムの矛盾、世界観のチグハグさなどを確認するデバックをさせられていた。

 なので、ほぼ全てのシナリオを網羅している。


 流石に三歳の脳では全ては思い出せない。

 というか複雑すぎて細かい所まで思考が追いつかない。

 それほどめちゃくちゃに凝っているゲームなのである。


 そして世界観を突き詰めた為に膨大な設定が公式から出ているので、派生でダンジョン攻略ロールプレイングゲームや成り上がり建国ゲームまで出ていた。

 そんな馬鹿みたいな規模の馬鹿みたいなゲームの、記念すべき第一作目であり根底の乙女ゲームの初代主人公がルチア・パラディンである。


 つまり、今の私だ。


 それに気づいた時の私の気持ちがわかるだろうか。何も考えず普通に生きていればほぼ死ぬ。

 シナリオで死亡ルートが多いということは、つまり世界全体が死にやすいということだ。


 死が、物凄く近くにあるのがこの世界である。


 なんてハードモード。

 そしてヒロインとして生まれた私は思った。もし、シナリオに強制力があるなら、それにもとづいて生まれた攻略対象からの愛は、本当に私への愛なのだろうか?と。


 そう、信じられるわけがないのだ。


 もちろん攻略対象である人物達がヒロインであるルチアを好きになる理由はそれぞれしっかりある。

 しっかりあるが、果たしそれはどこまでが本当の気持ちなのか?という疑念が、どうしてもシナリオを知っている私には生まれてしまうのだ。


 この三歳の私はまだ誰のルートにも乗っていない。

 ならば、攻略対象に近づかなければいいのかと言えばそういう訳でも無いはずだ。


 なぜなら先程も言ったがこの世界は死が近い。

 そして世界設定が細かい。ならば、確実に死ぬと分かっているルートがあると言うことはアドバンテージになり得るのではないか?


 それらを選ばず、その要因になった原因ごと回避しつつ、出来れば愛を疑わずにすむ攻略対象以外の恋人と今度こそ老後まで添い遂げたい。

 かつての私の恋人は優しい人だった。


 死亡フラグも恋愛フラグもいらないから、とにかく普通に生きて人生謳歌して子供産んで老衰で家族に見守られながら穏やかに死にたい!!!!


 三歳の私は決意を胸に行動しようとして、号泣の疲れと大人の思考で無理やり動かした脳の処理落ちで見事に知恵熱を出し七日間寝込んだ。






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― 新着の感想 ―
[一言] 普通ならクソゲー評価で終わる面倒な設定を突き詰めまくった結果ヒットしちゃったか
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