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その男、Sランク冒険者につき

 

 トレヴァー・カロット。

 ゲーム開始時点で二十歳。なので現時点では十七歳。

 若くしてソロの冒険者Sランクに名を連ね、その圧倒的強さから憧れと畏怖を込めて『とばり』と呼ばれている。

「彼と敵対したものは人生の帷を下ろされる」という意味だ。

 藍色の髪と夜を連れてくる精霊が死を司ることを掛けているらしい。


 切れ長の藍色の瞳。

 意志の強そうな眉。

 長く伸ばした瞳とおなじ藍色の髪。

 それを首の後ろで一纏めにしてある。

 大きな口をあけて快活そうに笑うのに、野卑たところは無い。

 いわゆる男前、と呼ばれる部類の美しさ。


 ライアンとは真逆の美貌だ。

 ちなみに、前世ではいちばん好きなタイプだった。



 攻略対象の中でも最年長で、彼は学園が依頼した実践訓練の特別講師として現れる。


 まだ幼いヒロインは彼から指導を受けながら、溢れる才能を開花させていく。

 その才能に惚れ込み手ほどきをしていくうちに好感度が上がっていくルートだ。


 ハッピーエンドでは彼と一緒に冒険者になる。

 パラディンの家から出る事になるが、縁を切った訳ではなく実家への希少素材の融通や他国の情報をいち早く伝える外部の人間として扱われるようになる。


 バッドエンドはいちばん多いのが彼との特訓の最中での死亡だ。

 次が魔物に襲われて死亡。

 国への叛意ありと誤解されて消されるなんてルートもある。


 攻略対象の中では比較的バッドエンドが分かりやすく、ハッピーエンドに持っていきやすい。

 ただし、攻略期間が他の対象より短い。

 入学してから最初の一年で彼の興味の対象になることが出来なかった場合、トレヴァーはは学園を去ってしまう。

 その場合、途中から巻き返して他のキャラのルートに入ることがとても難しくなる。

 なので彼を攻略しはじめてからの失敗は実質全ルート攻略不可能。


 そして誰のルートにも乗らなかった場合、ルチアは死ぬ。

 ステータスが高ければ使い潰されて死に、低ければ放逐されて死ぬ。


 まさに「愛か、死か」なのだ。




 設定上トレヴァーは学園に来る前は各地で冒険者として活動していた。

 ある程度名が知られていて、実力も認められている。


 とはあるが、まさかこのダンジョンにいるとは正直思っていなかった。

 いや、良く考えれば可能性はあった。

 新しく出来たダンジョンで、リアメカ帝国は攻略者を制限していない。


 そしてダンジョン攻略はいろんな人間が集まる。

 トレヴァーは強さを求めている。


 ソロのSランクに登りつめた彼は別になろうと思った訳じゃない。

 ひたすら強く、出来ることを続け、出来ないことがあれば出来るようになるまでやれば出来ると全てをこなしてきた。


 その結果、類稀なる強さを得た男。


 故に彼はひたすら戦いを欲している。

 強者を、血湧き肉躍る戦いを。

 強者になり得る存在を。


 そんな彼が今回のダンジョンにいないほうがおかしい。

 と、気づかなかった自分に呆れる。


 そして私は十歳にして十三歳の学園入学時のステータスをおそらく超えている。

 現に今、目の前の男はとても興味深いものを見つけたと言わんばかりの顔で私を見ていた。



「失礼ですが、どなたでしょう」


 突然の攻略対象の出現で反応が遅れた私を隠すようにライアンがさっと前に立った。


 実際、ダンジョンで急に声を掛けてきた見知らぬ男だ。

 警戒して当然。

 トレヴァーはそんなライアンの様子に気を悪くすることもなく、上機嫌に応える。


「ああ、悪ぃな。俺はトレヴァー。トレヴァー・カロットだ。好きに呼んでくれ」

「トレヴァー・カロット……高名なSランク冒険者が私たちに何か御用が? 」


 名前を聞いて思い当たったらしく、ライアンが少しだけ警戒を緩めたのがわかった。

 Sランク冒険者とは、ギルドの信用そのものと言い換えてもいい程の存在だ。

 素行の悪い人間はどれだけ強くてもSランクにはなれない。

 トレヴァーは強さにしか興味がないが、それ故に弱者には無害だ。


「いや、単にそこのお嬢さんがあまりに見事に魔法を使うから興味を持っただけだ。俺は強いやつや強くなりそうなやつが好きなもんでな」

「そうですか」

「安心して欲しいっつーのも変だが、あんたらに何かする気はねぇよ。変に警戒させちまって悪かったな」

「いえ」

「そっちのお嬢さんもいきなり声をかけて驚かせちまったな、悪かったよ」


 そう言ってにかりと笑うトレヴァーにライアンも納得したのか、警戒を解く。

 声をかけられたから驚いた訳では無いけれど、せっかくなのでそういう事にさせてもらおう。


「いえ。いきなり後ろから声をかけられると思ってなかったので、私こそ失礼しました」

「気にすんな。警戒して当然だからな。俺が悪い」

「ありがとうございます。ええと、トレヴァーさん、ですね。私はルチアです。そして彼は――」

「ライアンです」


 私の言葉を引き継いでライアンも名乗る。

 流石に名乗られて返さないのも失礼がすぎるし、Sランク冒険者から敵意を向けられる可能性はできるだけ潰しておきたい。

 トレヴァーは弱者には無害だが、聖人君子でも無いので。


 ルートに入るようなことはしたくないが、無下に扱えばいいわけでもない。

 嫌われるのもまた、バッドエンドの引き金になる。


「ルチアとライアンな。さっきも言ったが、お嬢さんの魔法はかなり筋がいい。伸ばせばきっと凄腕の使い手になれるぜ」

「ありがとうございます。そんなふうになれるかは分かりませんが、努力はしていきたいと思っています」

「そりゃあいい。出来ることをしないのは怠惰だからな」


 出来るまでやれば、できる。と言ってはばからない彼はやったけど出来なかった、を許容しない。

 出来るまでやれば出来るのだから、出来ていないのはまだ出来るまでやれていないからだ。

 なら出来るようになるまでやればいい。

 そう当たり前のように言ってくる男だ。


 だから、やれるように努力し続ける必要がある。


「じゃ、俺は先に進むわ。また会ったらそんときはよろしくな」

「はい、また」


 手をひらひらと振りながら軽い足取りで先に進むトレヴァーを見送る。

 彼の姿が完全に見えなくなってから、ほっと息をついた。


「いきなりびっくりしたけど、悪い人じゃなくてよかったわ」

「そうですね。流石にSランク冒険者に出逢うとは思いませんでしたが、噂の通り快活な方のようですね」

「そうね。と、剥ぎ取りの途中だったわね。残りを剥ぎ取って……なんだか少し疲れたから、今日はもう戻りましょうか」


 体力より気力が削がれた。

 そんな私にライアンは軽く頷く。


「ギルドにも行かないと行けませんしね」

「そうね、何かしら」

「ギルドからの依頼ですから、変なものでは無いでしょうが」


 入口のギルド職員は私達へ、ではなくルチアへの依頼、と言った。

 そうなると魔法関連だとは思うのだけれど、治癒か、風か、水か。


 面倒事じゃないといいなあ。



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