ダンジョン一階層と、ふたりめ
さすが貴族用の部屋。
ふかふかの布団でぐっすり眠ることが出来た。
身だしなみを整えてから軽く体を動かす。
うん、旅の疲れもきちんと抜けている。
宿屋の食堂は朝から結構な賑わいだった。
早朝からダンジョンに向かう冒険者が多いようでどのテーブルもしっかりとした朝食をとっているようだ。
空いている席に座ってライアンが食事を持ってきてくれるのを待つ。
せっかく家を出てるので私も手伝いたいのだが、流石にあの混雑の中に飛び込むのは無理なので大人しくしている。
しばらくしたらライアンが食事を二人分持って戻ってきた。
「おまたせしました」
「大丈夫よ。お疲れ様」
あの混雑に負けずに持ってきてくれただけでとてもありがたい。
朝食は焼きたてのパンに厚切りベーコンとスクランブルエッグ、デザートにココの実と言われる林檎のような味の果物がついていた。
ちなみに食文化はトルルコ商業国が一番発展していて、次がこのリアメカ帝国だ。
ザウスクラスト王国もパラドックス商会のおかげで追い上げてはいるがまだまだ追いつかない。
なので食事が美味しい。
なんと何気ないスクランブルエッグにもちゃんと味付けがされているのだ!
地味に感動しながら食べていたが、どうやらライアンも同じ気持ちらしく嬉しそうな顔をして食べている。
これだけでもリアメカ帝国に来た意味はあったかもしれない。
しっかりと朝食をとったあと、昨日用意した荷物を持ってダンジョンへ向かった。
ダンジョンの入口はギルド職員が管理しているらしい。
冒険者はライセンスを差し出し、違う人は魔力登録をしていた。
ある程度人数を管理することで行方不明者や死亡者を確認しやすくしているのだ。
入口でチェックをしているダンジョンは多くないと聞くが、ここは出来たばかりの話題のダンジョンなので管理もしっかりしている。
ギルド職員に作ったばかりのライセンスを渡す。
何かしらの操作をしてから返される。
と、職員が小声で話しかけてきた。
「あの、ルチアさん」
「はい? 」
「ダンジョンから戻って来たら一度ギルドに来ていただけませんか。ひとつ指名依頼がございまして」
「指名依頼? 私に? 」
「はい、詳しくはギルドに来ていただいてからお話しさせていただきます」
なんだろう?
首を傾げつつも特に断る必要も無いし、ギルドに悪印象を持たせる意味もないので了承する。
「わかりました。ではダンジョンから出てから向かいます」
「ありがとうございます。お引き留めして申し訳ありませんでした」
「いいえ」
ほっとしたような雰囲気の職員からお礼を言われた。
「そういうわけだから、ちょっと早めに切り上げましょうか」
「かしこまりました」
なにはともあれ、ダンジョンである!
ダンジョンの一階層は洞窟のようだった。
一階層は基本的に危険が少ない。
既にある程度階層の情報も出回っていた。
そこまで広くはなく、すぐに二階層に続く階段まで行ける。
魔物もそこまで強いものはいない。
洞窟なだけあってどうやら蝙蝠のような形をしたキロプテラと呼ばれる魔物が多いようだ。
キロプテラは仔猫くらいの大きさだをしていて、風魔法でこちらをめまいのような状態異常にしてくる。
魔法で動けなくなった獲物に牙から毒を打ち込む。
しかし毒は弱く致死まで時間がかかるので最初の風魔法の対策さえ出来ていればそこまで怖くない魔物だ。
そして私は、風魔法が得意である。
「風よ――」
キロプテラが打ってきた風魔法を上書きするように魔法を重ね、効果の範囲を反転する。
途端にまともに動けなくなって地面に転がるキロプテラ。
そこにライアンが止めをさしていく。
力を失った淀んだキロプテラの眼がこちらを向く。
はじめて、生き物が死んだ所を見た。
殺すために魔法を使った。
思ったほど、動揺していない。
覚悟していたからか、この世界の感覚に慣れてきたのか。
殺さなければ、死ぬ。
だから殺す。
キロプテラは翼が魔法薬の素材になる。
なのでランクの低い冒険者はここで小金稼ぎをするらしい。
キロプテラの翼はライアンも必要だと言うので、何体か狩ることにした。
先程と同じように風魔法を使っていると、後ろから声をかけられた。
「へえ、歳のわりに上手に魔法を使うな。お嬢さん」
知ってる声だった。
少し低めのハスキーボイス。
前世では腰にクると評判で。
ゆっくりと振り返る。
声から想像した通りの人物が、そこにいた。
トレヴァー・カロット。
攻略対象である。




