01.”転生運送”??
「いくらコロナ禍だからってこれはひどい…」
まだ涼しい春一番。
まちはさまざまな事情を持った人たちでごったがえす。
今日でついに面接20社めのお祈りをもらって気分は最高。
虎田九里
26歳無職独身だ。
「これはやばいよなーーー。。」
この歳でやったのことあるしごとは居酒屋のバイトとトラックの運ちゃんのみ。
このご時世で18から働いた会社は倒産。
倒産した時季も悪かったため就活は困難。
小さい会社はこういうときおそろしいのだ。
2ヶ月の就職活動。
手元にはあと諭吉ひとり。
もうはたらかないとさすがにまずい。
…………………………
「酒飲み行こ」
悪魔的鬼手。
…………………………
カランカラン
「おいっす!やってる?!」
「「おっ!!きたか虎!!」」
60すぎの白髪混じりでガタイのいいおっちゃんが出迎えてくれる。ここの大将だ。
ねじり鉢巻は気合の証だとかなんとか。
「あいかわらず人いねーな!!」
「「うるせえ!!店じまいしちまうぞ!!」」
「ごめんごめんうそだって!!w」
田舎から上京してきた俺がはじめてバイトをした居酒屋。
飯もくえないときにまかないだなんだと食わせてくれた。面倒見のいい大将だ。
見た目はボロでキレイとはとても言えないが田舎出身の俺にはこれが落ち着くんだよな。
「おっちゃんいつもの!!」
「「あいよっ!!」」
4人掛けのカウンターの1番左に座る。
おっちゃんの料理してるところがいちばんよく見える俺の特等席だ。
「「とりあえず生だろ??(ニヤっ)」」
ドンっ
「もちろん(ニヤっ)」
ゴクッゴクッゴクッ
キンキンに冷えたビールの一口目はなぜこんなに最高なのだろうか至高。
「カッアァァァァアア!!最高」
「「カッカ!ホントにいい飲みっぷりだなあ!!」」
ビールのグラスを冷凍庫に入れないで常温の店は二流だと思っている。マジで………
「「あいよ!いつもの!!」」
「キタキタぁ!!」
時間をかけて丁寧に煮込まれたホロホロの角煮。
からしなんか付けた日にはこれがビールが進むんだ。
「おっちゃん……最高」
「「あたりめーだ」」
「人がこないのがフシギだぜ」
「「はったおすぞ??」」
腕まくりですごんでくる。人相があんまりよくないんだよな……
「「そいえば仕事は決まったのか??」」
「今日は20社お祈り記念呑みでございます」
「「なるほど最高だな」」
「最高の気分です………」
………………………
たわいない話をしながら気付けば2時間
さすがに酔ってきた。
「おっちゃん!そろそろ勘定しよかな!!」
「「あいよ!あ!ちょっと待ってな!
そいえばこの前きた客が言ってたのを思い出してな」」
「ん??客なんかくんの??」
「「うるせえ!!なんでもトラックの運転手なんだがすぐにみんな辞めちまうから結構ずっと募集してるところがあるらしいんだ」」
「マジかよ?!なんてとこだ?!」
「「あーなんだっけかなー変な名前だから覚えてたんだよな…たしか…
”転生運送”だったかな??」」
「……”転生運送”…⁇調べてみるよありがとうおっちゃん!!」
お金を払い店をあとにする…
結構飲み食いしたのに5000円ぴったり。
おっちゃんの人情のあつさを感じる。
「ごっつぁん!!」
「「まいどぉ!!!」」
……………………………
家に帰るまでの道中ケータイで調べてみる
「”転生運送”……っと…あった」
ホームページはなく住所は出てくるが詳しい会社概要が全然出てこない。
「正社員急募。社会保険完備。
これは………きっとブラック企業だな」
しかしお金を稼がなければあの角煮も食べれない。。
「とりあえずメールして面接行ってみるか…」
…………………………
シャッシャッ
クルクル
家に着きたばこを巻いて吸う。
昔からやめられない嗜好(至高)品なのだ。
オーガニックの巻き紙にアークロイヤルの紅茶葉のフレーバーが合う。
何年も使っている傷だらけのジッポで火をつける。
カチャ…ボッ‥
「フゥーーーー…」
2階にある1Kのボロアパートの窓に腰掛けながらふかすたばこ。
ときどきこのまま煙になって消えたいと思う時もある。
安あがりだが甘美だ。
都会の夜は10時を過ぎてもまだ明るい。
自分はこのまちの灯かりのひとつなのだ。
それがなんだか誇らしくもあり不安になるときもある。
ウイスキーのロックとチョコレート。
YouTube小洒落たジャズなんかあればもう何もいうことはない。
いまだにイヤホンで聴くのは慣れ親しんでいるからかな。
銘柄はブラックニッカ。
貧乏人は酔えればいいのだ。
「やっぱり最高な一日だったな……」
読んでいただきまことにありがとうございます。
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