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第七話 闇夜の計画

 オルランド率いる《ヤミガラス》の者達は、村で一泊して旅の疲れを癒し、それから改めて明日にアルマと話し合う、ということになった。

 アルマが都市ズリングへと向かう件もそうだが、《ヤミガラス》は天空艇の部品を回収しなければならない。

 容易に持ち運べるものでもないので、その算段についてもまた話し合わなければならない。


「では、僕の館までご案内いたしましょう」


 ハロルドが席を立ち、オルランド達へとそう提案する。


「ほう? 領主殿の館に?」


「ええ、そのつもりでしたが、何か問題が?」


「いや、アルマ殿の塔は、随分とご立派ではないか。言っては悪いが、我々が親交を深めたいのはハロルド殿ではない、アルマ殿だ。まさかこれほどの建物に、客人用の寝室がないとも思えないが?」


 オルランドの言葉に、ハロルドが表情を顰めた。

 ハロルドはひとまず、何を言い出すかわからないアルマをオルランド達から引き離し、一度方針を具体的に詰めておきたかったのだ。

 アルマの塔にオルランド達を居座らせたくはなかった。


「厚かましい申し出とは承知しているが、こちらも任務できている。わかっていただけるか、領主殿よ」


 ハロルドは黙って、オルランドの目を見た。

 ハロルドはオルランドの言動に、どうにも不審なものを感じ始めていた。


 ハロルドの村はこれまで、一つ采配を間違えればそれだけで滅びかねない窮地にあった。

 魔物災害や、小さな村を食い物にしようとする悪徳商人や似非錬金術師、粗野な冒険者。

 故に、交渉ごとには長けている自負があった。


 ハロルドには、オルランドの親睦を深めるためというのは、ただの建前だとしか思えなかった。

 オルランドは明らかにアルマを嫌悪している。

 また、任務のためだからといって、嫌いな相手と仲良くやれるような人間だとも思えなかった。

 塔に残りたいというのも、アルマの時計塔が気に入ったというような、そんな純粋な理由だとは考えにくい。

 どう考えても、裏の理由がある。


「アルマ殿、止めておいた方がいい。理由を付けて断ってくれ。ほぼ間違いなく、別の意図がある」


 ハロルドはアルマに近寄り、小声で耳打ちした。


「心配するなハロルド。俺の城で余計なことをやらかしてくれるのなら、むしろ対応が楽で助かるってもんだ。連中の魂胆を暴いてやろうじゃないの」


「君も君で不安なんだけれど……」


 ハロルドの不安を他所に、アルマはオルランド達を振り返る。


「勿論構いやしないぜ、オルランド。歓迎しようじゃないか、仲良くしようぜ」


 アルマの胡散臭い笑みに対し、オルランドは鬱陶しげに鼻を鳴らした。


「本当ですかぁ? いやぁ、嬉しいですぅ、アルマ様の塔にお泊りできるだなんて。時間のあるときに見学させていただいても構いませんか?」


 ゾフィーが手を叩き、アルマの言葉を喜んだ。


「仲良くしましょうねえ、ええ、アルマ様」


 ゾフィーが舌舐めずりをする。

 さすがのアルマも目を細め、嫌悪の視線を彼女へ向けていた。


「任務できているのだぞゾフィー! あまり勝手な真似をしてくれるな」


 オルランドがゾフィーを怒鳴りつける。


「いーじゃないですかぁ、隊長さん。錬金術の新たな知見を得て、ゾフィーがそれを持ち帰れば、ゲルルフ様も大層お喜びになられると思いますけれど」


「そうゲルルフ様に命じられたのか? 判断を任されているのはこのオレだ。貴様ではない」


 オルランドが凄むと、ゾフィーはわざとらしく身を縮め、怯えているかのような素振りを取った。

 それが余計にオルランドを苛立たせたらしく、歯を噛み締めてゾフィーを睨む。


「チッ、貴様は苦手だクソガキ」


 オルランドの言葉に、ゾフィーは表情を崩し、にへらと笑った。


「お前もあんまり気に喰わないんだが、その言葉には共感してやれそうだ」


 アルマは小声でそう呟き、溜め息を吐いた。





 深夜、オルランド達《ヤミガラス》の五人は、一つの部屋に集まっていた。


「オレがゲルルフ様より受けた命令は、アルマを見極め、使えそうな奴だと思えば都市ズリングへと連れ帰ることにあった。これには二つの例外がある。一つは、噂程でなければ、連れ帰らずにさっさと帰還して情報を持ち帰る。そして二つ目は、本当に危険な奴だと思った場合は、手段を選ばずにアルマを処分する」


 オルランドはそこまで言い、少し間を挟んだ。

 部下の四人の内の三人は、不安げな顔で互いを見やる。


「ええ、ええ、このゾフィー、旅立ちの前よりそれは承知しておりますとも。いや、素晴らしい御方でしたねぇ、アルマ様は。隊長さんも、悩まずに済んで一安心と言ったところですか」


 ただ一人、ゾフィーだけは楽しげに頷き、楽観的な調子でそう口にしていた。


「ああ、悩む理由は何もない。奴は危険過ぎる。幸い、敵の懐に潜り込む好機を得た。アルマが寝ている間に、我らの全力を持って奴を葬るぞ」


 部下の三人が静かに頷く中、ゾフィーは表情を歪め、手で激しく壁を叩いた。


「どうしてですか隊長さん! あんな知識と技術の塊、他にいませんよぉ! それは貴重な図書館を焼き潰すが如くの愚行でしょおお!? 馬鹿なんですか、バーカ! これだから頭の悪い人は嫌いなんです」


「大声で騒ぐんじゃねえぞクソガキィ! ゲルルフ様の指示だということを忘れているのか! どんな貴重な資源であろうと、制御できないならばない方がマシだ!」


 オルランドはゾフィーの首許を掴み、宙へと持ち上げる。


「ゲルルフ様、心配性なんですよお。あの人、確かに知識も技術もありますけど、性格が研究者じゃないんですもん。根っからの権力者肌だから」


「オレもゲルルフ様は何をそこまで心配なさっているのかと、ここに来るまでは思っていた。だが、今日確信した! 奴は放っておけば、間違いなく、ゲルルフ様の地位を脅かす存在になる。そうなる前に、我々が奴を始末するのだ!」


 オルランドはそう叫ぶと、ゾフィーを床へと投げつけようとした。


「やめておいた方がいいですよぉ。深夜ですから、寝ている方々の迷惑になります」


 ゾフィーは口を横に広げ、いつもの嫌な笑みを浮かべる。


 オルランドは腕を止め、舌打ちするとゾフィーをゆっくりと降ろした。

 今はアルマを殺せる絶好の機会である。

 下手な物音を立てれば、相手を警戒させることになる。


「でも、殺すのは勿体ないですよお、隊長さん。ねえ、そう思いませんか、皆さん方? あの技術力があったら、都市ズリングはもっともぉっと発展します。それにゾフィー、ちょっとあの人のこと好きなんだけどなぁ。頭がよくって、飄々としてて、痩せてて、顔立ちもイケメンですし」


「知るか、私情を持ち込むな! とにかく、奴はここで始末する」


「だからぁ、手足落として持ち帰りません? ゾフィーのワンちゃんにします。それが一番よくないですか? ゲルルフ様も、絶対喜ばれますよぉ。ね、ね? ちゃんと面倒見ますから」


 オルランドがドン引きした表情でゾフィーを見る。


「ゾフィー、何かヘンなこと言いました? ああ、手足落としたら、ワンちゃんじゃなくてイモムシですね! これは失敬です」

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― 新着の感想 ―
[一言] 仮に可愛いとしてもゾフィーは無理だな……
[一言] 仲間フラグかと思いきやヤンデレストーカー化の可能性がw ヤンデレ?……キチガイかな しかし敵地の本拠地で襲撃とかダルマとか話してるのは不用心で低脳過ぎる 可哀想になってくるレベルだww
[一言] 客観的に見れば、ゾフィーもアルマ変わらないというかアルマの方がやばい。。
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