38.はじめての王族晩餐会。
私達を乗せた馬車はお昼過ぎに出発した。
晩餐会がはじまるのは日が暮れてからだ。
早過ぎない?
それがそうでもない。
目上の者より後に到着するなっては許されない。
母上が急かす理由がそこにあった。
馬車は王宮の正面門から入場する。
一般貴族がこの門を通ることは許されない。
この日限りのシンデレラだ。
そこから待合室で長い時間を過ごすことになる。
退屈だと言って外に出る訳にもいかない。
父上が戻ってくるのを待つだけの退屈な時間を過ごす。
晩餐会は王を始め、有力者から入場してゆく。
最初に待合室に入って最後に出る。
父上と母上が社交会から戻って来て気が遠くなるような長い時間が終わりになった。
『ヴォワザン家、ご入場!』
会場がざわついた。
あのダミー婚約と影口を叩かれていたヴォワザン家が呼ばれたのだ。
驚いている方の筆頭はラーコーツィ家の方々だろう。
会場の中で一番にざわついている。
その中にレサイバーイエロー(菊の花)のような鮮やか金髪が揺れた。
少女の瞳はブルーサファイアーのように青く澄んでおり、左目の下に泣きホクロが微かに映る。
ラーコーツィ侯爵家の令嬢カロリナだ。
オリバー王子の本命と噂される彼女から敵意は感じられない。
彼女は第二王子クリフの婚約候補の一人であり、彼女と結ばれた者が王になると疑っていない。
私など眼中にないのだろう。
それでも興味がないという訳でもなく、私達を覗き込んでいる。
目が合ったので軽く会釈をする。
カロリナ嬢も軽く会釈を返してくれた。
静観しているのがセーチェー家の方々だろう。
去年の小麦買い占めではセーチェー家の北方貿易路を使わせて頂いた。
まったくの無関係という訳でもない。
しかし、第二王子クリフの婚約候補でラーコーツィ家と争っているので、我がヴォワザン家には興味がないという感じだろうか。
その中心にいるのが、セーチェー家の令嬢のテレーズだ。
1つ年上で目鼻がはっきりして、淡褐色の瞳と栗毛のブリュネットが優しそうな印象を受ける。
存在感を持っている。
おそらく彼女がテレーズだと思えた。
グラスを上げて歓迎ムードで出迎えてくれているのは東領のエスト侯爵、その横で笑みを浮かべているのがセンテ侯爵だ。
二人の侯爵様は小麦の救済で感謝の手紙を送って来ている。
国王としては不満だろうが、この二侯爵家には文句が言えない。
南領が新農法で乗り切ったことを知って、タダで技術支援が欲しいらしい。
抜け目がないというか、図々しい。
あげますよ。
ウチのお得意さんですからね。
東領と中央領が発展するほど、南方の売り上げが上がります。
会釈だけであいさつはしない。
最初にあいさつをするのは国王と決まっているからだ。
『今宵、絶対の神ユーリの導きによって我が主モシュモント・アブ・アール王の召喚に応じて参上致しました。最も貴き王よ。王の望みのままに恭順なる我は王の求めに応じ、正しく遂行致します。ここに留まることをご許可頂きたいと願います』
『従順なる我が僕よ。許す』
『ありがたき幸せ!』
父上が口上を終えて頭を下げると、後ろに控えていた私達も頭を下げた。
「そちがエリザベートか!」
「はぁ、我が主様、わたくしがエリザベートでございます」
「聡明な子と窺っている。これからも尽くせ!」
「微力ながら尽くさせて頂きます」
おい、会場の目が私に集まっている。
王に声を掛けられるのが、そんなに珍しいことなのか?
父上が立ち上がると左手に退場したので付いてゆく。
これですべての入場が終わった。
王は立ち上がり、宴をはじめることを宣言して晩餐会がはじまった。
王自身も王座を降りてくる。
出迎えているのは親族らだ。
流石にあの中に入ってゆく勇気はない。
オリバー王子と婚姻を為すと、自動的に指定席が用意される。
面倒臭いな!
今、出迎えている中に王子達の姿はない。
ここから父上と母上は王族から順番にあいさつに回ってゆく、最初はセンテ侯爵からだろう。
と思っていると、
立ち止まって母上が軽く扇子を揺らした。
扇子が揺れる先に、オリバー第一王子の姿があった。
あいさつをして来いという意味だろう。
王子は幼い感じの少女達に囲まれていたので父上と母上は遠慮するつもりだ。
気が進まないが会わないという選択はない。
見た目だけ神々しい王子だ。
微笑むだけで花々がバックを飾るようだよ。
幼い姿の天使達に囲まれている風景が広がっている。
確か『ロリコン』ではなかったと記憶するのだが?
「(エリザベート、不敬な発言は控えなさい。口に出ていますよ)」
「(ですが、母上)」
「誰かさんが7歳デビューをしたので、最近は7歳からデビューするご令嬢が多くなったのよ」
私のせいですか!
王子に新しい性癖が加わったとか言わないでよ。
見た目がいいから結婚を拒絶するつもりはなかったけど、変態さんの妻になるのは流石に嫌ですよ。
歩き始めた私の前に黒い影が横切った。
少し小太りの夫人であり、圧倒される。
気品と存在感がトンでもない方だ。
「はじめまして、小さな魔女様」
誰?




