36.優雅に午後ティーならぬ、午前ティーを。
朝方から優雅なお茶の時間を過ごしていた。
昨日ですべて終わった。
今日から社交界シーズンであり、お茶会と舞踏会に奔走する。
令嬢の時間だ!
春の庭園は美しい。
庭師もこの時期が一番に楽しいだろう。
咲き誇る花たちを眺めながら散歩を終えて戻ってくると朝のお茶会を始める。
お茶の相手はアンドラだ。
特に話すこともないので、時間がゆっくりと流れていった。
「母上のダンスの猛特訓が懐かしいわ」
「そうですね」
「そう言えば、母上に何をされているの? 今朝は一緒にお茶を楽しむと言われていましたのに」
「今日、着てゆくドレスを見直しております」
「また、母上にも困ったものね!」
「姉様はよろしいのですか?」
「必要ないでしょう。アンドラと一緒よ」
「僕と?」
「何を着ても美しく見えるでしょう」
「はい」
アンドラが妖艶な笑みを浮かべて微笑む。
何が素晴らしいかと言えば、エリザベートのスタイルの良さよ!
遠い過去の地味っ子よ、さようなら!
母親譲りの美貌とスタイルに感謝だわ。
アンドラと一緒に並べば、美少年と美少女のペアーが完成する。
はじめての舞踏会では、新着のドレスを何度も着直して自分に見惚れた。
ダンスの猛特訓も、ドレスを見れば耐えることができた。
「今年も赤ですか?」
「当然よ! 私のトレードカラーですもの」
「どんなドレスですか?」
「知らないわ!」
「もしかして袖を通しておられないのですか」
「職人を信じておりますもの」
というのが建前で、楽しみは最後まで取ってある。
春と秋に新着ドレスを10着ほど用意してくれる。
最初の2着は赤を基調にしたドレスと申し付けてあり、会議などでも着ることになるドレスにする。
残る8着は商人と職人に任せている。
使い終わると侍女たちに払い下げる。
金貨10枚(100万円)もするようなドレスを1シーズンしか使わないなんて!
なんて贅沢な仕様だ!
この世界に生まれ代わって辛いことが多かったけれど、これだけは幸せよ。
◇◇◇
舞踏会はちょっと飽きてきたかしら!
私はおじ様にモテるようで年配者が集まってくる。
ダンスのパートナーはそのご子息が多い。
野心的な子息か、嫌々で踊らされている相手しかいない。
いい感じの可愛い子が声を掛けてくれない。
婚約者が決まっていないアンドラは舞踏会の花役だ。
私と最初のダンスを終えると、女の子たちがアンドラに殺到する。
アンドラはすけこまし度が上がってゆく。
少し残念なこともある。
おいしいそうな料理が並んでいるのに貴婦人は余り手に取らないので味見ができない。
舞踏会の前に小腹を満たして向かわないと体が持たないくらいよ。
食事は屋敷に帰ってからになる。
もったいない。
もったないけれど、はしたないことはしない。
「姉様はさきほどから何を読まれているのですか?」
「舞踏会に参加される方のプロフィールよ」
「よろしいですか?」
「どうぞ!」
庶民に流れる情報は馬鹿にできない。
以前も思ったけれど、どこで仕入れてくるのかしら?
庶民と言っても侮れない。
アンドラがいくつかの中から私の情報を手に取った。
私は赤い色を好み、ドレスは派手なモノが好きらしい。
装飾は高価な宝石を使用しながら、ひっそりと飾るものを選ぶ。
送り物は高価な物より珍しい物を好む。
こんな風に見られているのね!
思い当たるので納得してしまう。
「1つ、間違っています。私は肉料理が特別に好きな訳じゃないよ」
から揚げ、ハンバーグ、とんかつ、すき焼き、牛丼などを肉料理に様々な食感を楽しむ方法を料理人に伝えた。
特に香辛料を使ったカレーやシチューがセンセーショナルだったようだ。
私が教えた肉料理を勝手に絶賛している。
「そうなのですか?」
「野菜を使った料理に文句がないから口を出さないだけなのよ」
「肉料理に拘っているのかと思っておりました」
「あれはメルルのせいです」
「そんなことをありました。でも、姉様が作られる料理は皆が絶賛しており、メルルだけではありません」
「あれは野営地だからです」
野営では料理ができる者がいない。
下処理もしない肉料理が不味過ぎた。
お風呂はクリーンの魔法で我慢できるけど食事は我慢できない。
余りの不味さに口を出した。
その料理と屋敷の賄いを比べて、メルルが料理長に余計なことを言った。
“この賄いはおいしくありません”
“不味いなら食わなけりゃいい”
“お嬢様の方が料理長の何倍もおいしい料理を作れるという話です”
“そんな訳あるか?”
メルルのせいで料理対決をする羽目になって料理長と料理対決し、料理長が交代することになり、晩餐会の監修を任されることになった。
あっ、追い出した訳じゃないですよ。
料理長は料理の研究ができる料理学校の校長になって貰っただけですからね!
報告書にも調理場に立つ変人と書かれている。
言っておくが、私は晩餐会やお茶会で料理を振る舞ったことはない。
貴族は料理人が作った物しか食べないという暗黙のルールである。
素人の料理を他の貴族に出すのは恥知らずだ。
あくまで私は監修だ!
「今度はどんな料理が出てくるのですか?」
「もう、私のレパートリーは尽きています。新しい料理は出てきませんよ」
「皆、期待していると思います」
「知りません」
「それは残念です」
「でも、すっぱくて食べられなかった苺ケーキが食べられるようになりましたよ」
「それは楽しみです。皆に言っておきましょう」
私達がお茶会をしている間、アンドラ達は狩りなどをしている。
そこで私達と同じように情報交換をするのだ。
ヴォワザン家の舞踏会は5番目で1週間ほど後だから、お茶会や狩りを2回ほど挟むことになる。
そんな些細な会話を楽しんでいると、母上が突然入っていた。
「エリザベート、アンドラ、すぐに準備をしなさい」
嫌な予感しかしません。




