34.私は稀代の詐欺師だって!
天才トーマ君も株式会社と連結決算の説明を早々に諦めた。
ヴォワザン家、南方交易所、南方冒険協会、エリザベート商会、商会10社の領営を連結するだけで我が家が黒字であることは簡単に判る。
母上には経営学は難しかったらしい。
「こちらの資料をご覧下さい」
「これは?」
「4年間でエリザベート様が使われたお金の総額です」
母上がコメカミを押さえてがっくりする。
何故だ?
今回、使った総額を軽く超えているからか?
「信じられません。こんなにやっていたのですか?」
「ほぉ~、これほどの額であったのか!」
「父上はご存知でございましょう。すべて父上の名義でやったことです」
「改めて見ると信じられない額です」
「アンドラはわたしくと一緒に回っていたでしょう」
「申し訳ありません」
「トーマ、この総額は間違っていないのね?」
「奥方様、間違いではありません。エリザベート様は小麦の取引額の10倍以上のお金を使われております」
「よく、これで我が家が持っていますね!」
「これを信用取引というのよ」
「どうかお口を挟むのをお止め下さい」
トーマに怒られた。
私は説明しようと思っただけなのに!<怒>
「メルルさん、ここに金貨1枚があります。これを貴方に貸します」
「はい?」
トーマは金貨1枚を貸したというメモを書く、そして、メルルが金貨を返して貰うと、金貨1枚を借りたとメモを書いた。これを10回繰り返すと、トーマの元に『メルルに金貨1枚を貸した』というメモが10枚残り、メルルの元にも『トーマに金貨1枚を貸した』というメモが10枚残る。
「メルルさんは私に金貨10枚を貸していることになります」
「確かにそうですが、同じようにメルルはトーマに金貨10枚を借りていますわね」
「はい、そうです。では、このメモを持ってメルルさんはアンドラ様から金貨10枚と交換できます。なぜなら、メルルさんが私から金貨10枚を借りている。そのメモを私に渡せば、金貨10枚が返ってくると思うからです」
「確かにそうです。メルルの借金のことを知らなければ、交換すると思います」
「その通りです。金貨は重い上に奪われれば、すべてを失います。ですが、メモでしたらどうですか? アンドラ様はメルルさんに言って、前のメモを無効にして新しいメモと交換して貰えます。盗賊に襲われても金貨を失うリスクが下がるのです」
「トーマ、どうして、そのようになるのですか?」
「さぁ、よく判りません」
「うん、儂もこの話が全然理解できなかった」
「父上、何度も説明したでしょう。これは信用取引なのよ」
「エリザベート様、黙って下さい」
「はい」
トーマに怒られた。
私は説明しようと思っただけなのに!<怒>
「旦那様、奥方様、どうしてかと考える必要はありません。魔法が使えることに理由が必要でしょうか? 説明がなければ、魔法を使いませんか? 違うでしょう。魔法は使えるなら、それに疑問を思う必要はありません」
「どういうことだ」
「簡単です。その紙を持ってゆけば、お金に替えてくれる。そう誰もが信じるから、エリザベートが作られた手形という紙が高値で売られているのです。紙がお金に化けたのです。手形を書くだけで金貨1枚を金貨10枚でも、100枚でも交換できるのです」
「金貨1枚が100枚になるのですか?」
「はい、エリザベート様は金貨1枚を100枚にする錬金術を思い付かれたのです。では、小麦で150万金貨の損をしましたが、エリザベート様は紙に数字を書いただけでございますから損などはありません」
「詐欺ではないのか?」
「詐欺でございます。詐欺でございますが、誰もそれを咎めません。便利だからです。それを使うことで様々な利益が生まれるからです。エリザベート様の詐欺を商人らは認めているのです。商人の金を自由に使うことができる。これを錬金術と言わずになんといいますか!」
「まぁ、まぁ、まぁ、損はないのね?」
「ありません。ですが、奥方様。このことは決して口外してなりません。これが知れれば、エリザベート様の魔法が解けてしまいます」
「エリザベート、あなたは魔女だったのね!」
「はぁ? 何を言っているのですが、母上」
「では、この魔法が解けないようにする為の今後の予定を発表いたします」
「魔法は解けてしまうの?」
「はい、ただの紙でございますから、この紙を本物の金貨に変える魔法が次の事業計画です」
「トーマは天才ね!」
「いいえ、これを考えられたのは、すべてエリザベート様です。エリザベート様は天才錬金術師であり、至高の魔女なのです」
「まぁ、まぁ、まぁ、トーマ、貴方の説明を聞いて安心しました。その話はお茶を飲んだ後にしましょう」
「畏まりました」
トーマ曰く、私は金貨を産む詐欺師で錬金術師だって!
う~ん、釈然としない。
私は銀行業をしているだけなのよ。
手形を発行して、南方交易所に所属する商人なら誰の所でも換金できるようにした。
最終的に我が家が保障するから、誰もが安心して手形で取引をする。
錬金術でも何でもないのよ。
冒険者が育つごとに南方冒険協会が儲かってゆく。
街道で宿を作る資金を貸せば、宿の前に店が生まれ、人が住み、農地が作られ、町ができる。
その資金をすべて貸し出している。
宿や店が儲かれば、貸した金を返済してくれる。
紙のお金が本物に金貨になって戻ってくる。
もちろん、それだけでは足りないので新事業として、馬車などを積極的に売ってゆく。
「確かに、新しい馬車はあまり揺れませんね!」
「奥方様、売れると思いませんか?」
「飾りつけが今一つです。そこを改良すれば、売れるでしょう」
「なるほど、改良した後にエリザベート商会から売り出します」
どうやら、劣化版の魔法銃を献上する時期が来たらしい。
魔法具店でも菓子店の横に併設するか。
トーマは領地の増収計画を説明し、3年後に赤字を脱出、それ以降、少しずつ返済してゆく計画を披露して母上を安心させてくれた。
「トーマが来てくれてよかったわ。エリザベートは何を言っているのか判らないのですもの」
「わたくしも説明しております」
「全然違います。貴方は大丈夫としかいいません。どうしてこんな変な子に育ったのでしょう」
「変じゃありません」
「奥方様、エリザベート様は天才でございます。私はそれを判り易く説明しただけでございます」
「そうかしら? 全然、違うものに聞こえたわ」
「エリザベート様は当然と思われていることを省略されますので判らなくなるのでございます」
「きっとそうなのね、トーマが居てくれてよかったわ」
「うん、今の説明はよかった。やっと判ったような気がする」
「旦那様、奥方様、ありがとうございます」
ちょっと、父上まで何を言っているの?
父上には散々説明したわよね!
どうして今更みたいなことを言っているのよ。
「姉様、もっと勉強し、お役に立てるようにがんばります」
「うん、よろしく?」
「僕も姉様が言っていることが判りませんでしたが、これからは理解できるようにがんばります。トーマには負けません」
アンドラ、お前もか!




