16.舞踏会デビューの招待状。
新年は王宮に登城することから始まる。
今日の主役の一人は父上だ。
ヴォワザン家が貴族会議10席から5席を命じられ、南方大臣に就任する。
上位の侯爵家には遠く及ばないが、他の伯爵家以下を大きく引き離した。
名実共に国のNo.5だ。
同じところにいた伯爵家の妬みは相当だろう。
気の弱い父上を優しく出迎えて上げなくてはいけない。
「アンドラ、父上をお迎えしますよ」
「はい、姉様」
「おかえりなさいませ」
「エリザベートか、出迎えご苦労」
「旦那様、おめでとうございます」
「イネス、感謝を」
「父上、おめでとうございます」
「父上様、おめでとうございます」
「二人にも感謝を、悪いが少し休ませて貰う」
「あら、あら、目出度い席でしたのにお顔の色がお悪いですね」
「散々、嫌味を聞かされてきた」
「御心中、お察し致します」
「そう思うなら、もう少し穏やかに頼む」
私は首を捻って判らないというポーズを取った。
父上は首を横に振った。
本気なら南方諸領の河川の改修と上下水道の設置を義務付けたいところを自重した。
今のところ、領地と王都の屋敷のみに留めている。
「あれで自重していると申すのか」
「本気をお見せしましょうか?」
「止めてくれ!」
「エリザベート、もう少し心中を察して上げなさい!」
「イネス、おまえも社交会は覚悟しておけ!」
「承知しております」
私が悪いように聞こえるのだけれども?
おかしいな。
父上を悩ましたのは農政らしい。
治水と農地改良は基本中の基本なのに、この世界では存在しない。
殺した魔物の肉を粉末にして撒くと、肥料要らず、水要らずで育ってくれる。
それを聞いたときはびっくりした。
敵対の隣国では、飼料用の『ゴブリン工場』などがあるらしい。
ファンタジーだ!
しかし、森の土を肥料にして、水を通した方が収穫も多いことが判ったので、今年は大々的に採用することを表明している。
こういう時、女神の『神託』は便利だわ!
王都に出立する前に宣言した話なのに、もう王都に伝わっていたらしい。
就任直後から部下の長官に質問責めにあって困り果てた。
決定権は父上にない。
大蔵大臣、軍務大臣、外務大臣、内務大臣から派遣された各長官にある。
父上は書類に判子を押すだけだ。
貴族会議も慣例に従ったあいさつを終えると、補佐官に任せて帰って来られた。
今日の舞踏会は主役なので王宮から馬車が来る。
それに乗って出かけられる。
長官からは事前に相談して貰いたいと念を押されたらしい。
「わたくしがやっているのは領主の仕事でございます。王国の仕事ではございません」
「判っておる。だが、南領と南方諸領に広げるつもりであろう」
「はい、すでに各領主の承認を得ております」
「は~ぁ、そういう調整は大臣の仕事であろう」
「ですが、農務は領主の権限の範囲です。しかも金はわたくしが出すのですから文句は言わせません」
「近日中に呼び出しがくるからな!」
「ご安心下さい。必ずや説き伏せてみせましょう」
「恐喝するの間違いではないのか?」
「そうともいいます」
横で聞いていたアンドラが複雑そうな顔をしていた。
大丈夫よ。
教会を通じて領主に陳情しているから、領主は一銅貨も懐が痛まないで農政ができる。
教会は信者から信仰を集められる。
大聖堂は寄付が集まり、文句の付けようもない。
長官風情が大司教に陳情に行ける訳がない。
文句があるならウチより寄付金を持って来いと追い返されるわ。
「エリザベート、くれぐれも自重してくれ!」
「心掛けます。わたくしは父上の命でないとテコでも動かないということを知らしめてみせます」
「ほどほどになぁ」
今夜の王宮主催の社交会を皮切りに社交界シーズンが始まる。
明日は王宮が晩餐会を催し、次に侯爵家、伯爵家と続いてゆく。
我が家は5番目で来週の中頃になる。
そうだ!
その日が私とアンドラの舞踏会デビューになる。
そのハズだったのだが?
3番目の中央領のセンテ侯爵が私を見たいと舞踏会に誘われたらしい。
貴族会議第3席、王族の侯爵家のお誘いを断る訳もいかない。
今週末に私達のデビューが早まった。
毎年、大量に小麦を購入するお得意様なので関係は悪くない。
嫌がらせで呼んだ訳ではないのだろうが、ホームから始めるつもりがアウェイからはじまる。
しかも相手は王族の侯爵家だ。
「まぁ、まぁ、まぁ、どうしましょう!」
「母上、落ち着いて下さい」
「これが落ち着けられますか!」
「舞踏会に行く以外に選択はないのですから、諦めて堂々と行きましょう」
「上位王族に対するマナーを教えきれておりません。貴方達が不作法をすれば、我が家は笑いの種にされます」
「最低のことは教えて頂いたのですから覚悟を決めましょう」
「いいえ、まだ1週間も残っています。今からレッスンです」
まだ、やるの?




