河童と女房その覚悟
大幅修正2020.2.27
「おれはこの村が気に入らんぞ!」
「お義父さん!」
姉と河童が揉めている…どれもこれも…河童は気持ち悪い緑の全裸だ…正直見分けはつきやしない。
チョンチョンと、河童小僧が袖を引き下から私を見上げている、可愛い
「あでは、河童の族長んでな、知月おじちゃんのおとん様だ!」
「ありがとう!小僧ちゃん!お姉さん助かっちゃった!」
可愛い
「この里のもんは皆!おらの息子を受けれ入れてくれとるよ!そいつはありがてぇ!頭のわりぃきんにくだけの不肖のむすこだ!
うれじぃよ!んでもな!?」
破外甲羅 知月…、流々(姉)の旦那となる男は村では“ハゲさん”と親しまれている。そして一緒に言われるのが“ハゲさんは人間だ!河童じゃねぇ!”
村人からしたら最高の誉め言葉だったのだが…これは河童一族からしたら、大変傷つく言葉だったようだ。この言葉のナイフが姉のお義父さんの耳に入ってしまい、あわや結婚はご破算だ、いいぞ爆ぜろ。
「おんめぇは!河童って生まれに誇りはねだか!?なぁ…知月!?」
「親父落ち着け…めでてぇ席でよ、もちろん俺は恥には感じてねぇぜ?今も堂々と全裸で生きてら!…けどな…、俺は人間の娘を嫁にもらう。そのためならよ。服も着るぜ?」
服は着ろよ!!
河童小僧の頭を撫でながら…鈴々は思った。
それにしても、親族の顔合わせの席で…酔ってわめき散らすなど…所詮河童、…文明と礼節の程度が知れる。やっぱり爆ぜろ。
「わかった!もうえぇ!…でもな?んだば嫁さんよ、ルンルンといったか?お前はどうだ!?」
おいおいおい…旦那が「人間」として服着て生きると言って、姉さんが頷いた。もういいじゃないか、この老害河童。鏡はなくとも、池でも覗いて顔を見直せよ、緑の顔が真っ赤だぞ?
「勿論覚悟は御座います」
お義父さんの厳しい問いかけに、姉は間をおかず直ぐに答え着物の帯を解いて、旦那の隣に裸で座った。全裸で座った。
「知月さんの覚悟は嬉しいです、しかし同じ覚悟を…妻となる私にもさせて下さい」
「る…流々!」(ほろり
「えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
◆ ◇ ◆ ◇
屋敷の外で村の連中と待っていた欄乱は、河童小僧に連れられてくる…生気を失った鈴々を迎えた。
「…………」
瞳から一切の光を無くし、糸の切れた人形のように生気を無くし横たわる鈴々…何があった?…とか聞ける感じではないだろう。
先ほど聞こえていた、怒鳴り声から察するに結婚がご破綻になるような修羅場だったはずだ。うーん、やっぱり気になる、聞きたい。ぐぬぬ
「おい嬢ちゃん!次はおいらと相撲しようぜ?」
見た目からは解らないが、知月の親族ではないのだろう…同じように外で待っていた河童と欄乱は相撲をとって遊んでいた。
ただいま10戦7勝中、故郷では怪力自慢で通っていた彼女からすると苦戦も苦戦、いやぁ楽しい。
「わりぃな、もう終わりにしようぜ?」
「ははは!勝ち逃げかよ!また頼むぜ?」
…この村にきて、すでに一週間、最初は親友が河童に嫁ぐとしってショックだったが、案外いいやつらなのかもしれない。全裸で無ければ、服さえ来てくれればもっと人とも上手くやれそうな物なのに。
しばらくすると、何故か着物を着なおした流々が屋敷から出て来た、妹と違って明るい雰囲気、上手く修羅場はくぐれた様だ。
「ど…どうだった?後学のためにも気になってな?」
「ウフフ…なんとか気に入って貰えたわ、お義父さんも知月さんに似て男気に溢れたお方みたい。」
カカカカッ!
周りの河童達が一斉に笑う
「族長は気分やの飲兵衛よ!頭悪いからおだてときゃいいぜ嬢ちゃん!」
そんなこんなで無事に終わった、親族の顔合わせ、まぁ…流々の父は病で来れず。こちらで話がまとまったら、こちらで式をあちらで披露宴をする事になっていた。
かなり特殊な進行だが、まぁ…家には色々事情があるものだ。河童の事を悪く言えない程度に、河童との結婚を許容できるほどにまた、彼女らの故郷も特殊であって…文化も事情も違う家同士の繋がりはなんとも難義で凄い事だ。
「遠い家同士って大変ねぇ」
「距離っていうか種族差がすげーよ」
「カカカカ」
再び河童の大爆笑、どこまでも気のいい連中だ。しかし不思議と、河童が出ると村人が逃げる。特に今日は…朝から子供を見やしない。確かに全裸は良くは無いが、むむん。
「……気になってたんだがいいか?」
「なーに?」
「言いにくかったら良いんだけどよぉ…」
河童達をちらりと見やると、河童達は笑って離れていった。
「いい奴らだな…」
「えぇ本当に…」
「だから不思議だ……村の連中“河童”ってものに怯えすぎてねぇか?」
まぁ…人が妖怪を恐れるのは当然なんだが…この村には少なくとも「知月」がいた。他所は知らないがこの村だけは“偏見”がなくても良さそうだが…
「……うぅ…」
「ど…どうした?」
突然うめき顔色を悪くして、怯えた顔になる流々、先ほどの明るい様子が一転して、僅かに体が震えだす。欄乱はこんな顔の親友を初めてみ…違うな…でっかい虫とか見た時の顔だ。船で巨大フナ虫を見た時こんな顔だった。
「きっもち悪い河童がいるのよ、ならず者の…うん…うぅうぅ…」
「あ~、そいつがイメージ悪くしてるのか……」
一部のならず者のせいで誤解と偏見が、対立が生まれる。まぁ良くある話だ、河童と人の事情を知らないから一概にそいつが悪とも言い切れないが…まぁ、そういう事情なら仕方が無いか。
「“尻喰らい”」
「……は?」
「“尻喰らい”…そいつの名前よ…」
「きっしょいな!うっわーーー!」
良くわからんが字づらがキモイ、否解りたくない…河童と人間、やっぱり色々大変そうだ。
「まぁ安心しろよ?少なくとも私がいる間はよ…そいつが出たらぶっ飛ばしてやるよ!腕が鳴るぜ!」
こうして祝言の日はゆっくりと近づき…怪しい影もまた…ゆっくりと村に近づいていた…
♪
雷様にはへそ隠せぇー
河童が出たなら尻隠せぇー
手がある者は手でかくせー
足ある者ならとっと逃げろー
手足も出ぬなら隠れて過ごせ
河童が来たなら食われるぞー
二つに割れた尻の肉
一つの馳走は尻子玉
ひとたび喰らえば夢に見る
さぁさ、とっとと尻を出せ
味わい深きは尻子玉
尻喰らいについて、興味本位で村人に聞いてみたら教わった歌だ。今まで恐れ知らずで生きて来た欄乱は尻を抑えながら飛び起きた、夢に見たのだ。
島を出て、旅をしていた親友は妖怪退治なぞしながら日銭を稼いでいたらしい…そしてこの村で、彼女はそいつと戦ったそうだ。
「うぅ…、確かに村人は怯えるわけだ、あの流々が震えるわけだ…」
ただの夢だが、まだ残る背中の悪寒、夢とは思えぬリアリティ、尻を這う舌の冷たい感触…冷たい…うぅ…あれ?冷たい、やってしまった、まさかこの年で漏らすとは…
「この恥辱は、そいつが現れたら返してやろう…うぅ…」
彼女が泣いたのも何年ぶりか…いや、初めての事かも知れない。
河童の女房その覚悟図