牛魔王VSアルティメット=るんるん
まさかのタイトル回収
…パキ…
振り向くと…
割れた皿の上に、黒い男が立っていた。
いや…見た目は人間の青年だが、頭に日本の角が生えている。
「…鬼?」
(違う……)
“我こそは牛魔王である!”
「……っな!?」
頭の中に…声が響く…
落ち着いた、若い、青年の声だ…これが…
「あなたが牛魔王さんなのね、はじめまして」
ルンルンがスッと…
俺たちと魔王の間に入った。
その服は、肩口のリボンをほどき…袖を…“華鞘”を取り払っている。
…これは…やる気だ!!
爪の一振り葉を切って
指を一振り小枝落とし
手の一振りで幹を断つ
ルンルンは鍛錬で鍛えた手刀で敵を切る拳法
青龍刀になぞらえた拳“琉宮拳”の使い手だ。
…一度だけ見せてもらった本気の一振りは…海をも裂いた。
身刀心芯 刃と磨き
この身一つで命を断つ
命一つで争いを断つ
切れぬは華よ
華に秘めたる刃の拳
「琉宮拳はね、守りの拳なの…大切な人を守るための剣」
……ルンルン!!
“小娘…そこをどけ…、我を封じる一族は、敬意をもって根絶やしとする”
「ル…ルンルン逃げろ!お前には帰る国もある!!」
スパアアアン!
大地に線が引かれた。
俺と…ルンルンの間に、底の見えない、斬撃の後。
「あなた…悲しい事を言わないでください、牛さんの目的が河童の根絶やしならば逃げてもダメですし」
“牛さん言うな小娘…ん?お前からは…山の気、河童の気は感じんが?”
牛魔王は眉を顰める
都合100年近く河童と身を一つにしていた。
欲望に引きずられ…尻を求め彷徨う地獄の記憶だが…
確かにこの娘は…人間の格闘家、退治屋であったと記憶している。
「ルンルン!頼む!逃げてくれ!お前は…人間だ!」
足が、腕が動かない…
先ほどの戦いは、全力だった。
器の大きな兄貴ならば、それこそ不死身の様に回復している頃合いだろうが…
知月は器を使いこなせない…本当に、ただのデカブツだ。
幸せにすると誓ったばかりだ!
彼女だけでない!
彼女の親御さんにも…友人たちにも!島の人々にも!!
そうだ…彼女には素敵な故郷がある
彼女を失えば悲しむ人たちがあんなに居る!
「頼む…!頼むルンルン!愛している!」
ユラリ…魔王が…黒い青年がこちらに手を伸ばし…“気”を放った。
ギャパアン!
…それをルンルンが弾き飛ばす。飛ばされた気は空に爆ぜ、消え失せた。
“河童の中で掴んだぞ、山の気を得る方法…そして、それを外へ出す技…しかし、まだまだ出力が低いな”
牛魔王は気を放った右手を見やる。
気と一緒に己の一部が飛んで行ったのか…手の中央に穴があった。
“慣れぬ事はするものでは無いな…ふむ、しかし“気”を弾くとは…人間か?”
小首をかしげた魔王の問いに
ルンルンは平然と言い放つ
「あなたと牛さんも物分かりが悪いわねぇ…」
ルンルンは右足を引き
左足を前に
腰を落として、両手を突き出し構えをとった!
「私は覇外甲羅=ルンルン!河童一族の一員よ!」
…スパパパパパン!
叫ぶや否や、目の前からルンルンの姿が掻き消えた!
そして…割れた大皿の上にいた牛魔王も!
…スパパパパパン!
メキメキと大木が倒れていく…
大地に亀裂が走り、河原の岩も微塵と消える。
“やるではないか小娘!”
「あなたはふわふわ切りにくいわぁ~」
ルンルンは脱力により膝を回して地をかける
田武の歩方と同じ原理だ…違いは身の軽さ…空を切る腕
生き物は大きくなると体重と力が増加するが
決して比例し増大するわけではないのだ。
力が二倍になる大きさでは、体重は二乗と膨れ上がる。
大きければ大きいほど
体重と力の差は広がる。
それを埋める技が田武の歩法だが…あれはあくまで一転がり
刹那一歩の速度に留まる
…しかし!
「ッホッホッホイ!」
ルンルンは小柄…体重は軽く、風にものるほど!
ランランやガルガル達と鍛えた四肢
山で知月と鍛えた足腰
“…こやつ、止まらない!歩と歩の間に止まりが無い!?”
更には生来の才覚だ
田武の歩法、河童達の武、島で学んだ七星の武よ
一歩一撃、止まらず2撃
回る膝腰続けて3撃
外れて影から襲うは4撃
大地を蹴ってまた5撃
風を切り裂きまた6撃
旋風竜巻7 8 9撃
落雷のごとき10撃…と
“なんだこいつ!?パイパイより強い!?”
300年前の敗北は…力にかまけた自分の驕りだ
先ほどの戦いは…河童という器に縛られていた。
だが
今は違う
生来の力は取り戻し
河童の中で見た武と術がある
この身を縛る器は砕け…風よりも軽き黒霧の肉体!
“なめるなぁあああああああああああ!!”
「っわ」
全身から気を発し!
風とともに小娘を弾く!
…口惜しい
この黒霧の体でなければ、おそらく小娘の連撃を喰らっていた。
肉体を失っているからこそ、重の鎖がないからこそ
自分はまだここに立っている
…その事実はつまり「自分は弱い」と認める事
“ふざけるな!300年ぞ!わしの苦労がわかるか小娘!悔しさ…絶望が…解るか小娘!?”
「うーん、わたし切る相手は食材だと思う事にしてるの。
だから牛さん余り話さないで?ステーキにしにくいわ」
ぶちぃ
魔王はルンルンに手を向け、放つ!
先ほどとは桁違いに…大きな“気”だ…!
解き放った気と共に、体の一部が千切れ飛ぶが…知らん!
“小娘ぇえええええ!!”
右手を焼失した代償に放たれた気は雷のごとき轟音で
大地を抉り、木々を焼き砕く
技など、あっとう的な力の前では意味もなし!
くしくも先ほど、自身の敗北で証明された世の理!
“さぁ!人の身で受けてみよ!小娘ぇええええ!”
ゴロゴロゴロォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「ぐ…ルン…ルン」
雷鳴が聞こえた。天からでなく山から…
愛する妻が戦っている。
男が、旦那が…寝て居れるか!
パキ…
後ろで音が聞こえた。
ズル…ズル…ガッ…むしゃり、むしゃり…
「兄貴!?目が覚めたのか?」
「………」
兄貴は、親父が齧った尻桃を拾い齧り飲み込んだ。
身体の傷が見る見る治り…あぁ、やはり兄貴は、天才だ。
「知…月…、すまねぇな…」
「…え?」
兄貴は親父の亡骸に近づいて手を伸ばした。
口を開き…牙がのぞく
「兄貴!なんだ…まさか!くぅ!」
膝がもたない!馬鹿みたいにデカい体、岩みたいな体重だ…!
一度消耗したら…俺は…立てもしないのか!くそう!
パリ
パリ
パリ…
兄貴は親父の皿を食べた。
そして…粉々に砕けた…大皿を食べた。
ゴロゴロゴロォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
ッボホゥ!ギャァバアアア!
“…っな!?”
牛魔王は目を疑った、ありえるのか?
人の身で、雷を切り裂く…否!そんな馬鹿な!?
“技ではない!技なんてレベルではない…小娘貴様…!何者だ!?”
いつしか
日は暮れかかり、
山影には一早く夜が訪れる
暗くなった闇の中浮かぶのは
パチパチと燃える
倒木と
青い髪をした少女が一人
“山の気ではない…こ…これは…天の…!?”
「だからぁ~わたしは河童のルンルンです!」
スパァアアアアン!
斬られた。…魔王である俺が、実体も無い黒霧である俺が。魔力そのもの、力の塊であるこの命が?
「パイパイと言ったな小娘?お前ははるばるどこから来たのだ?」
「東から西へ旅してきたわ…あなたの知らない、海の向こうの世界よ」
“琉宮王国”そんな名前を聞いた気がする。
流刑の武士と、龍宮の乙姫の作った国だ、その王家は代々と様々な血を取り入れてきた。
人魚にはじまり
獣人
鬼
血の一族に
天神も…ハハハハハ
“今度は器<河童>か…強欲な一族だなぁあ!パイパイの末裔めぇえええええ”
スパパパパ
四肢
角
首
胴
目
口
鼻
耳
スパパパパパ
「わたしの家族を泣かせる牛さんなんて!サイコロステーキにして食べちゃうわ!」
霧は青年の形を無くし
目を見開いて空に溶けた。
フッヒュゥウウ!
「…あっ義お兄さん!もう大丈夫ですか?元通りですか?」
モグモグモグ…ごくん。
「あぁ!もう大丈夫だぜ胸無の嬢ちゃん!おいら話は元通りの知的な河童さ!」
…
……
………
俺が現場に駆け付けると
魔王の姿はなく…切り裂かれて倒れた兄貴と
泣き崩れる嫁の姿があった。
「ありがとうな!ありがとうな!大丈夫だ!大丈夫だ!」
「うわあああん!お兄さんが…お兄さんがぁあ!」
兄の奇行を思えば…きっと魔王の欠片でも残っていて…
ルンルンは兄を手にかけたのだろう。
うぅ…退治屋としてではない。優しい嫁だ…
家族を切ったと、とても辛い思いをしているだろう…
「ルンルン!俺は…お前を愛している!!」
「うわあああああん!あなだぁああ!」
こうして…
外道=尻喰らいによる
数十年の問題も
300年に及ぶ
牛魔王と河童一族の戦いも幕を閉じた。
静畑の山と
俺たちの心に
深い深い…傷跡を残して。
一発ギャグネタだったおっぱい拳
登場人物のるんるんの人生を網羅しよう!パーフェクトに…いや、ありきたりだな
アルティメットだ “アルティメットるんるん”だ!
こうしてこの漫画の副題が決まりました。
はい、まさか回収できるとは思わなかった。




