封印の皿
正直泣きました。
…パラパラ…
倒れた巨木を見やる。
目の前の“デカブツ”が一撃で倒した巨木だ。
牛魔王は密かに関心する。
(河童族にこんな力があったとはな…)
牛魔王の中で河童のイメージは後ろにこそこそ隠れて
最後に皿に魔を封じるやっかいな“術師”
300年前の戦いでは
猿と豚が前線で河童は後方…こんな、戦闘力を秘めたイメージは無い。
ジィリィ
ジィリィ
にじり寄りながら、牛魔王は相手を観察する。
正にデカブツ…全身に筋肉の鎧をまとい…更に河童の柔軟性でもってしなやかに動く。
理想的な戦士の体だ。
(生前の私に似ているかもな…ククク)
牛魔王も生前は、己の強靭な肉体に任せ…敵陣に突っ込んで行ったものだ。
空に吹き飛ばし、地に叩きつけ、角で串刺し、ヒズメで砕く!
ただまっすぐ、まっすぐに駆け、戦い戦い、壁をぶち壊しぶち抜き…
気付けば後ろに道があった。…その道を「弱き者達」が付いてきた。
大陸に魔都を築き、王座に座り、世界の頂きに来たと思ったものだ。
…だがちがう
「牛魔王…あなたを成敗しにまいりました」
パイパイ…そう名乗った少女は強かった。
細い腕で…華奢な肉体で…この強靭な力を全て…全て受け止め
私は…皿に封じられた。
“王破威拳”<おおぱいけん>
力なき弱者が、力ある王を打ち砕く拳
か弱き人の身で、魔王を打ち破った究極の拳
「ククク…こぃよぉ…デカブツ」
今、この身にはそれがある。
海を渡り…島国の山奥、河童なぞの間に細々と「おっぱい拳」なぞと名は変わったが
この身はその動きを
この魂はその使い方を覚えている!
「……知月!気を付けろ!…力は…通じん!」
デカブツのとこの身の父
300年前、パイパイと共にこの身を封じた腐れ河童じじいが慌てておるわ!
愉快!愉快!愉快!
「クカカカカカカ!」
ダンッ!
踏み出したの同時だった!
知月は大地がめくれ上がるほどの踏み込みで…前へ!
一方…牛魔王はそれを“受けるため”真正面に…流れるように…
剛と柔
“柔よく剛を制す”王破威拳とは柔の極致…どんな剛拳も敵ではない”
牛魔王の目には、目の前の男が哀れに見える
300年前の哀れな自分だ。
踏み込みで吹き飛んだ大地を見れば…あぁ、なかなかの力であろうさ!
しかし…今の私の敵ではない!
一方
知月は思い出していた。
琉宮国での弟子の戦い、静畑に帰っての修行の日々、そして…幼い日の兄貴の言葉を
…………うわーん兄貴、俺はデカいだけのうすのろだよ!
「おっぱい拳」の後継者を探すため
親父は子供5人を集めて稽古をした
幼い知月はてんで駄目だった。
「クカカカカ…柔よく剛を制すってな!俺たち河童は“水”だ!身体の大きさにたよる“岩”にぁ負けないぜ!」
「うわーん」
兄貴はポンと俺の頭の皿を叩いた。
「だがな…知ってるか?この言葉には続きがあるんだ…」
ダンッ!
(柔よく剛せ制す…されど!)
大地を弾き飛ばし前へ!ただただデカい体を前へ!その体重を勢いを!あるがまま…
“重”に任せ!…沈め!
(俺はただの岩じゃない…山になるんだ!山と一つに!兄貴!)
地にぶつかり一つに成ろうとするかの如く…倒れ込む…大地と…山と一つに!
それは“重”を“速”に換える歩法
脱力により岩が転がるように倒れ込む歩法
タァアンッ!
大地と一つになる刹那、踏み出した足…その膝は水の如くしなやかに
力を転がし“向き”を変える。
「どんな力でも受け止めてやるぜ!」
「やってみろ!兄貴ぃいいい!」
(柔よく剛せ制す…されど)
“剛よく柔を断つ”
…お前にはお前の強さがあるんだよ、知月。俺には出来ない…お前の強さが!
知月の耳に、懐かしい声が聞こえた。
パァアアン!
田武の技は“救い”の型…地に落ちる力は膝を基軸に天に向かった。
牛魔王は突き出した諸手でもってそれを受けきり…ダメージは無く!
されど…
足は地を離れ…空へ“浮かんだ”
巨木をいくら力で押しても、その根が大地と繋がっていては倒れない…
大地から浮かばせれば…自然と倒れる。
愛する妻と…山で特訓していた技だ。
全てはこの日のためにあった!
浮かぶ!
浮かぶ!
「…ぁあ!?」
王破威拳の構えなど出来ない!
足が地面から離れると同時に…両手ははじけ飛び広がっていた!
「兄さん!俺は…山になったぜ!」
っガ!
「ッハ!?」
身の丈ほどに飛び上がった相手の足を、打ち出した腕を返しそのまま掴んだ!
その体勢で受けてみろ!
山を相手に…受けきってみろ!!
全身全霊!
鍛え上げた上腕筋が、背筋が、胸筋が!爆発したように膨れ上がり!
「うぅうらぁああ!」
ドガァアアアアアアアアアアアアアアン!!
「クゥッハ!」
牛魔王の意識が揺らぐ、富士見の脳天“河童の皿”にもヒビが入る!
大地に一つのくぼみを作り
衝撃の返りでまた天へ…!しかし…まだまだ!足は離さない!
「…知月!来い!」
「頼むぜ!胸尻!」
パァアアン!
ぼろ雑巾の様に、空を飛ぶ魔王…その目に…おっぱい拳の“正式な継承者”胸尻が映る。
完璧な構え…そして…山の気をふんだんにため…その身が輝く…あぁ
「パイパイ…またお前に…負けるのか?」
「おっぱい拳!“揉み手出し”!!」
牛魔王の胸に、胸尻の両手が衝撃を与える。
諸手突きだ…そして、山の気を両脇から“心臓”に流し!富士見の体から魔王を剥がした!
吹き飛ぶ富士見と、蠢く黒い靄!
「…からの!虚乳拳!“亡世運・亡印”!!」
ガシィイ!
山の気で黒い靄を包み!胸尻は長老にぶん投げた!
長老は頭に桃を乗せ…今は亡き、揉尻がこさえた大皿に座る。
「よくやったぞ!みんな!」
ッカ!
河童の器は“命”の器
我ら河童は不滅なり
河童の器は“心”の器
我ら河童は世界と一つ
河童の器は“力”の器
我ら河童は力を求む
河童の器は“魂”の器
我ら河童は禍魂を封ず
…黒い靄が長老の頭に頭の皿に吸い寄せられ…その体を黒く染め上げる
「親父!…頼むぞ!」
「ぐぅ…ふぅ…!」
黒く染まった肉体がびくんと跳ねる!…が!
強靭な意志で抑え込み…姿勢そのまま…呪文を続ける!
器満ちれば零れて垂れる
器返せば大地に還る
器と器
分けて満たすか
器と器
数をそろえりゃ海でも救う
河童の大器…“重ね皿”
ジュォオオオオオオオオオオオオオオオ!
河童長老が座った大皿が黒く染まる、黒く染まる!
パタァアアン…
「親父!」「長老!」「お義父さん!」
魔王は大皿に封じれただろうか…、河童長老は倒れこんだ。
今度はもしや…親父の中に!
「し…尻桃を…早く…!」
「親父!良かった!」
桃には魔除けの効果があると聞く
河童の里で作られている“尻桃”は大陸から持ち帰った三つ目の宝だ。
ガブリ…
「…はぁ…助かった…ぐぅ…」
魔が駆け抜けた時、桃を頭に置いておいたから意識を失わずにはすんでいたが
身体は…魂はズタズタだ…尻桃を齧り…魔を、毒を抜く…しかし…
ポロ ポロ…パキィ…
親父の頭の皿が…崩れていく…
「親父…最後に…何かあるか?」
溢れる涙を…止められなかった。
親父は等に400を超える身だ。
河童を不死身たらしめる、魂の器には綻びがある…そんな状態で…
魔王の力を…雷の如くその身に通した。
「馬鹿者が…愚息が!…涙で器を…満たしてはならんぞ!」
親父も運命を悟ったのだろう…しかし、穏やかな顔で言った。
「もう一人の馬鹿息子にも伝えてくれ…すまなかったとな、それと…」
親父は倒れた兄貴をみやり…
仲間達をみやり…俺をみて…嫁をみた。
そして…木々を…空を見上げた。
「わしの器は、沢山の思い出で満ちておる!くかかかか!愉快じゃ!幸福じゃ…さら…ば」
ガクリ…
「おやじぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
大の男の嗚咽が響いた
ガクゥ
胸尻も倒れた…両腕が黒く染まっている…!
「みんな…、くぅ…」
残ったのは、知月とルンルン、黒い皿だ。
厳しい戦いだった。
…しかし…勝ったのだ。
…みんなも……兄貴も……いずれ目が覚める。
「ルンルン…村の皆を呼んできてくれ…これで…」
「終わりじゃないわ、あなた」
……
…………
………………
妻の言葉に、思考が止まる。
「……っな!?」
パキパキィ…
不気味な音が、静寂を破った。
次回
牛魔王VSアルティメットるんるん




