王国のはじまり~武者と乙姫の恋~
R2.3.26加筆修正…イラストはまた後日
流々の故郷「琉宮王国」は南方の海に連なる数百の島々の王国だ、東西南北…4つの大国の狭間の交易の国として栄えている。
しかし、それはこの島々が統一され「国」としての力を持ったここ数百年の事である。幾つもの島々に分かれていた小国、まして島ごとに部族が治めるような時代にはそれぞれが最寄の国に利用された。利益を吸い上げられ…もしくは代理戦争の場として海が幾度も血に染まった。<赤い海の時代>それを統一し、今の平和と繁栄をもたらしたのが初代琉宮の王「駿天」である。
「…と、なっているのですが。事実は違うのです」
ザブンザブン
先日欄乱に殴られ、ペットとなった牙の生えたクジラの大妖…“大崩れ”に船を引かせて。一行は流々の故郷「琉宮王国」へ向かっていた。
船の上には流々、妹の鈴々は勿論のこと、夫である知月と河童の長である、好尻が乗っていた。あとは姉妹の幼馴染、怪力料理人の欄乱である。
一同に向けて鈴々は授業を続ける。
「いいですか?王宮に行くのですからね?いえいえ…、それどころかです。非公式といえ王族と血縁が結ばれるのです!しっかり私の授業を聞いてください!」
そうなのだ、流々は琉宮王国の姫であったのだ。王の直系は二人の姉妹のみ、つまりは王位継承権もある。
妹の鈴々は頭が痛い、胃も痛い。
もうねぇ…それが国を飛び出して武者修行…そして突然の結婚報告…うぅ…いいや言うまい…悪いのは姉ではない。
…初代乙姫の…“先祖の血”だ。
「いいですか?本当のところ「琉宮王国」を作り上げたは、うらしま太郎で有名な竜宮城の主、乙姫様なのですよ」
……それは600年ほど昔の事
…………………………
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◆ ◇ ◆ ◇
「ハハハハハ!波の上の猿共がぁあ!ハハハハハわらわに従えぇえええ!」
当時の乙姫様はグレておられた。小さい時から次期姫として、朝から晩まで勉強お稽古、勉強お稽古…大好きだったダンスでさえ、年を重ねるごとに嫌いになった。元々嫌いな勉強は泡を吹く程嫌いになった。泡吹きだけはカニ先生に褒められた。
タイ先生「なんざますか!もっとヒレを優雅に!エレガントに!」
ヒラメ先生「んーまー!笑って~!う~ん…笑いなさーい?さぁ!さぁ!」
勉強とお稽古だけも地獄なのに、姫という立場だ。公の席にも出席する彼女は…完璧な立ち振る舞い、喜怒哀楽の百面相の技術も求められた。乙姫は泣きながら笑う練習をした。
狂気の沙汰だった。そして心は壊れ…家を飛び出した。反動でグレた…そして“彼”と出会ったのだ。
ザブン…ザブン…
「…覚悟するんだな、海妖…弁当姫!」
彼との出会いは海上で人間達にいちゃもんをつけて弁当を献上させている時だった。
サメやアザラシやオオダコを部下に使った海賊行為、迷惑行為。ノリと勢いでそんな生活をしていると、遂に漁師たちは用心棒をやとってきたのだ。それが彼、駿天。
駿天は日野元から島流しにあったという武芸者であった、大波すら切り裂く剣技と料理の才、切れ長の瞳とおちゃめな一面で腕力しか取り柄の無いならず者集団を纏め海上の傭兵団を作り上げていた。
時代は荒れ狂う<赤い海の時代>、4大国の経済戦争の最前線で海賊行為をする謎の集団と、売り出し中の傭兵団のヘッド、出会いは…敵同士であった
なんど拳を交えただろう…なんど互いに恨んだだろう…だけど。彼は、私を追い返すフリをして…そっと自分の弁当をくれた。私も…彼の乗った船が海に迷えば…化粧をしておしゃれをして別人のフリをしてそっと島へと導いた。
「君だって…気付いていたよ、弁当姫ちゃん」
そう言われた時のなんと恥ずかしかった事か。わかめで桂まで作っていたのに…おかしな子だと…思われていなかったかしら?そんな月日は流れ…私は人間達と…彼と打ち解け、一緒に漁をしたりしたものよ…
タイ「ひぃいい!乙姫ぇえうらぎりものぉおおお!」
ヒラメ「あぁああ!素晴らしい!素晴らしい笑顔ですよ姫さまぁあああ!」
気付けば私は無くしたと思っていた笑顔を取り戻し…笑えるようになっていた。
ザブりん
ザブリン
ある日、私は彼に家の事情を打ち明けた…何故なのかしらね?彼には…私の全てを知ってほしかったの。
「わかるよ…俺も本当は、日野元の武家の生まれだったんだ…」
夕日の沈む…綺麗な海だったわ…彼も、自分の出生を教えてくれたの。本州のとある武家の生まれであったこと、紆余曲折で島流しになったこと…行き場をなくして、自暴自棄になって…そして海の上で暴れていた事。気付ば成らず者のヘッドになっていた事。
「俺たちって…なんか似てるのかもな…」
「……え?」
駿天はそっと乙姫の手をとった。
夕日に照らされたその丹精な顔は、波の飛沫にでもかかったのか…、切れ長の瞳の端から一筋、零れ落ちる物があった。
◆ ◇ ◆ ◇
ザブンザブン
鈴々は涙をこらえながら語り続けた。…空で言えるあたり義理の妹はこの物語が好きらしい、一人二役三役四役と声を使い分けて演技までするあたり…義理の妹はこの物語を愛してるらしい。
…知月は嫁の実家の事は知っておきたいと姿勢を正して聞いていたが、まさか家の始まりから演技されるとは思わなかった。初めて生き生きした義理の妹を見て少し嬉しくは思う、うん。
結局元武人と海神の姫のスーパーカップルが、当時の戦乱の島々を色々あって統治したらしい。…そして<赤い海の時代>が終わり、新しい<青い海の時代>へと…多分後半の成り上がり物語は必要なかった。二部の人間至上主義国家…日野元帝国の対魔部隊、殺魔班との死闘はなかなか面白い部分であるが、うん要らない、肝心なのは始祖となる二人だ。
「えーっと、じゃぁ俺が“河童”だけど大丈夫ってのは?」
河童の自分と、人間の娘、結婚出来るか否かイエスかノーか…親御さんの本心は?知月の心配はその一点。しかし、第一部を見る限り…乙姫=人魚と人間の婚姻が始まりならば…
知月の心はちょっと軽くなった。良かった…少なくとも種族は問題にならない…はず。
舞台が終わり、真剣な眼差しで質問をする儀兄を見て、今まで全裸だなんだと悪く思っていた鈴々の心も少し軽くなる。
すばらしい生徒だ!今まで最後まで自分の熱演を聞いてくれた人はいない。…きっと、この人なら姉さんを幸せにしてくれる!
「さすが義兄さん良い質問です!そう…そもそも琉宮王家は乙姫の…人外の血が混じってますから、妖怪でも全然OKです。」
ついでに家を飛び出していきなり結婚してるのも初代がすでにやってるわけだ。むしろ初代の血が悪い、頭が悪い…だいたいこの言葉で王族の諸問題は諦められている。対外的には通じないので大臣や側近たちはいつも頭を抱えるのだが…
「あぁ良かった。親族になるのに揉めるのは勘弁だからな…ありがとな…鈴々ちゃん」
「…フフフ、またいつでも教えて差し上げますわ義兄さん…ところで、姉さん大丈夫?」
「…っえ?」
知月が船の後方を見ると欄乱が流々の背をさすっている。
「うぐぇええええええ」(リバース
「大丈夫だ流々!もうそろそろ島が見えるからな?多分うん!」
「大丈夫か!?すまない!物語に集中しすぎて気付なかった!」
「義兄さん…!いえ…兄さま!仕方ない事です…えぇ、それは仕方ない事です!」
なんだか、義理妹と仲良くなった。
愛する妻は吐しゃ物を吐きつくし気絶した…
「なぁ…もうちょっとスピード落としてくれないか?揺れがひどすぎるかもしれない」
「まぁ、姉さんは昔から船駄目ですからね、いっそスピードを上げて苦しみを早く終わらせた方がよいですよ」
「…え?」
「そうか!大崩れ!もっと行けるか?最速だ!旦那は嫁さんが落ちないよう抱きしめててやれよ!よーしいけいけぇえ!」
「ブォオオオオオオオン!」
欄乱の号令で、船を引く大崩れが唸りを上げた!
加速する船、吐しゃ物の代わりに泡を吹きだす嫁を抱えて知月の心に疑問が生まれる。
島国育ちの嫁が苦手とは…う~ん
可哀そうに…う~ん
「乙姫…人魚姫の血がはいってるんだよなぁ?」
鈴々は義兄の疑問の声に、うーんと考え結論を出す。
「まぁ…人魚は船に乗りませんしね、船酔いとは関係ないかもです」
ザザザブン…ザザザブン…
船を引く大崩れの頑張りもあり、黒潮に逆らう船旅は2日ほどの短さで済んだ。
「わっひょおおおおおおお!」
河童小僧は魚雷の如く海原を泳ぎ一番旅を楽しんでいた。
「河童小僧は連れてきてよかったのか?」
「何を言うんですか!小僧ちゃんと私を引き離す気ですか!」
「お…おう…」
ザブンザブン
オロロロロロ(リバース
ザブンザブン
ブクブクブクブク(泡
こうして一行は、流々の故郷
青い海の王国「琉宮王国」へたどり着いた。




