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聖剣←魔王↑勇者  作者: 灰猫
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エルフの里長

 「こちらが里長の家です」


 護衛の守人衆は各々が役割に戻り、残ったのはロアと助けられた女。

 案内された家は大樹の根の隙間に組まれた家。それは樹の内部にも組まれているようで樹の幹に空いた穴には木枠の窓が幾つか作られていた。


 「おじゃましまーすー」


 「………」


 元気よく挨拶をする勇者と無言の魔王。


 「こらー、他人の家に上がる時は挨拶ー。常識だよー」


 「………邪魔をする」


 頬を膨らませる勇者と渋々挨拶をする魔王にロアは少しホッコリとした気分。


 「里長ー!いるかー?御使い様方がいらっしゃられたー!!」


 『分かっとるよぉ。お上がりしてもらいなさいなぁ』


 「ではこちらになります」


 空気に流れる様な囁きが耳元で聞こえ、その言葉に従いロアが手を通路へと上がり歩き出す。

 だが通路を曲がり、直進すると壁に突き当たる。


 「あれー?行き止まりー?」


 そんな勇者の疑問にロアが朗らかに笑う。


 「ははは、外から来られる方は不思議でしょう。コレは(ふすま)と云いまして……」


 ロアが丸く窪んだ部分に指を掛けて横へと引く。


 「こうして開く扉の一種でございます」


 「おおー」


 「はは、そう大したモノでもないですよ」


 勇者の拍手と魔王の驚いた顔に満足したのか笑顔で中へと案内する。


 「他人ん家の襖を大したことないとは、いつからそんなに偉くなったんだいロアよ?」


 「ば、ばっ様!?いや、これは……そん、すまんだわ」


 先程の言葉が聞こえていたらしく、ロアが素の訛り混じりの言葉で謝る。

 ロアが頭を下げる方向を見ると一人の女性が四角の敷物の上に座っていた。


 「まぁ、この鼻垂れは後で叱るとして。ようこそいらっしゃられた、御使い様方。散歩にこの樹海を歩いてらしたそうで」


 「まぁそんな感じだねー。精霊から聞いたのー?」


 「はい、何やらとても怖い方と優しい方がこの樹海にいると仰ってましてねぇ。久々に好奇心というものが湧き上がりましたわぃ」


 カラカラと笑う女性。だが喋り方と見た目が合っていないその佇まいに魔王は首を捻る。


 「不思議な奴よ。貴様は老婆の真似事をしておるのか?」


 「む?カッカッ、いやいや御使い様。ワシはこれでも900年は生きとりましてねぇ。ワシらエルフは人族の様な見た目ですが、老化っちゅうのとは無縁なんですわぃ。成程、其方の御使い様はエルフと会うのは初めてですかぃ」


 「ふん、別に初めてでは無い。無謀にも我に挑む愚かもっふ」


 魔王の口から出た言葉に勇者が素早く口を塞ぐ。


 「……何をする貴様」


 「おバカー、なんでいきなり敵を作ろうとしてるのー?不穏な言葉禁止ー!」


 勇者がヒソヒソと喋り、魔王が舌打ちをしてから黙る。


 「はてさて、色々事情がありそうだねぇ。鼻垂れ、あんたは茶を拵えてきなぁ」


 「畏まりました。……鼻垂れはやめっちくれっがね……」


 ロアが羞恥に顔を赤くしながら立ち上がり、襖を開いて外に出る。

 それを見送り里長は再び口を開いた。


 「さんて、邪魔なもんはいなくなりましたわぃ。御使い様はその童子だね。黒いアンタからは精霊王様の霊力が感じられないんだがねぇ。父親かぃ?」


 「父……巫山戯るなよ小娘が」


 不機嫌な表情で威圧する魔王に勇者は頭を抱えた。


 「ほ……ほっほ、なるほど……なるほどねぇ。面白いねぇ。かっか、長生きはするもんじゃわぃ!ワシを小娘呼ばわりするとは……かっかっかっ!!何故其方はここにおるんじゃ?いやいや、何故勇者様と一緒に?いやいやいや………くく、くくくくっ。興味深いのぅ、興味深いのぅ!」


 魔王の威圧に目を見開いて驚く里長だが次には腹を抱えて笑い出す。

 その姿に魔王は毒気を抜かれたのか威圧を解いて目を閉じた。


 「まぁ、言いたくないなら無理にとは言わないよぉ。まだまだワシは死ねんからのぅ。ただ、世間話として少しばかりこの婆の相手をしてくれれば嬉しいのぅ」


 「んー、色々察してるっぽいからいーよー」


 チラチラと視線を投げてくる里長に勇者が頬を掻きながら答えた。


 「ほっほぅ!!ありがたやぁ、ありがたやぁ!!とと、そう言えばまだ自己紹介しとらんかったのぅ。ワシはテテという。よろしくのぅ」


 「ボクはティーリカだよー」


 「…………」


 「「…………」」


 始まった自己紹介。テテと勇者ティーリカが名乗り、次はという視線を魔王へと投げかける。


 「………む、なんだ?」

 

 「えー……なんだって、自己紹介だよー?そう言えばボク達まだ名前も知らなかったし丁度いいよねー?」


 「……お互い名前も名乗らず旅をしとったのかぃ。なんとも……珍妙だねぇ」


 呆れた苦笑いのテテと何故か照れている勇者に魔王は無言のまま。


 「でー、名前はー?」


 「……………そんなモノは無い」


 少しの間から出た魔王の言葉にテテとティーリカは首を傾げる。


 「ふん、別に名前なぞ無くても困らんかったからな。気付けば貴様らが勝手に我を魔王と呼んでいた。なら魔王でよいではないか」


 「…………魔王」


 「ふむ、やはり魔王だったのかぃ」


 魔王のその言葉にティーリカは悲しげに、テテは己の予想が外れていなかった事に複雑な気持ちになる。


 「何故勇者様と魔王が共にいるのかは分からん。……だが魔王よ、お前はこの里をどうするつもりだぃ?他の魔王と同様、蹂躙するかぃ?魔人の繁殖地とするかぃ?それとも――」


 「あー、大丈夫だよー。この魔王は魔王だけどいい魔王だからねー。悪い事はしないよー。寧ろ困った人を見捨てられないんだー」


 「………それは魔王というのかぃ?」


 「く……貴様のかけた呪いのせいであろうがっ!!」


 歯軋りと共に拳を握りしめて俯く魔王に勇者が笑う。


 「呪いなんて人聞きの悪いー」

 

 「これが呪いでなくてなんだと言うのだっ!?……そうだ、その呪いは貴様の言う事を聞く、危機を助けるという内容ではないのかっ!?何故あの娘を我は助けたっ!」


 今更ながらに思い出し、ティーリカへと問い詰める魔王にティーリカはポケっとしている。


 「だから呪いじゃないってー。だってほら、聖剣だよー?そりゃー聖剣の主になったら正義の為に動くでしょー?だからだよー」


 「…………ん?」


 「だからー、この聖剣は正義の剣。だから正義の剣を持つ者は正義なのー」


 「…………………んん?」


 ティーリカの言っている事は正しいのだが何故か引っかかりを覚えて頷くことが出来ない魔王。


 「………ふんむ。もしやとは思うが、その聖剣は正義を成すものが持てるのでは無く、正義を『強要』するという事かぃ?」


 「あー、テテおばーちゃん正解ー!」


 「……………………な……んだ、と?」


 「因みにー、譲渡の契約はボクが聖剣と相談して許可が出たから出来たんだよー?だからその聖剣は魔王の物!捨てる事も出来ないし、譲渡契約で魔王が誰かに譲渡する事も不可って事にしたからねー」


 「………………………………………」


 魔王の顔が見る見る青くなる。そして次第に赤くなっていく。


 「巫山戯るなぁぁぁぁあ!!?まんま呪いではないかぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!?!」


 「………あぁ、違いないねぇ」


 頭を抱えで吼える魔王にテテの同情が混じる視線が降り注ぐ。


 「不束な聖剣ですが、よろしくお願いしますー」


 「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!破棄をさせろぉぉぉぉぉぉお!!!!」


 横に座るティーリカの頭を掴んで怪我しない速度で揺する。傍から見ると撫でくりまわしている様な光景だ。


 「あははー、むーりー」


 手でバッテンを作るティーリカに魔王の嘆きは大きくなる。


 「な、なんとあったがねぇっ(何があった)!!?」


 そんな魔王の叫びに音を立てて襖を開けたロアがお茶を零しながら入ってきた。


 

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