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聖剣←魔王↑勇者  作者: 灰猫
3/7

エルフとの遭遇

 「何用だ人間。いや、その禍々しい魔力。………貴様は人間なのか?」


 男が眼光鋭く立ち止まった魔王に問い掛ける。


 「何をしにここに来た。この樹海を混乱させる存在なら例え子連れであろうと……殺す」


 弓を引き絞る音と殺気に男の言葉が脅しでは無いと物語る。


 「そうか」


 ただそれだけ答えた魔王はつまらなそうに足元に刺さった矢を引き抜いて鏃を指で触る。


 「こんなモノで我を殺すか……くだらぬ」


 鏃を先端から押し潰し、同時に黒炎が弓矢全体を塵と化す。


 「貴様ら、我を愚弄しておるのか?」


 魔王の身体から漆黒の魔力が噴き出し、辺り一面へと広がった。


 「ぉ………ぁ………」


 男達は異質な魔力と殺気を浴びて固まった様に動けなくなる。


 (しまった、しまった!!コレは俺達の手に負えるモノでは無い!逃げなければ……だが、それが可能なのか……?)


 男の身体は恐怖に縛られ指を動かすことすら出来ない。必死で逃げ延びる方法を考えるも高速で働くのは思考のみで身体は一切の言うことも聞いてはくれない。


 本来彼らは集団で狩りをし、知恵を駆使して樹海の危険な魔物すら獲物としている。この樹海での食物連鎖では上位に近い。


 だが、今目の前でこちらをつまらなそうそうに、そして少しの苛立ちを込めて見る男。コレは樹海に住むどんな魔物よりも危険であり、絶対の死というものを連想せずにはいられなかった。


 「この程度で動けなくなるとは脆弱に過ぎる」


 魔王が足を一歩踏み出す。

 ただそれだけで男の肩が跳ね、全身の震えが激しくなる。


 「…………ぁ……っ!?」


 少し離れた方向から掠れた声。上の方から聞こえたその声の主は恐らくは木の枝にいる者だろう。


 「……ぁ……ぁぁぁあっ!?」


 「…………」


 掠れた声から叫び声に変わる。

 同時に男の前にいた魔王が黒い残滓を残して消えた。


 「うぁっ!!?」

 

 一拍遅れて聞こえた声は恐らく叫びを上げた者だろう。

 男はぎこちなくも顔を動かす。先程までの殺気と邪悪なオーラを発する魔王に仲間の死を覚悟した。


 だが、男のその最悪の想像は裏切られた。


 「怪我は無いか?」


 「………え、ぁ…………はぃ」

 

 片手で抱きとめるように仲間の女を抱えた魔王が立っていた。


 男は混乱する。視線を移すと木の枝に乗った他の仲間の表情と伸ばしかけていた手に、木から落ちたと悟る。

 

 「……助けた、のか?」


 信じられないといった表情で魔王を見る男。他の者達も混乱を起こしており誰も動くことが出来ずにいる。


 「ふん、脆弱な貴様らはこの程度で怪我を負い、それが元で命を落とすという。擦り傷とて甘く見るでないぞ」


 そう言って魔王の掌から黒い波動が女を包み込む。その波動の中で女は小さな悲鳴を上げ、周囲の仲間達が息を呑んだ。


 肩に乗っている勇者が「あ」という声を出すが既に遅く、黒い波動が治まると現れたのは見た目が20代中半から10代後半程にまで若返った女だった。


 「魔王のアホー。今度からソレは禁止ねー?治癒代わりにポンポン時間を巻き戻してたら生態系がおかしくなっちゃうよー」


 「む、成程。仕方無い、では次からは手間だが癒しの魔法を………ちがァァァァァう!!?またかっ!?何故だっ!?コレは貴様にだけ発動するのでは無いのかっ!?」


 コレとは即ち魔王が勇者に気を使い、言いなりになる事。ソレが見知らぬ者にまで発動した事に魔王は女をそっと降ろした後に頭を抱える。


 「まーまー、今はそんな事は置いといてー」


 「置くでないわぁっ!」


 「おねーさん達ってさー、エルフだよねー?」


 「…………は、はひ……」


 魔王の怒りの波動に草葉がさざめく。すぐ側にいる女は気を失いそうになりながらも勇者の言葉になんとか答えた。

 

 「あ、あの……さ、さっき、その方の事を……ま、まぉ――」


 「あー、丁度良かったよー。部族は違うんだけどコレって有効かなー?」


 女が勇気を出し、先程勇者の口から出た不穏な言葉を確認しようとするも勇者のカバンから出てきたモノに息を呑む。


 「こ、これはっ………」

 

 先程までの恐怖の震えとはまた別の震えが起こる。女は差し出されたモノを受け取り目を見開き、この集団のリーダーである男を見た。


 男はそんな女の視線を受け、魔王の恐怖を全力で抑えて近づいて行った。


 「ロア……こ、これ」


 ロアと呼ばれた男。女に恐る恐る渡されたモノにロアは衝撃を受けた。


 「なっ……これ、は……精霊王様の、羽根だと!?しかもコレは風切羽では無いかっ!?」

 

 エルフとは自然を愛し、精霊を友とし、精霊王を崇める種族。その精霊王の羽根を持つという事は加護を受けている証であり、更に風切羽ともなれば精霊王と親しい者にしか与えられない。その証を持つ者はエルフにとって最大限に敬う存在であり、決して粗雑に扱っていい存在では無い。


 「偽物、なわけが無い……この神聖なお力……間違い無い」


 汗を流して虹の様な輝きを発する羽根を見るロアが顔を上げて魔王と勇者を見る。


 「し、失礼いたしましたっ!!御使い様とは知りませんで大変な無礼をっ!!」


 勢い良く地に片膝をついて跪くロアと他のエルフ達。御使いとは即ち証を持つ者の事を指す。


 「気にしてないから頭上げてー」


 のほほんとした勇者の声にロアは恐る恐る顔を上げる。勇者は笑っているが魔王は目を瞑って黙ったまま。


 「あ、この人は気にしないでいーよー。無愛想なだけで別に悪さはしないよー?」


 「………………」


 勇者の言葉に眉間を一度引くつかせるだけの魔王。そんな勇者達の顔を交互に見つめて男は口を開いた。


 「その、御使い様は何用でこの樹海に?」


 「えとねー、特にここの里に用があるわけじゃないんだけど……旅の帰りというかー、散歩というかー。どっちもかなー」


 勇者の言葉に疑問符を飛ばす男達だが、精霊王の友人ともなればやる事は決まっている。


 「その、先の無礼のお詫びと言ってはなんですが村へご案内……いえ、この言い方は正しくない。是非とも村へ来て頂きたい!我らエルフ一同盛大に歓待いたしますっ!!」


 ロアがそう言って顔を下げると他の者もそれに続く。


 「んー、そうだねー。どうするー?」


 「…………ふん、興味など無い」


 「じゃー、お言葉に甘えようかなー」


 勇者の言葉にロア達は声を上げて喜ぶ。

 直ぐに立ち上がると勇者達を護衛する様にしてエルフの里へと向かった。


 「結界か……強度は脆いがここに住む魔物位なら退けられるか」


 「はい。認識と感覚を狂わせ、内ではなく外へ導く様に組まれております」


 「これねー、違う里に行く時にボクも引っかかって何日も辿り着けなかった事があるんだー」


 凄いよねー、と感心した声を出す勇者にロアは少し誇らしげになる。


 「ふん、ならば別に我の前に立ちはだかる必要などないではないか」


 少し悪い顔で言う魔王にロアの表情が落ち込む。


 「ご冗談を……。その里の結界で防げるか分からない存在を感知したからこそ我等守人衆が出向いたのです」


 精鋭たる守人といえど御使い様のお力には塵芥に等しいですが、と先程の醜態を思い出し力無く笑うロアに勇者は少し怒った表情。


 「いじわるしないのー」


 ポコリと魔王の頭に柔らかい拳骨。魔王は一度鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


 さて、そんな守人衆総勢30名に護衛されながら里へと向かう。道中は魔物一匹すら出ず、合間に珍しい果実を取ってきては勇者達に渡して味わう余裕のある平和な時間だった。


 「ここが我ら、ルシタラの里でございます」


 そう言って振り返ったロア。そこは木々はあるが草が綺麗に刈られ、長さが統一された場所。パッと見少し歩きやすくなった森の様に感じられるがそこは確かに人の住まう里だった。


 「ほう、樹に家を作るか」


 「はい。自然を破壊して住処を作ることを我らは好みません。なので目指したのは開拓では無く共生。朽ちた木や草を使い、それを大樹に吊り、組み込み、空洞を利用し、とその樹に合わせた住処を作っております」


 少し感心した様な魔王の言葉にロアは笑顔で答える。


 「凄いよねー。とても綺麗で、少し不思議で。生き生きとしてるんだよー。人も、精霊も、そして木々もー」


 「………………悪くない」


 微かに口元が釣り上がり、そう呟いた魔王を見てエルフ達が目を丸くする。その視線に気付いたのか視線だけで睨む魔王にエルフ達は目を逸らす。

 

 唯一勇者だけがくすくすと笑っていた。

 


 

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