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聖剣←魔王↑勇者  作者: 灰猫
1/7

魔王と勇者

ふと思い付いて書き殴りました。

拙い文章ですが楽しんでもらえたら嬉しいです。

 そこには嘗て国があった。

 栄えた証として佇む数多の商業や民家の建築物、整地された道、周りを囲む分厚く背の高い城壁……そして、白亜の城。


 だが今ではその面影は一切無く、あるのは石と砂と炭となった木材。

 人も、動物も、虫も、そこに暮らす生命が居ない空虚な世界。その名は遥か昔に失われ、今は畏怖と怨み、侮蔑を込めてこう呼ばれている。


 『虚無の国』


 かの国に民は居らず、旅人も来ず、食料も、生産も、木も、なにも存在しない国。

 唯一残っていた白亜の城も今はもうもうとした土煙を上げて崩れ落ちていた。


 その崩れた城の中心に、ただ一人の住人が佇んでいる。腰まで伸びた長い黒髪、そして黒地に金の刺繍を施されたローブが風にふわりとはためく。


 住人は一言で表すと邪悪。

 人の形をしているが、漏れ出る瘴気、殺気、邪気、全てが混ざり、捏ねくり回されて形作られたかの様な存在。少なくとも人ではない。


 「さて、貴様で何人目だったか……確か666人目だったか?」


 顎を摩り首を傾げながら一人で話す姿を誰かが見れば頭のおかしい男だと思っただろう。

 だが、彼はしっかりと話しかけていた。


 「我の城をこんなにしおって……楽には殺さぬ」


 「か………ふ……」


 足元にはあちこちが歪み、無数の傷が刻まれた全身鎧。その継ぎ目からは赤い血が流れ苦しげな呼吸音がくぐもって聞こえている。


 「勇者、英雄、賢者、その他もろもろ、全てが脆弱。くだらぬ、つまらぬ、そこらに舞う土埃の方がよっぽど厄介よな。勇者よ、貴様は何の為に存在しておるのだ?」


 溜息混じりに少しの傷も負っていない服に付いた土埃を手で払う。


 「……ぁ、ぐっ……『エグス・ヒール』」


 倒れ伏す者から小さな呟き。同時に翠の光が勇者と呼ばれた者から淡く溢れた。

 すると流れ出る血が止まり、呼吸の音が徐々にハッキリとし、輝く剣を杖にしてふらつきながらも立ち上がる。


 「くく、なんだ。まだ遊んで欲しいのか。次はどうして欲しい?四肢を末端から崩壊させてやろうか?それとも内側から魔力を暴走させ肉体を喰わせてやろうか?いやいや、その鎧を中身ごと掌に収めてもいいな」


 「…………ぃ……」


 傷が癒えた身体を重そうに動かす勇者に邪悪は嗤いながら話しかける。


 「……流石、最凶と最強を併せ持つと伝わる魔王。だが、次が最後だ。私が持つ全てを込めた一撃で貴様を必ず……」


 「そうか」


 魔王と呼ばれた者はただ興味無さげに答える。


 「ふ、逃げるなら……今のうちだぞ?」


 「戯言を。逃げる必要など欠片も無い」


 前髪を弄り、溜息を再び吐く。


 「ならば………受けよ魔王ぉぉお!!」


 身体と剣を一度引いてから雷の様な速度で突きを放つ勇者に魔王はただ目を閉じていた。


 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


 獣の様な咆哮に更に突きの速度が上がり、幾つもの衝撃波と破裂音が空間に響き渡る。

 それは全てを穿く神槍の如く。眩い光の線が魔王を、遥か彼方の山を、雲を、そして宙を穿つ。





 「………終わりか?」


 つまらなそうな声が聞こえた。


 「…………………ぁあ……」


 剣は魔王を穿くこと無く、魔王の心臓の手前で掴まれている。

 それを見た勇者は全てが終わってしまったかの様な声を出した。


 「そうか。ならばもう滅べ」


 剣を掴んでいない左手が勇者の眼前で拡げられる。そこには先程勇者が放った一撃を遥かに凌駕する程の魔力が収束していく。


 「貴様との闘い……実に、つまらなかった」


 最後に魔王から侮蔑の言葉。そして漏れ出た魔力が足元の大地を削り取る程まで高まり―――


 「跡形もなく――癒せ(・・)

 

 掌から放たれた漆黒の球体は勇者を、その後方に広がる虚無の国の半分を呑み込んだ。






 「………む?………癒せ(・・)?」


 その言葉は魔王から。自分の発した言葉に眉を寄せた。


 「……ふぅ、成功したみたい」


 もうもうと砂煙の上がる中から聞き覚えのない声。


 「何者だ」


 自分の異変に警戒を抱いた魔王がその表情を険しいモノに変えて砂煙を睨めつける。


 「え、誰って今更ー?さっきまで……あれ?ちょ、重ー!?何これめちゃくちゃ重いんだけどー!?ちょっとどうなってんのコレー!?」


 呆れた様な声から何かに焦り、混乱した声へと変わる。


 「何者か知らぬが、我をからかっておるのか?」


 手を横へと一薙ぎすると目の前の砂煙が一瞬で吹き飛び視界が晴れる。


 「……何?」


 そこから現れたモノに魔王は少しだけ目を細めた。


 「何故まだ存在しておる」


 魔王の瞳に写るのは先程まで挑み掛かってきた勇者の姿。全身鎧が膝を着いて項垂れる形でそこにあった。


 「暗いよー!狭いよー!誰かー!助けてー!!」


 先程の声が再び聞こえる。砂煙が晴れ、それと共に声も少しだけ明瞭に聞こえる。

 それはまだ幼い子供の様な声。それが――


 「……何故、貴様から聞こえるのだ?」


 魔王の視線が向けられたのは目の前の勇者の鎧。そこから聞こえる声は先程までとはまるで違う。


 「あ、魔王ー!ちょっと助けてー!ヘルムが外れないー!暗いよー!怖いよー!」


 馴れ馴れしく己を魔王と呼ぶコレはなんであろう。

 先程までの勇者とは中身が入れ替わったとしか思えない声と言葉使いに魔王は暫し考える。


 「まぁ、どうでも良いか」


 魔王はその思考を捨て、同時に周りの景色を歪ませる程の殺気が溢れる。


 「貴様がなんであれ、滅ぶのには変わりはない」


 そして振るわれる腕は真っ直ぐに勇者の鎧へと伸び――――





 「ほら、これで暗くないだろう。そう怖がるでない」


 優しくヘルムを取って中身へと微笑んだ。


 「………………………ん?」

 

 魔王の表情が微笑みのまま固まる。

 一つは己の言動に。

 もう一つはヘルムを取った勇者の鎧。その中身を見て。


 「我は……何を?いや、なんだコレは……デュラハンか?」


 勇者の鎧。その中身は首の部分に艶のある蒼い何かがあった。ヘルムの位置にある頭部が無い事に魔王は魔物の名を呟いた。

 

 「ぷはっ!?あー明るいっ!埃っぽいけど息苦しくないー!あと、誰がデュラハンだよ!ボクは勇者だよー!」


 「うぉっ!!?」


 グルンと蒼い何かが蠢き、それに驚き肩を震わす。だが、現れたモノに魔王は更に混乱する。


 「顔だと?……人の子か?何故勇者の鎧に……いや、貴様が勇者だと?」


 「そだよー。てかねー?鎧が重いから脱がすの手伝ってくれない?」


 蒼い髪に琥珀の瞳。整った顔立ちの子供が困った様に魔王へとお願いをする。

 魔王はくだらぬと鼻で笑い、今度こそと目の前のモノに手を伸ばす。


 「仕方の無い奴だ。ほら、動くでないぞ」


 「ありがとー」


 鎧の胴を外して持ち上げると中からバンザイをした格好の子供が現れた。

 齢は8歳程だろうか。


 「気にするでない。困っていた者がいたら助けるのは当然の事よ」

 

 「うんうん。偉いねー」


 「そう褒めるでない」


 子供の頭を魔王が優しく撫でた。


 「…………………………………待て」


 「どしたのー?」


 そんな頭を撫でる魔王の手が止まる。


 「待て待て待て待て待て。聞かねばならぬ事がある。………貴様、勇者。我に何をした!?」


 憤怒の表情。勇者の頭に乗せた手に力が入るもそれは頭部を粉砕することは無い。


 「何故だ!!?何故殺せぬ!!?いや、子供を殺す等とんでもない!いや、違う違う!我は魔王!全てを破壊し、蹂躙し、鏖殺する者!!年寄りを労り、弱き者を助ける正義を貫く……違うっ!?何だこれはっ!!?」


 「ふふ、ふふふふ………」


 よろめき頭を押さえて狼狽える魔王に勇者が笑う。


 「何だも何ももねー?ねーねー、魔王。………その右手に何を持ってるの?」


 「右手……何を、っ!?」


 魔王の右手を勇者が指差す。それにつられて見るとそこには先程の勇者の一撃を放った輝く剣。掴んで防いだのだから手に持っているのは当然の事。だが――


 「何故……我はコレの柄を握っておるのだ」

 

 何故か掴んでいる部分は刀身では無く柄の方だった。


 「簡単だよー?あの時ねー、剣先で突いたんじゃなくて、柄の方で突いたんだよ?」


 ニッコリと笑う勇者に魔王は言い様のない悪寒が走る。


 「……何故、意味の分からない事をした」


 聞きたくない。だが聞かねばならぬと絞り出す様な声が出る。


 「ふふ、ふふふ。それも簡単な事だよ。魔王、君に勇者を変わってもらった!!」


 片手を突き出し、胸を張る勇者。誇らしげな顔がまた魔王の苛立ちを加速させる。


 「訳の、分からぬ事を……ほざくなぁァァ!!!!」

 

 鋭利な爪が勇者の顔を貫かんと迫る。


 「あ、ボク……足が痛いなー?」


 「ふん。我の背におぶさるが良い。何、貴様如き羽毛の様な物だ。好きなだけ乗るが良いわ」


 「魔王やさしー」


 朗らかな笑いを浮かべる魔王と勇者。


 「ヌァァァァァァァァァッッッ!!!!!何故だァァァァァァァ!!!!!??」


 そして地へと崩れ落ちる魔王。

 嘗ての大国に魔王の慟哭が響き渡った。


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