頭脳戦
脇腹に激痛が走った。バリアが解けた隙に吸血鬼の少年にグーで殴られたみたいだ。
視界に星が広がる。よろめく体をなんとかして立て直そうとするが、襟を掴まれてしまった。
「まあ、僕はいらないけど仲間の吸血鬼が君の血を必要とするだろうからここで死んでもらおうか」
「はっ、はなせ、、」
襟を掴んでいる手と反対の手で首を掴まれた。
遂に俺は終わりか?絞殺とか勘弁してくれ。
ぜっーーたい。痛いに決まってる!
爪の長い手で掴まれた首筋から僅かに血が流れた。その傷の痛みなど感じるよりもはるかに殺されることに関する恐怖が上回って痛みすら感じない。
「その手、離しな。お前の相手は私だ」
「ル、ルーカスっ!ありがとう」
蹴り飛ばされたルーカスが少年の手首を剣で切り落とした!手が床に音を立てて落下する。慌てて俺は目を逸らした。グロいのは不慣れなんだよ!
「くっ、僕としたことがっ、、でも問題はない」
瞬時に後方へ移動し、態勢を整えた少年の手首からは新しい手が生えはじめていた。
吸血鬼にとってこの程度の負傷は痛くも痒くもないらしい。
「鯨井君、私だけではあの少年に攻撃が届かなそうだから、力を貸して欲しい」
「了解です。で、俺は何をすれば良いんですか?」
「あの少年の足元に炎のループを作って欲しい」
「やってみます!」
炎のループ。つまり、炎の輪によって行動範囲を制限させることで攻撃しやすくするという作戦か。
俺は脳内に炎の輪をイメージさせ、少年に向かって攻撃を仕掛けた。
「な、なんだこれは!」
見事に攻撃は上手くいき、少年の足元に激しく燃え滾る輪を出現させることに成功した。
しかし、左右の進路を閉鎖しただけでは、この少年には意味がないようで、すぐにジャンプをして輪から脱出してしまった。
「ふん、掛かったな少年」
「なっ、」
驚くことに、ルーカスは少年の移動先を先読みして攻撃を仕掛けていた。
少年の肩に剣が突き刺さる。
「てっ、テメエ!」
力ずくで肩に刺さった剣を抜き取ると腕力で剣をへし折ってしまった。あのか細い腕にそんな腕力があるとは!
案の定、瞬時に傷口は塞がってしまった。
「鯨井君、もう一度頼む!」
俺は再び少年の足元に炎の輪を作った。今度はさっきよりも大きく、火力の強いものにした。
「そのまま、あの吸血鬼を炎の輪で縛りつけてくれ!」
縛り付ける?俺は炎の輪を一気に狭め、吸血鬼を飲み込ませた。
「クソ、なんて火力だ。だけどこんな炎じゃ僕を焼き殺すなんて無理だよ?」
「吸血鬼は炎が苦手だ。何故かと言うと太陽のように熱く、血液を蒸発させやすいから。それに触れると銀製武器による攻撃時のように痛みを感じる。ただし、単なる炎だけでは吸血鬼の丈夫な皮膚を透過させることは不可能。よって通常、炎だけでは倒すことが出来ない」
ルーカスは涼しい顔でそう言い放つと、ベストから剃刀を2本取り出すと、炎の輪に向けて投げ込んだ。
「楽になれ、少年」
ルーカスが投げ込んだ二本の剃刀が炎に触れた瞬間。耳をつんざくような大爆発が起こった。
いったい何が起こっているんだ?
爆弾でも投げたのか?いや、あれはたしかに剃刀だったはず、、、
「あああああっ!おのれ人間っ、、、」
「粉塵爆発さ。吸血鬼の体を透過出来るのは銀製武器と白木の杭だけ。だから、銀によって皮膚を破壊した隙に炎によって燃やせばすぐに血液が蒸発して死に至る」
「許さないっ、、、この僕を、、、だけど、、この先にいる吸血鬼に、、は、、敵わない、、所詮は、、袋の鼠なんだよ!」
爆発が終わり、炎がおさまると、少年の体はまるで炭のようになっていた。
「一体、ルーカスさんは何をしたんですか?」
「私が投げたのは、金属粉さ。1つは鉄の粉末。2つ目は銀の粉末。特に鉄粉は炎に触れた瞬間、大爆発を起こしやすい。粉塵爆発って聞いたことはあるかい?あれを起こさせたのさ」
「粉塵爆発、、、」
「一緒に混ぜた銀粉によって吸血鬼の皮膚を破り、体内に炎を充満させ、爆発によって一気に血液を蒸発させたんだ。いやぁ、初めて試してみたが、効果は絶大だな」
「うわぁ、、、まじか」
恐ろしいけど、武器を沢山刺して血液を抜く方法よりかはマシな気がした。
「吸血鬼が死ぬ原因は体内の血液が無くなることだ。太陽光は皮膚を透過して血液を蒸発させるから奴らは死ぬ。炎だって体内に入りさえすれば太陽光と何ら変わらない。」
「なるほど、、」
「さて、メイザちゃんはどこに行ったんだ?」
そういえば、メイザちゃんの気配がしない。遠くに逃げたのか?だとしたらかなり危険だ。
逃げろとは言ったが、逃げたら逃げたで他の吸血鬼に遭遇する危険もある。




