キャサリンの意見
キャサリンにもいろいろあったようです。
キャサリンがリチャードをじっと見ていた。
どうも居心地が悪い。
うろたえている心の奥底まで見通されるかのようだ。
「殿下、髪をカツラを取ってください。」
そう言われて気がついた。
キャスを迎えに行くためにリカルド・ジェンキンスに扮装したままだった。
眼鏡を取って、黒髪のカツラを外す。
汗ばんだ髪に手を入れて風を通した。
キャサリンは、そんなリチャードを見て、大きなため息をついた。
「本当に、リチャード殿下なんですね。なんだか未だに信じられなくて…。」
「騙してごめん。王族のワクを取り外した私を見て欲しかったんだ。」
「…すっかり騙されてました。うちの兄妹もみんな! ロブはリチャード王子に似てるねって言ってましたけど、誰が金槌を持っている王子を想像します? 汚れ仕事も平気でしてるんですもの。」
「えっと…ごめん? 普段でもやっていることだから、何とも思っていなかったんだけど…。」
「えっ、普段も大工仕事をしているんですか?!」
「うん、そうだけど…。」
キャサリンに何を怒られているのかよくわからない。
「もうっ! 殿下、今のでもわかるでしょう? 私は殿下のことを何も知らないんですよ。殿下も傍から見ていただけで私の何を知っているんですか?」
「しかし知ろうとしたら端から拒まれたんだが…。」
「それはっ…わかるでしょう。王子の意中の人だと周りにに見られたらどうなるか…。」
「ああ。」
「高校時代の1年間を経験しただけで、私はもう貴族階級に嫁ぐことはできないなと諦めました。誰が王子の気分を害してまで私をもらってくれます? …それで独りで生きていくしかないと思ってキャリアウーマンを目指したんです。」
「……………。」
そんな迷惑をかけていたとは思わなかった。
キャサリンの将来の希望を閉ざしてしまったのか?
「貴族階級に…………好きな男でもいたの?」
「何を言っているんですかっ。13歳ですよっ! エムじゃあるまいし。」
「すまない。なんかいろいろ申し訳ないことをしていたんだな私は…。しかしあの時は君を手に入れることしか考えていなかったんだ。衝動に突き動かされていたと言うか何と言うか…。」
「そう、それです。私も殿下は一時の気の迷いと言うか、青春の衝動に突き動かされて私みたいな可笑しな女に目を付けてしまったんだと思ってました。だから、殿下が結婚をされた暁には、晴れて私も縁談を探そうと思っていたんです。」
「……………。」
なんというか完敗だ。
キャサリンの心に全く私はいなかったという事なんだな。
ノックアウトされたボクサーというのはこんな気分なのかもしれない。
◇◇◇
「そこで今回です。」
ん?
まだ続きがあるのか?
もう勘弁してほしい……。
「私は将来に希望を感じたんです。リフォーム会社もいいなって。」
そうか、将来の目標が見えて来たんだな。
店舗を改装したことで少しでもキャサリンの役に立てたのなら良かった。
今回のこともすべてが無駄だったということではなかったのか。
私の夏も少しは報われたんだな。
「……もうっ、鈍いんですね。」
「なにが?」
キャサリンは口の中で「しょうがないんだから。」とぶつぶつ呟いてから言った。
「リカルドの奥さんになって、リフォーム会社をやっていくのもいいなっと思ったんですっ。」
「リカルドっ?! 誰だそれはッ!」
遠くから幸せを祈ると言ったが、実際の人物名を出されると嫉妬してしまう。
キャサリンは処置なしというように首を振っている。
「貴方でしょう、リカルドは。」
「えっ、私?!」
リカルド!
なんだ偽名か…。
え、私の…奥さんということなのか?
「もしかして、もしかして私の奥さんになってもいいと言ったのか?!」
「リッチ、貴方が考えた名前なんでしょう?」
「キャスッ!!!」
リチャードは思わずキャサリンに飛びついた。
力任せに抱きしめるリチャードの汗ばんだ髪をキャサリンはしばらく撫でてくれていたが、「ギブギブ。」と腕を叩かれたので、やっと腕の力を弱めた。
けれどキャスをこの腕の中から出したくない。
こんなこんな……ああ神様ありがとうございます!
ああ、わたしはもう何でもします。
ああ、ああ、……何だか頭がふらふらして来た。
「殿下? リッチ……? リッチッ!!」
キャサリンが慌てて、リチャードを長椅子に横たえて、側にあったクッションをリチャードの顔に押し付ける。
なんてことだ殺される。
「んんっ、んんんんっ。」
「じっとしてください。過呼吸になったのよ。クッションを外しますから静かにゆっくり息をするんですよ。興奮しては駄目。」
わかった。
わかったから、早くクッションを取ってくれ!
「んん。」
キャサリンはクッションを取ると、リチャードに……口づけをした。
興奮しては駄目だって?!
これは興奮せざるを得ないだろう。
リチャードはキャスを再び抱きしめるともう、二度と離そうとはしなかった。
こうして王子様とお姫様は仲良く幸せに……暮らすはずがないですね、この2人は。
言い合いをしながら互いに理解を深め合って、手を取り合って難題に挑んでいったのでした。
おしまい。
やっぱり王子様の話だから「おしまい。」を書きたくて参入してしまいました。
二人は・・・忙しそうでしたし・・ねっ。