荷馬車の上で……
ガタゴトガタゴト、何やら五月蝿いし地面が揺れている。
そう思って目を開けると俺は荷馬車の上に居り、馬の手綱を握る為にある御者台に一人座るケモミミとケモ尻尾を持つ男性の後ろ姿が視界に入った。
そして自身の横には同じく男性が二人と、ケモミミとケモ尻尾を持つ女性が一人と普通の女性が一人居た。
あぁ、そうでしたね。
俺は人に出会えた喜びと安堵で、滅茶苦茶眠くなり図々しくも荷馬車に無断で乗り眠ったんでした。
ワハハ! ここはワロトケ、ワロトケ!
さぁ、俺が目を覚ましているのに気付いて此方に視線を向ける人達と、久方ぶりのコミュニケーションをしようではありませんか!
「オッス! オラの名前はキリュウ、よろしく!」
「「お、おう。よろしくな」」
「「よ、よろしく」」
う~ん、元気がないようですね。如何しました?
とまぁ、冗談はさて置き。
多分、俺をどう扱って良いものか困惑しているのだろう。
何せ、無言と無断で荷馬車に乗り込んだからな、俺。
そんな奴に戸惑わない訳がない。
それを証明するかのように、俺以外の面々の表情は渋い。
「街まで何れくらい?」
「いやいや、先ずはお前に何があったのかを説明してくれ」
俺が戸惑う面々を無視して尋ねると、男性の一人が当然の意見を口にした。
うむ、言葉のキャッチボールですな。
ならば答えましょう。
「目を覚ますと亜人が彷徨くダンジョンに居て、困惑しつつも何とか頑張る俺。
そして約十ヶ月を掛けてダンジョンを踏破し、草原を一人寂しく約一ヶ月半もブラブラと歩き続け、漸く出会うことが出来た貴方達の荷馬車に乗り込み安眠を貪る。
そしてそして、現在に至る。という訳ですね♪」
「「「「…………………」」」」
あれ? 言葉のキャッチボールだと思いちゃんと相手の胸に投げ返した筈なのに、目の前の人達は胡散臭そうに表情を顰めている。
何かミスったのだろうか?
ちゃんと笑顔付きで答えたのにな。
そんな俺の内心の疑問を知ってか知らずか、女性の一人………赤い髪色でスレンダーなケモミミ女性が口を開いた。
「うん、それは大変だったね。
それで、本当は何があったのかな? お姉さんに教えてくれる?」
眉を八の字にして困ったように俺に尋ねてきたのだが、何があったのかはさっきの説明通りだし、他にどう言えと仰るの?
って言うか、何故に嘘だと思われているのだろうか?
嘘をつく理由も無いし、俺は正直に自分の身に起きた出来事を簡潔に述べたよ?
そんな疑問を浮かべていると、ふと女神アナステアの言った言葉を思い出した。
『一つだけ教えておいてやる。
現在、沢山の神々がダンジョンを制作しておるが、踏破されたダンジョンは二十個だけじゃ。
ちなみに、ここ十年ではそなただけになるのう』
そう、ここ十年でダンジョンを踏破したのは俺だけになるという部分が、俺の言葉を嘘だと思った理由なのだろう。
おそらく、ダンジョンを攻略しようとする者達は大勢居るのだろうが、実際に踏破するだけの実力が無いのだと察せられる………あるいは、俺が踏破したダンジョンが簡単なだけであり、他のダンジョンは圧倒的にムズいのかも。
もしかしたら、女神アナステアの言う言葉の意味には、誰も踏破したことがないダンジョンを踏破したのはここ十年で俺だけ、という意味もあるのかも知れないが……。
兎も角、少なくとも子供がダンジョンを踏破するのは異常かも知れないな。
そう考えると彼女達が嘘だと判断した理由も納得出来る。
うん、ならどうしよう? 嘘をついて誤魔化すか?
でもなぁ、嘘をついたら後々辻褄が合わなくなって余計面倒になるかも知れないし………やっぱり本当のことを言うべきだろう。
勿論、別の世界から云々という所は話すつもりは無い。
馬鹿なの? アホなの? って思われるのが関の山だしね。
「いや、本当にダンジョンを踏破したんだよ。
実際、愛の女神の加護とステータスポイントUPって言うスキルを貰えたし」
「「はぁ!?」」
「「えぇ!?」」
え!? お隣の佐藤さんが!? そんなことする人には見えなかったのにねぇ!
そんな感じのリアクションで驚く面々。
はっきり言って、失礼千万ですよ!
一人寂しく苦労した日々を否定されているような気分です。
しかし、まぁ、それもある意味では仕方ない。
何せ、今の俺は六歳児なのだから。とてもダンジョンを踏破出来るとは思えなくても不思議じゃない。
この世界が出来てから何年なのか知らないが、全部で数百はあるダンジョンがいまだに二十個しか踏破されていないのだし、その内の一つを踏破した奴が目の前の子供だとは信じられないだろう。
俺の心は広いのですよ。だから怒りません。
リンゴ擬きを食べ続けたせいで、フルータリアンだったガンジーみたいに俺の心は広くなったのかも………いや、それはないか。
事実、草原を歩いていた時、モンスターの糞を踏んで滅茶苦茶怒ってたもんな。
ハハハ! ワロトケ、ワロトケ!
そんな過去を思い出していた俺に、男性二人が身を乗り出して来た。
「マジかよ!! って言うか、ステータスポイントUPって、どんなスキルだ?!」
「愛の女神って、アナステア様の加護だろ! 加護の効果は何なんだ?!」
二人が捲し立てるように早口で尋ねて来るが、俺は聖徳太子ではないので一度に理解出来ませんよ。
でも良かったよ。どうやら信じてくれたらしい………女性二人はいまだに懐疑的な様子を見せているが……。
どんだけ信用が無いのだろう、俺って……。
それはさて置き、気になることを言っていたな。
加護の効果がどうたら………加護に効果が有るの?
「ステータスポイントUPってのは、レベルが上がると数値が変動するでしょ? それの数値が多く貰えるみたいだよ。
加護の方は、正直言って分かんない。今初めて加護に効果が有るって知ったくらいだし」
「凄いスキルだな!
つうか、加護の効果はステータスを見れば書いてあるだろう。お前はそんな常識も知らないのか?」
身を乗り出した二人に変わって、御者台に座るケモミミの男性が教えてくれた。
非常に有難いのだが、常識知らずと思われたことは心外ですよ。
ま、まぁ、無断で荷馬車に乗る時点で常識云々の前に、躾のなってないクソガキですけどね。
それはそうと、折角教えてくれたのだから見てみよう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【 名 前 】 セイイチロウ=キリュウ
【 年 齢 】 6
【 種 族 】 ハイヒューマン
【 レベル 】 25
【 体 力 】 42
【 魔 力 】 78
【 攻撃力 】 42
【 防御力 】 42
【 俊敏性 】 42
ステータスポイント:残り0
【種族スキル】 ステータス操作
【 スキル 】 気配遮断2.5 気配察知2.3
木工2.9 槍術1.9
短刀術1.9 弓術3.5
投擲術3.1
【 魔 法 】 火魔法0.1
【ダンジョン】 ステータスポイントUP
【 加 護 】 愛の女神
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ん? やはり書いてありませんけど?
そんな風に疑問に思いながら愛の加護と書かれた文字を見つめていると、驚くことに加護の詳細が分かるようになった。
【 加 護 】 愛の女神:常に防御力が+50の状態になる。
「おお、凄い! 本当に見えた!」
加護の詳細が見えて思わず感想を口にすると、ケモミミの男性が背後を向けたまま尋ねて来る。
「それで、内容はどうなんだ?」
「常に防御力が+50の状態になるんだって! 結構使える加護だよね、これって!」
「……子供って怖いもん知らずだな……神様の加護に"これは使える“とか上から目線で言うなよ。
天罰で死ぬぞ、お前」
ケモミミ男性はクールダンディーな人らしい。
背中から哀愁を漂わせながら、そんな風に俺に忠告してくれた。
一方の身を乗り出していた二人はと言うと、スキルが凄いやら加護がヤベェやらと言い合いながら興奮している。
そしてここまできて、漸く女性二人も信じてくれたらしく、女子高生のようにキャッキャウフフと盛り上がり始めていた。
うむ、忠告痛み入る!
で、そう言えば皆さんの名前は聞いて無かったなぁ、と思い尋ねると、それぞれに自己紹介をしてくれた。
「俺はヒューマンの剣術士で、名前はクロウ」
「俺もヒューマンの剣術士で、名前はヴェル。ちなみに、コイツと俺は双子の兄弟だ」
双子だと言うクロウとヴェルは、二卵性だと思われる。何故なら、顔が全く似ていないからだ。
クロウの方はシュッとした爽やかな顔をしており、金髪緑目の男だ。そしてヴェルの方はクロウとは反対に角張った顔をしていて、同じく金髪緑目をしている。
ちなみに、クロウが兄でありヴェルが弟なのだそうだ。
「私はヒューマンの弓術士で、名前はレナよ。
よろしくね、キリュウ」
「私は獣人の狐族よ。戦闘タイプは、レナと同じで弓術士! 名前はミーナっていうの、よろしく!」
ふむふむ。二人とも美人さんですね。
ケモミミのミーナと名乗る女性は、赤い髪色で同じく赤い目をしているスレンダー美人。
レナの方は、ミーナよりも少し出る所が出ているメリハリボディ。そして、緑色の髪と緑目をした美人。
「最後は俺だな。
……俺の名前はディーン。種族は獣人の狼族で、戦闘タイプは魔法剣術士だ」
やはりクールダンディー。自己紹介も何故かカッコ良い。
ディーンは、銀の髪色と緑目をしていて………って言うか、何?! 魔法剣術士って何?!
戦闘タイプもカッコ良いとか、ディーンは全部がカッコ良いな。
ま、まぁ、改めて俺ももう一度自己紹介をしておこう。
その後で魔法剣術士とやらが何のかを深く聞きましょう。そうしましょう!
「俺の名前はキリュウ! 戦闘タイプは……特に無いけど、弓と槍を多様してるかな?
で、種族はハイヒューマンだよ。よろしく!」
これ以上ないほどに爽やかな自己紹介をする俺。
きっと微笑ましく見えたことだろう。
しかしそんな俺の期待とは裏腹に、彼らの反応は驚愕して目を見開いたような表情だった。
しかも、クールダンディーなディーンまでも。
「「「「「ハイヒューマン!?!?!?」」」」」