地上
加護とスキルを貰えてルンルン気分の俺は、鼻歌混じりに地上へと………え!? ちょっと待てよ。
どうやってダンジョンを出るのですか?
この大理石の部屋には、中央に水晶球が置いてあった以外何も無い。
今はその水晶球は俺に吸収されているので、サイクロプスが居た部屋に通じる扉だけだ。
どうすんの? もしかして、何かの謎を解かなきゃ出られない系ですか?
そんな風に俺が半ばパニックになりかけていると、部屋の中央………つまり、俺が立っている足下が光だした。
そして瞬く間に光は強くなっていき、目を開けていられなくなった俺が瞼を閉じる。
そうして次に目を開けてみると、大理石に居た筈の俺は森を背後にして草原の上にポツンと佇んでいた。
「また強制移動? ここはダンジョンなのか? それとも……」
無事にダンジョンを脱出出来たのか確信を持てない俺は、不安になりつつ視線を周囲に巡らした。
すると、俺の後ろに地中へと続く階段を見つけ、その階段の一番上に、ダンジョン入り口と掲げられている看板を見て漸くここがダンジョンの外なのだと気付いた。
マジでホッとしました。ちょっと疑心暗鬼になっていたみたいです。
あの強制移動がトラウマになりそうだよ。
ま、まぁ、それはそうと、リンゴ擬きを食べ続ける生活とはおさらばでっせぇ!
何せ、人が住む街に行けば、肉料理が食べられるのだから。
いや、魚料理でも良いな………あるいは、その両方を一度に食べるのも良いかも知れない。
あぁ、涎が……。辛抱タマランですな!
ただし問題が一つ有る。
目の前には草原、背後には森。そのどちらにも人が通ったような道が見当たらない。
それどころか、轍さえも無いのだ。
それに俺の見える限り、街など見えないし、人の姿も見えない。
どうしましょう?
何を目印に進めば良いのだろか?
適当に進んでそれが街とは反対方向だったら目も当てられない。
冒険者の遺品であるウエストポーチには、地図とかは入って無かったし………これは困ったな。
ダンジョンの中にいる時は、外に出ることばかり考えていてその後のことなど思慮の外だったわ。
「気配察知のスキルにはモンスターの反応は森の方から感じるから、草原の方に進んでみるか?
普通に考えて、モンスターが存在する場所に村や街を作るとは思えないし……いや、ゲームっぽい世界なんだから、それも有り得るっちゃ有り得るな。
でも、人が多い場所ではモンスターは少ないだろうし、そう考えるとやっぱり草原の方かな?」
うん、幾ら考えても答えは出んな。
ならば、草原の方向へと進んでみよう。
それで街とか道とか見当たら無かったら、森の中を進めば良いし。
良し、それじゃあ行くとしましょう!
そんなこんなで、楽観的に進んで大丈夫かと不安に思いつつ進む。
そして、ここはダンジョンではなく普通のフィールドってことも考慮して、ステータスポイントを割り振ろうと思う。
理由は単純明快で、ダンジョンはアナステアが言っていた通り、亜人………つまり、二足歩行のモンスターしか居らず、木に登っていれば安全だと言う確証も無いからだ。
空を飛ぶモンスターとか、亜人みたいに動きが鈍くないモンスターも居るだろうしね。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【 名 前 】 セイイチロウ=キリュウ
【 年 齢 】 5
【 種 族 】 ハイヒューマン
【 レベル 】 25
【 体 力 】 42
【 魔 力 】 78 (-75)
【 攻撃力 】 42
【 防御力 】 42
【 俊敏性 】 42
ステータスポイント:残り0
【種族スキル】 ステータス操作
【 スキル 】 気配遮断2.5 気配察知2.3
木工2.9 槍術1.9
短刀術1.9 弓術3.5
投擲術3.1
【 魔 法 】 火魔法0.1
【ダンジョン】 ステータスポイントUP
【 加 護 】 愛の女神
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
何事もバランスが大事だよね。ってことで、ポイントを均等に割り振りましたよ。
本当ならば、こういうのは何かに特化した方が良いと思うのだけど、それはゲームだったらの話だと思う。
現実で特化型のステータスになっていたら、一人じゃ対応出来ない敵とかに遭遇した場合直ぐに死んじゃう可能性が有るからね。
だからこその万能型です。
まぁ、もしかしたら状況によっては変わるかも知れないけど……。
でも、今は万能型でステータスポイントを割り振るつもりだ。
と、そんな感じで結構悩みに悩んで出した結論に一人満足していると、気配察知のスキルに反応があった。
俺が進んでいる方向とは逆、つまり後方から凄まじいスピードで多分二百を超えるモンスターが接近して来ていた。
俺は近くに生い茂っている少し背丈の高い草むらに、焦りながら急いで隠れた。
その僅か数分後、まるで空を覆うように鳥型のモンスターが燕と同等のスピードで飛んで行った。
まさにあっという間の出来事だ。
「なんじゃありゃ?」
そんなに急いで何処行くの?
まぁ、別に急いでいる訳ではなく、さっきのモンスターは普通に移動しているだけだろう。俺から見たら急いでいるように見えただけの話だと思う。
うん、もう既に後悔し始めてきた。
俊敏性にポイントを多く割り振るべきだったかも知れない。
ま、まぁ、もし俊敏性にポイントを多く割り振っていたとしても、流石にさっきの鳥型のモンスターみたいなスピードでは動けないだろうし………と言うか、多分少し走る速度が速くなる程度だと思われる。
だから、少し前の決断は間違ってないと思っておこう……。
それに、さっきの鳥型のモンスターは戦闘タイプじゃないと思われる。
何せ、体は燕と変わらぬ大きさだったし、一見すると狂暴そうに見えなかったからね。
さぁ、気を取り直して草原を進むとしましょう。
しっかし凄い所ですよ、異世界は。
見たことも無い鳥も居るし、ゲームに登場するお馴染みのモンスターも居るし。
まるでテーマパークに来たような印象を受けるよ。
それに、英雄伝の本によると、沢山の人種も居るらしいしね。
密かにエルフやドワーフに会うのを楽しみにしているのだよ、俺は。
そんな風に密かな楽しみを胸に抱きながら、草原を一人寂しく進むこと一ヶ月半………そう、一ヶ月半だ!
途中で戻ろうかとも思ったのだが、もしかしたら後一時間くらい歩いたら道が有るかも、なんて考えが脳裏を過って引くに引けない感じになり、ずっと進んでしまいました!
思わぬ落とし穴に嵌まった気分です! 俺の判断ミスなのは間違いないが、それにしても酷くない?!
ダンジョンで出会ったアナステアが、あの時に"街は何処其処の方向だよ“って感じで教えてくれても良かったと思うのです。
……尋ねなかった俺が悪いのか? いや、それにしても酷いよ……不親切過ぎると思うのです。
昨日の夜なんてもう我慢の限界に達していたせいか、真夜中に草原で一人、褌一丁で何故かパラパラを踊ってしまっていた。
しかもその後は、犬の遠吠えのような鳴き声を草原に響かせながら、地面の上をゴロゴロと転がる始末だった。
そして今朝、憂鬱な気分で何となくステータスを見て気付いたのだが………
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【 名 前 】 セイイチロウ=キリュウ
【 年 齢 】 6
【 種 族 】 ハイヒューマン
【 レベル 】 25
【 体 力 】 42
【 魔 力 】 78
【 攻撃力 】 42
【 防御力 】 42
【 俊敏性 】 42
ステータスポイント:残り0
【種族スキル】 ステータス操作
【 スキル 】 気配遮断2.8 気配察知2.8
木工2.9 槍術1.9
短刀術1.9 弓術3.5
投擲術3.1
【 魔 法 】 火魔法0.1
【ダンジョン】 ステータスポイントUP
【 加 護 】 愛の女神
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お気付きになられただろうか?
もう一度、良く見て下さい。
そう、今日でこの異世界に来てから丁度一年が過ぎていたらしく、年齢が六歳になってました。
最悪の気分で誕生日を迎えるなんて………こんな最悪な誕生日を経験したのは俺だけなのでは?
この世界に来て三度目のマジ泣きですよ。
いや、人生でもここまで涙を流したことは無いと思えるほどに泣きました。
想像してみてよ………草原で一人寂しく褌一丁の六歳児が、マジ泣きしてる姿を……。
最悪の絵面だよね。
分かってる……分かってるよ。
これは俺の自己責任ってことは、充分理解してるつもりだよ。
……もう心が張り裂けそうです。
食料は相変わらずポーチに入れていたリンゴ擬きだし、人にも出会えず一人ぼっちだし、街どころか道すら見つけられないし……俺の心は我慢の限界突破ですよ。
そんな風に絶望しながら鼻水と心の汗を濁流のように流していると、風に乗って何処からか声が聞こえたような気がした。
どうやら幻聴が聞こえるほど人恋しいようです。
「お……どうし……何で……居る……?」
「…グス…ング……ん? あれ? 幻聴じゃなくね?」
声は何処から聞こえているのだろうか?
俺は直ぐに気配察知のスキルで周囲を探った。
すると、驚くべきことに、マジで感動することに………俺の右側の方から、モンスターとは異なる反応が複数有った。
それに驚愕した俺がそちらに視線を向けると………
「おーーーい!! 何で街の外に居るのーーー?! 危ないからこっちに来なさーーーい!!」
数人の男女が居ます! 恋い焦がれた人が居ます!!
しかも人だけではなく、乗り物であろうと思われる荷馬車の存在も見えまっせぇ!
深い絶望から一気にハイテンションへとなった俺は、涙と鼻水でグシャグシャの顔をポーチから出したシャツで拭う。
そして駆け足で男女の方に駆け寄った。
近くまで行って気付いたが、女性の一人には頭にケモミミが付いていた。
同じく男性の一人にもケモミミが付いている。
その他の人は普通だ………髪色や瞳の色は地球人とは違って派手ではあったが……。
そんな人達の表情は、何故か驚愕して目を見開いている。
そして女性二人は両手で顔を覆っていた。
何でしょう? どうかしましたか?
「おいおい、子供が一人で街の外に居るのにも驚いたが………なんちゅうカッコをしてるんだよ。
誰か予備の服とか持ってないか?」
「俺は持ってねぇな……お前は?」
「俺も無い。
つうかよ、マジックポーチ持ちなんて一人も居ないのに、服の代えとか持って来てる奴は居ないだろうが」
犬っぽいケモミミをした男が二人の男に尋ねると、揃って首を振って意見を述べた。
女性二人は相変わらず両手で顔を覆っている。
ふむ、成る程ね。
つまり、俺が褌一丁なのが問題なのね?
こりゃ失礼しました。もうずっと褌一丁だったから、これが当たり前になってたよ。
俺は自分の格好がセクハラなのだと気付いて、ウエストポーチから上着を取り出して着る。
ダボダボのせいで袖から手は出てないし、裾は地面についてる。しかも首回りが広いので、鎖骨どころか乳首まで丸見えだ。
「お、おいおい……坊主、マジックポーチを持ってんのか!?」
「どっかの貴族の子供かも知れないな」
「盗賊とか、あるいは山賊に襲われたのかも知れないぞ」
何か分からないが、男性三人は俺がウエストポーチからシャツを取り出したのを見て取り乱している。
女性二人は相変わらずである。
ちなみに、ウエストポーチは本来ベルトのように腰に付けるのが普通だが、そのベルトの穴が合わないので仕方なく肩掛けバックのようにしていた。
それはそうと、お嬢さん、もう手をどけても良いのですよ?
「もう服を着てる?」
「私も目を瞑ってるから分かんないよ」
女性二人の言葉を聞いた男性三人は、苦笑して"もう大丈夫だ“と告げると、漸く二人の女性は此方に視線を向けて来た。
俺はそんな二人に、ニコッと微笑む。
第一印象は大切ですからね………まぁ、第一印象は既に褌一丁で草原の中でマジ泣きしている六歳児、という最悪のものではあるが。
でもでも、これから挽回すれば良いと思うのです。
まぁ、それはさて置き、俺は無言で荷馬車の方へと移動する。
そしてそのまま図々しくも荷馬車に乗った。
マジ泣きをしてるのを見られて恥ずかしかったのもあるのだが、ここ一ヶ月半という長い間、ダンジョンとは違って満足に睡眠も取れなかったので疲れているのだ。
それに、六歳児をモンスターの存在する場所に放置するような人達ではないように見えたので、図々しくしても問題なかろうと判断したのもある。
はっきり言って、最悪の六歳児だろう。
自分でも理解してますよ。
俺は呆然と此方に視線を向け続ける男女五人に、もう一度微笑みを向けた。
「お休みなさい♪」
そう笑顔付きで告げると、俺は本当に荷馬車の上で眠りについた。