表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
紛争勃発
68/71

シューゾー参上!!

 あまりの詠唱のダサさにビックリするものの、敵から放たれた魔法の岩はバカに出来ないスピードで、俺は必死に地面を転がって避けた。

 その時の俺の表情は物凄い形相だっただろう。予想外の威力だったので仕方ないが、あんなダサい詠唱で放たれた魔法に驚いた手前、少々恥ずかしい。


 被害妄想の塊であり、詠唱はバカみたいにダサすぎるが、魔法の腕は確かなもので驚くばかりである。

 だが、地面を転がった後に立ち上がる俺に追撃をしないところなどは甘いと言わざるを得ない。

 俺ならまず間違いなく連発するところだと言える……いや、俺じゃなくとも誰もが追撃する場面だろう。


 なのに何故追撃がこないのかと言うと………


「硬くて頑強な岩! ゴツゴツとした鼠色の岩! ビックリするほどの速度で飛ぶ岩! 敵を倒せ、ディープインパクト!!」


 ……再び詠唱していたからだ。

 これにはちゃんとした意味があり、特段目の前の男が馬鹿だからではない。

 魔法は、イメージがしっかりしているほど威力や精度が変わる物なので、そのイメージの補助となる詠唱を逐一していれば放つ魔法は優れた物となる。

 ただし、相手の意表を折角つけたのにも関わらず、再び詠唱をするのは……まぁ、アホだね。普通の魔法使いならば、チャンスとばかりに追撃の魔法を加えるのだから、アホと言っても過言ではない。

 目の前の男は、少々マヌケなのかも知れない……。


 俺は態勢を万全に整えられていたので、男の詠唱が終わると同時に無詠唱で自身の前面に厚さ五十センチほどの土壁を出現させた。

 すると、その土壁が出現した瞬間に男の放った岩が当たり鈍い音が響き渡る。


 そして、次いで男の驚愕した声が耳に入った。


「な、何!? 貴様も魔法使いなのか!!」


 土壁のせいで表情は見えないが、きっと目を見開いているのだろう。男が少し抜けている感じだから憎めなくて、それを想像してちょっとだけ笑ってしまった。


 俺は笑い声だけは出さないように我慢しながら、再び無詠唱で土壁を消す。

 すると、まるで金魚のように口をパクパクとさせる男が視界に入り、折角我慢していた笑い声を出してしまった。

 そうなると当然男は顔を真っ赤にし始める。だが言わせて欲しい……お前の驚いた仕草が面白すぎるのが悪いのだと。


 しかし、然もありなん。男は真っ赤な顔で怒鳴り声を上げる。


「ぼ、僕の魔法を馬鹿にしているな!?」


「いや、ビックリした顔が面白かっただけで……」


「な~に~!? 僕の魔法がショボすぎて面白かっただとぉ!!」


 いやいやいや、そんなこと一言も言ってません!

 被害妄想の塊でマヌケ、そして難聴まで追加かよ……。


(勘弁してくれ……)


 憎めない感じで少しオモロイなと思えたが、ここまでくると笑えない。ちょっと引いてしまうくらいである。


「その余裕を砕いてやる!!」


(……もう何も言うまい……)


 俺は男の勘違いを正すのは諦め、怒りによって無防備な懐へと一足跳びに間合いを詰めた。

 そして、驚愕する男の鳩尾に中段突きを放つ。魔法使いは接近されると弱い者が多いため、武器を使用せず素手での攻撃で充分だと判断したからだ。


 しかし、その判断は間違いだったのだと気付かされた。


「痛っ!?」


 俺の中段突きが男の鳩尾に打ち込まれた瞬間、金属を殴った感触と激痛が拳を襲う。


 俺は予想外の痛みによって顔を顰めつつ、男の懐から跳びさがる。

 すると、男はニヤリと口元を歪めながら口を開いた。


「魔法使いが接近戦で弱いのは十二分に理解している! となれば、当然弱点をそのままにしておく訳が無いだろう!」


 クソォ……ムカつくけど確かに男の言うことには一利ある。

 しかし、普通の魔法使いは確かに接近戦は弱いが、俺やサミュエルさんみたいに白兵戦も出来る魔法使いだって居るんだぞ! そう言い返してやりたい!


 だが、あまりにも拳が痛くて何も言えない。


「えっえっえっ、僕の凄さがよく理解出来ただろう!」


 クソォ……アホみたいな笑い声が耳障りだな!

 魔力の消費を抑えるという意味も含めた接近戦だったが、ここからは無詠唱でバンバン放ってやろうじゃねぇか!


(遠慮会釈の無い魔法をくらいやがれ!!)


 拳の痛みが治まったのを感じたので、俺は体全体に魔力を漲らせながら無詠唱で火属性の火球を連続で放っていく。

 勿論、頭にきたからと言って全力で放つ訳もなく、一応手加減をしているので大きさはたいした物ではない。せいぜい十センチ程度だ。

 ただ、その火球の数は自分でも把握出来ないほどである。


 となれば当然、魔法しか取り柄のない魔法使いなら全てを避け続けるのは無理だ。

 しかも、目の前の男のように逐一詠唱するのが癖になっているようなタイプなら、俺の魔法を防ぐための魔法も直ぐに発動出来いので、わりと早い段階で火だるまになるのがオチだろう。


「ま、まままま待て待て!! 熱っ!? 熱つつつつ、あっちィーーーー!!!!」


 将棋じゃないんだぞ、待ったなんてある訳がないだろうが。


「ちょ、ちょっと待てよ!!」


 待ちません!


「た、タイム! タイムを要求する!」


( 何がタイムじゃ! 知るかボケェ!!)


 俺は男の要求を無視して魔法を放ち続けていると、ジグザグに走って逃げていた男が盛大にツッコケた。

 そして当然、俺は魔法を放ち続けているので男は火だるまになる。


 それを見ながら、俺は満面の笑みで叫んだ。


「キャンプァイヤーじゃぁあ!!」


「あちちちちちちちっ!! ま、参った! 参ったから火を消してくれェ!!」


 さっきまでドヤ顔をしていた男が悲痛な叫びを上げたので、俺の溜飲も一気に下がった。

 それ故、水属性の魔法で大きな水球を一つ作り、それを火だるまになった男に目掛けて放つ。


 ジュアアア、という音と水蒸気が消えると、目の前には金属製の胴鎧だけを身に付けた変態が居た………まぁ、服を燃やしたのは俺なので、男からしたら裸になりたくてなった訳じゃないんだけどね(笑)。


 何はともあれ、俺の勝利が確定するとブロリー軍から勝利を祝う雄叫びが巻き起こる。

 その声に応えるように高々と拳を突き上げながら、俺は変態(笑)と化した男を伴いブロリーさんの所へと移動した。勿論、男は下半身丸出しなのだが、俺はそれを無視している。

 で、ブロリーさん達は苦笑しながら迎えてくれた……ジェノバさんは爆笑してたけどね。


「魔法使いとは言え、一人で戦うのが苦手な奴だったようなので簡単に倒せましたよ」


 対戦相手についての感想を述べると、パーカーさんとサミュエルさんがそれに同意して頷く。

 やっぱり高レベルの人物からしたら、先の戦闘を見ていれば直ぐにそう判断出来る程度の内容の戦いでしかなかったようだ。

 端的に言えば、ショボい内容の戦闘と言うことである。


 しかし、初めて魔法使いと戦ったにしては落ち着いて戦えていたと一応は誉めてもらえた。


(まぁ、相手がどこか憎めない奴だったから冷静で居られたんだろうけど……)


 それに、マヌケだったのが大きな勝因だろう。俺みたいに無詠唱の魔法使いならば、きっと俺には勝ち目が無かったと断言出来るからね。


 変態(笑)を背後にしながら内心で戦闘の自己評価をしていると、俺の名を高らかに叫ぶ声が聞こえた。

 疑問に思いながら声のした方向へと視線を向けると、プライス軍の新たな代表者が出て来ていて、再び俺の名を叫び始める。


「キリュウと名のるブロリー軍の決闘者よ! 勇気があるなら(それがし)と戦えィ!!」


 俺の名を叫んでいる男性は、百七十センチほどの長さの杖を持っていることから魔法使いだと判断出来る。

 しかも、ただの杖じゃないのは明白で、パーカーさんに貰った魔杖と同等レベルの魔力が感じられた。


 とまぁ、今はそれはどうでもいいのだ。重要なのは俺が名指しされているということ。


(キャバクラじゃないんだぞ………何で指名してくるんだよ……)


 俺がゲンナリしていると、パーカーさん達が爽やかな笑みでグーサインしてきた………つまり、指名に応えて出ろと言外に告げてきているのだ。


 まぁ、魔力はまだ充分にあるので問題無いとは言える。しかし、戦いたいかと問われれば、否、だと言わせて欲しい。

 何故なら、敵の代表者の佇まいが先の男と比べると明らかに強者だと告げているからだ。きっと正面切って戦えば、勝つのは非常に苦しいと言わざるを得ないだろう。


(戦いたくねぇなぁ……)


 心の底から嫌そうな顔を意識してしながら首を大きく横に振る。だが、師匠達の爽やかな笑みが俺の拒否を拒否しており、とても許してはくれそうにない。


 今の気持ちを形容するなら、絶望の二文字である。

 俺は大きく溜め息を吐きつつ、渋々プライス軍の代表者の前まで移動する。そして、目を爛々とさせている男の前に立ち、再び大きな溜め息を吐いた。


 そんな俺の態度を見た男は、魔法使いとは思えぬ暑苦しさで口を開く。


「その若さでなかなかの魔法使いだと驚かせられた! 某がその若さの時はまだまだ戦える次元では無かった故に、素直に称賛しよう! しかし! だがしかし! そんなキリュウ殿だからこそ言わせて貰うぞ! 世の中には上には上が居るのだ、と! そして、その存在を知って、更なる飛躍のチャンスだとして貰いたい!」


(何なんだよ、この松岡修造みたいな暑苦しさは……)


 別に自分が強者だと思っていないし、どちらかと言えばまだ弱いと理解している。なので、目の前の侍口調の男に教えて貰う必要は皆無だ。

 だが目の前の侍口調の松岡修造は、異常な暑苦しさのまま更にヒートアップしてくる。


「君の全力をぶつけてくるがいい! 某の全力で持って君を更なるステージへと引き上げてしんぜよう!!」


「はぁ、それは……何と言えばいいのか分かりませんが……」


「皆まで言わんで宜しい! 年長者の役目である! 故に、礼など口にする必要は無い!」


 もう何も言うまい。

 ただただ暑苦しいので、俺は全力で戦いに挑むのに集中するだけだ。


「では、参る!」


 松岡さんが……いや、名前は名乗られてないので仮の名ではあるのだが……。

 ともかく、その松岡さんが魔力を溢れ出したので、俺も同様に体から魔力をみなぎらせ始めた。

 すると、それが戦闘の開始を告げるゴング代わりとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ