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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
激闘! 生きていたければ、武器を手に取れ!
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巣窟

 バッチリ休息を取った俺は、正門の外でテントを張るブロリーさんの下を訪れたのだが、何故か満面の笑みを浮かべるパーカーさんに連れられ、ダンジョンの存在する森へと来ている。

 そう、ここには今話題沸騰のワーウルフの一団が巣を作っているのだ。

 そんな所に、何故俺を連れて行くのかは不明である。

 ちなみに、二人で森に入る訳ではない。

 騎士団一千人と、ジェノバさん達黒矢のメンバー、グラールさん達も一緒である。

 つまり、今日で完全に駆除してしまうつもりなのだ。


 まぁ、大勢で攻めるのだから、俺でも多少の戦力にはなると考えたからこそ、パーカーさんは俺を連れて来たのだろう。


 もう薄暗くなりなり始めた森を前に、一旦整列する騎士団の人達。

 それに倣って、俺達冒険者も整列する。

 すると、パーカーさんが全員の前に立ち、まるで全ての者に視線を巡らすように一度だけ見渡す。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「夜に森に入るのは非常に危険ですが、ワーウルフキングが逃げだしてしまえば、それこそ最悪です。

 故に、危険を承知で夜の戦闘を開始します。

 皆さん、死なないように頑張って下さいね。もっとも、ワーウルフ程度に殺られるとは思っておりませんが、念のために忠告しておきます」


「「「「「「おう!」」」」」」


「それから、森に入ってからはゼノンが指揮を取りなさい。

 宜しいですね?」


「はっ!」


 騎士団では、階級の低い者は短髪にしていなければならない。一方、階級が高い者は長髪にすることが義務付けしてある。

 パーカーさんにゼノンと名指しで呼ばれた男性は、茶色い髪を肩より長く伸ばしていた。

 そこから、ゼノンという男性が騎士団の中でも高い階級なのだということが察せられる。


 そんなゼノンさんは、まるでお伽噺に出てくる登場人物のような美しい外見で、鋭い視線に変えながらパーカーさんの横に立った。


「ジョルジオ、ムルッソ、お前達二人は三百人ずつを率いて森へ入れ!」


「「はっ!」」


「マルケル、お前は私の下で残りの騎士達を束ねながら森に入るぞ!」


「はっ!」


「冒険者達は、パーカー様の指示の下に行動してくれ!」


「「「「「おう!」」」」」


 予め決まっていたかのような素早いやり取りで、さっさと陣容が決まっていく。


「進軍、開始!!」


「「「「「おぉおおおお!!」」」」」


 中世ヨーロッパを舞台にした映画その物の軍勢は、ゼノンさんの号令の下、大地が震えるような喚声と共に進み始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの、のんびりしてて良いんですか?」


 超絶イケメンのゼノンさんが、率いた騎士団と共に森に入って十五分。

 俺達冒険者は、パーカーさんの指示で未だに森に入らずのんびりとしていた。

 故に、俺は堪らずパーカーさんに尋ねた。


 すると、パーカーさんは口髭を撫でながらニコッと笑う。


「そうですね。騎士団の人達ですと、十五分くらいが丁度良いでしょうね」


「どういう意味ですか?」


 再び尋ねたのは俺だったが、ジェノバさんやグラールさんも同様にパーカーさんの発言には気になっていたようだ。


「キリュウ様は、普段から冒険者として平原を歩いていたり、時には森に入っていたりするでしょう?」


「まぁ、そりゃ……冒険者ですしね」


「そんなキリュウ様のような冒険者とは違い、騎士団は訓練所で修練に励んでいます。……起伏のなく平坦な場所で。

 そうすると、どうしても慣れない森の中では足場に戸惑い、進軍が遅くなってしまいがちです。

 なのにも関わらず、凸凹な足場に慣れている冒険者が同時に進軍を始めてしまえば、冒険者が知らず知らず突出してしまい、その結果、ワーウルフの群れに集中的に狙われてしまう可能性が出てくるのです」


「あ~、成る程。それを避ける為に、わざと遅れて出発するんですね!」


「はい、ご理解頂けたようで何よりです。

 それでは、我々も出発しましょう」


 俺が納得して大きく頷くと、他の冒険者達も同じく頷いていた。

 流石は伯爵の直臣である。何でも出来るし、何でも知っている超エリートなのだと思わせられた。

 ちなみに、直臣とは何なのかを説明すると、主が直接家臣にした時は直臣と呼ばれ、家臣が雇った者は陪臣と呼ばれる。

 そして、直臣は世襲制なのに対して、陪臣は一代限りとなるのだ。

 まぁ、つまり簡単に言うと、陪臣とは家臣の家臣にあたる者のことで、直臣はブロリーさんに代々仕える部下だと言うことだ。


 それはさておき、パーカーさんに促されて森へと入り暫くすると、遠くから金属音が響き渡っているのが耳に入った。

 きっとワーウルフとの戦闘が始まっているのだと察せられる。

 しかし、パーカーさんはそちらには進まず、森の中央を目指して歩き続けた。

 それ故、助けに………と言うか、助太刀に行かなくていいのかと思うものの、大丈夫だと判断してるからこそ前へ前へと突き進んでいるのだと思い、俺達冒険者二十名はパーカーさんのあとを追う。


 そうして移動すること数十分、ダンジョンの入り口らしき地下へと続く洞窟を発見した。

 無論、見つけたのはダンジョンの入り口だけじゃい。

 二百体くらいのワーウルフの群れも当然の如く見つけている。


「えっと……どうするんです? まだ騎士団は着いてないみたいですけど……」


「上位種でもない普通のワーウルフですから、キリュウ様達冒険者だけでも討伐は容易でしょう?」


 言わせて欲しい……そんな訳ないじゃん!!

 絶対的優位な場所でなら大丈夫だと断言出来るが、少なくともこの場所での戦闘は俺にとって無理です!

 囲まれて叩きのめされるのが落ちだ。


 パーカーさんは親切ではあるのだが、時々笑顔を浮かべながら無茶苦茶なことを言うからビックリする時がある。

 例えば、あれは何時だったか…………


『キリュウ様、今から突きを放ちますので、木剣で弾くなり避けるなりしてくださいね』


『分かりました!』


『では、参ります!』


『速っ……グェ!?』


『キリュウ様……避けるか弾くかしませんと……練習になりませんので』


『い、いやいや、全力で避けようとしましたよ! でも速すぎるんです!』


『速すぎましたか? では、少し速度を緩くしますね。

 では、参ります!』


『変わってな………いぇお!?』


『………キリュウ様……』


『いやいやいやいや、全力でしたって! って言うか、全然速度が変わってないですよ!』


 そう、こんな感じで何度も模擬戦で叩きのめされることがあったのだ。

 パーカーさんは親切ではあるのだが、人に物を教えるのは苦手なようで………何処かの野球の監督と変わらないことを言う。


『キリュウ様、もっとズバッと動きませんと……こんな感じです! こう! ご理解頂けますか?』


 ズバッとって何やねん! 擬音で説明すなよ!

 一時が万事こんな調子なので、パーカーさんの戦闘指導は非常に恐ろしかった想い出しかない。

 一方、ぶっきらぼうな口調のサミュエルさんは、口調とは反対に非常に論理的な指導をしてくれ、俺は心底助かったと思った。


 ま、まぁ、それはともかく、ダンジョンの周囲に陣取っているワーウルフ達を前に、俺はパーカーさんの目を見ながら首を大きく左右に振った。


「パーカーさん、普通の人間には、無・理・で・す!」


「そうでしょうか? 私なら一人で殲滅出来る数ですが……」


 この人の基準がおかしい!

 昔、パーカーさんは冒険者だったらしいのだか、その時はブイブイ(死語)いわせていたそうだ。

 きっと冒険者ランクも高かったんだろう。


 しかし、そんなパーカーさんだからこそなのかも知れないが、普通の人間には出来ないことが理解出来ないそうで、俺がパーカーさんの言葉を否定する度に"そうでしょうか?“という発言をするのだ。

 もう何度もそんな会話をしていると、呆れるどころか笑えてくるのが不思議だ。

 本当に不思議である。


 俺が必死にパーカーさんに否定の言葉を放ち続けていると、ジェノバさんが会話に加わって来た。

 そして、不吉なことを口走り始める。


「キリュウには魔法があるじゃないか。援護はオレ達黒矢のメンバーに任せて、アンタは暴れてきなよ。

 グラール達も居るんだ。大丈夫さね」


 ふははは、背後に居るグラールさんの顔を見てからもう一度同じセリフを言ってみろ!

 グラールさんは、物凄い驚きに満ちた表情を浮かべているぞ!

 勿論、それはグラールさんだけではない。

 近接戦闘を主とする面々は、全員目玉が飛び出るんじゃないかと思えるほどにビックリしている。


 そう、普通は無理なのだ。

 二百体を超えるワーウルフの群れに、たった十人ほどで正面から斬り込むなんて不可能でっせ!


 しかし、パーカーさんとジェノバさんの二人は、笑みを浮かべながら同時に口を開く。


「「頑張ってこい(下さい)!」」


 まるで死神のような不気味な笑みには素直にドン引きになるし、きっと今の俺の表情は盛大に引き攣っているだろう。

 グラールさん達と同じようにね。


 俺は口元を引き攣らせながら、グラールさん達とどうするかを話し合う。


「行くしかねぇだろう」


「でも、相手は二百体は居ますよ?」


「でもなぁ、ジェノバは一回言い出すと五月蝿いんだよ。マジでしつこいぞぉ」


 過去にグラールさんはジェノバさんと何かあったのか、心底嫌そうに呟きながら木々の隙間から覗くきら星へと視線を向けた。


 そのどこか哀愁が漂う雰囲気を見て、何も言えなくなった俺に変わり、他の冒険者が口を開く。


「じゃあ、どうするんだよ? キリュウの魔法に頼るか?」


「ジェノバから聞いたが、蛇みたいに動きまわる炎を放てるんだろ? しかも、その一発で五十体近くのワーウルフを焼き殺してたらしいじゃねぇか」


「えぇ、まぁ、確かにそれくらいは倒してましたね」


「「「「マジかよ!? 魔法ってスゲェんだな!」」」」


「それじゃあ、その魔法をキリュウが放った後、俺達が一斉に突っ込んでいくのが良いだろうな」


 正直に言えば、あまり魔法に頼った戦闘はしたくないのだが、今回に限っては仕方ないと思えるので、俺はグラールさんの提案に頷くしかなかった。

 そしてその作戦の下、俺達はワーウルフの一団の前に姿を表し、俺の魔法を合図にして襲い掛かった。 

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