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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
激闘! 生きていたければ、武器を手に取れ!
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錬金術ギルドと噂

 勘弁してくれって感じだよ。

 疲れてるんだから、ゴチャゴチャしたくないんだよね。


 俺は少しだけジェノバさんに視線を向けた後、内心でそう思いつつもう一度グラールさんに目を向けた。


「ワーウルフの死体、百四十体は任せても良いですか? もう眠たくて限界なので」


「まだ言うのかい!! そんなつまんない見栄をはるなんて、どれだけ情けない男なんだい!!」


 何で俺はこれほど怒られているのか不思議だ。

 別にジェノバさんを挑発した訳でもないし………いや、確かに昨日は面倒ごとを避ける為に彼女の挑発をスルーしたけど、それだって別に馬鹿にした訳でもないのだ。


 それに、死体なら見に行けば沢山あるのだし、嘘かどうかは直ぐに分かるのだから、そんなに邪険にしなくとも良いと思う。

 と言うか、もう少し優しくしてくれても良いじゃん。


 グラールさんは何故ジェノバさんが怒っているのか分からないようで、俺に目線で尋ねてくる。

 しかし俺にだってそれは明確に分からないのだから答えようがなく、肩を竦めるしかなかった。


 そんな俺に、ジェノバさんの取り巻きの一人であるナナルさんが、顔を真っ赤にして近付いて来た。


(うわぁ………またこの人かよ)


 ナナルさんを見た俺は、思わず嫌そうな表情が顔に出たらしく、更に剣呑な雰囲気を振り撒きながらズカズカと近付いて来て、まるでメンチを切るかのように顔を間近に接近させるナナルさん。


(ヤンキーですやん!)


 リュカの町に来てから、俺は未だに楽しいと思えてないな、と現実逃避しつつ一歩後退する。

 そうすると、ナナルさんは無言で更に一歩前進してきた。


 はぁぁぁ、マジで勘弁してくれ。

 面倒ごとを嫌って今までは丁寧口調と丁寧な態度を心掛けていたが、眠気と疲労でそれも限界だよ。

 貴族の子供を(成人してたけど)殴って大事になってから、それはそれは注意して生きてきた。

 だけど、それももう本当に限界です!


 と言う訳で、そっちがその気なら、俺もバンバン挑発させて貰う!


「あの、何ですか? キスでもせがんでるんですか?」


「ふ、ふざけないでいただきたい!」


「だったら、何故に顔を近付けるんです? あ~、そういうことか、成る程。スイマセン気がつかなくて。

 俺に抱かれたかったんでしょう? でも、今日は疲れているので、明日にしてもらえません?」


「あ、貴方が嘘をつくから、私は注意しようと思っただけです!」


「は? 嘘もなにも、本当のことしか言ってませんよ。だいたい、見に行けば直ぐに分かるでしょう?」


「……クッ」


 うむ、ナナルさんは撃沈だな。

 何せ、今のナナルさんはプルプルと震えていて、とても言葉を発せられるような状態ではないからだ。


 故に、次はジェノバさんが標的だ。


「それから、昨日から俺に突っ掛かってきてる……名前はなんだったっけ? え~と、黒矢のリーダーの………そこのあんただよ。まぁ、覚える気はないから別にどうでも良いんだけど。

 とにかく、アンタも俺に抱かれたいの? だから突っ掛かってくるでしょ? だけどね、俺に抱かれたかったら、もっとスマートに声を掛けて来るんだね」


「テメェ、オレに喧嘩を売ってんのかい!?」


「いやいや、どっちかって言うと、そっちが喧嘩を売ってんじゃん。可笑しなこと言うね、君は。

 あぁ、それはそうと、本当に俺に抱かれたいのなら、明日以降にしてね。マジで今日は疲れてるから」


「上等だ! ここでブッ殺してやるよ!!」


「だ・か・ら、今日はマジで疲れてるって言ってんじゃん。俺に抱かれたいのなら、明日以降だよ。分かった?

 じゃ、そう言うことで」


 俺は言いきると直ぐにその場をあとにする。

 本当に喧嘩になったら絶対に勝てないから、挑発するだけして逃げるのだ。

 昔の偉い人も言っている。逃げるが勝ちってね。


 俺の背後でグラールさんがジェノバさんを止めている声が聞こえる中、俺はほくそ笑みながら宿屋へと向かった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぁ~~……今、何時だろう?」


 宿屋の一室から外に視線を向け、太陽の位置を確認する。

 この世界にも時計は存在するが、アホみたいに高いので俺は持ってない。

 故に、太陽の位置で時間を確認するしかないのだ。


 で、太陽の位置からすると、多分十二時くらいなんだろうと思う。

 まだ起きたばかりで腹も空いてないし、夕方までのんびりしつつ町中を見てまわるのも良いかもな。

「あ~、それと、マナポーションが欲しいな」


 昨日みたいに数百体の規模で襲われたら、直ぐに魔力が尽きるのは必然。

 ならば、それに備えて魔力を回復出来る手段を持っておいた方が無難だと思える。

 無論、魔力回復UPというスキルを所持しているのでジッとしていれば問題ないが、やはり速効で回復させる手段も必要になる。

 まぁ、保険という意味合いが強いが。

 それでも心強いのは間違いないし、もしもの時というのを想定しておいて損はない。


 と言う訳で、俺はパパッと防具を身に付けると、手早く歯磨きをして顔を洗う。

 そして、宿屋の主人に錬金術ギルドの場所を尋ね、教えて貰った場所を目指し歩を進めた。


 そうして十分ほど歩いていると、寂れた建物が視界に入り俺は足を止める。


「……外見からして、ちゃんとした品物が売ってあるのか心配になってくるな」


 そう、錬金術ギルドに到着したからこそ俺は足を止めたのだが、あまりのボロさに不安になってくる。

 とは言え、マナポーションを売っているのは錬金術ギルドだけなので、仕方なく中へと入った。

 すると、外見からは想像も出来ないほど意外なことに、室内は綺麗に整理整頓されている。


 これなら大丈夫だろう。

 そう思いながら、俺はホッと胸を撫で下ろしてカウンターのオジサンに声を掛けた。


「スイマセン。マナポーションを五本下さい」


「……何で剣士がマナポーションを欲しがるんだよ?」


 俺が腰に二本のシミターを帯刀しているのを見た店員は、訝しげな視線を向けながら尋ねてきた。

 まぁ、それはある意味当然だと言える。

 普通の魔法使いは、魔法のスキルのみを頼りに戦うので、俺みたいに剣やら槍やら色々と使う者など居ないのだ。

 もっとも、全く居ない訳ではない。

 サミュエルさんが良い例だ。

 彼とは何度か短剣術のスキルを使って、軽く模擬戦をしたことがあるのだが、俺の近接戦闘術では彼の短剣術のスキルに勝てなかった。

 いや、より正確に説明すると、勝負にすらならなかったと言った方が正しいだろう。

 ま、そんなサミュエルさんでも、近接戦闘術は拳闘術と短剣術の二つしかないらしく、俺みたいに沢山のスキルを所持しているのは滅茶苦茶珍しいそうだが。


 ともあれ、俺はそんな例外の存在も知っているので、然して間もおかず返答する。


「魔法使いでも奥の手を持っておくのが普通でしょう? それとも、このリュカの魔法使いは違うんですか?」


「まぁ、確かに居ない訳じゃないが、アンタみたいに若い魔法使いだと珍しいよ。奥の手を持ってるような奴は、大抵それなりの年齢だしな。

 ……ちょっと待ってなよ。下級マナポーションで良いんだろう?」


「はい。それで大丈夫です」


 どうやら俺の返答を聞いた店員さんは、俺が剣士ではなく魔法使いなのだと察してくれたようで、少し感心しながら奥の部屋へと姿を消した。


 俺はそんな店員の背中を見送った後、室内に視線を巡らす。


(綺麗にしてあるけど、不気味な物ばかりが置いてあるな)


 室内には、ガラス瓶に入れられてあるモンスターの目玉や、内臓、耳、他にも睾丸にしか見えない物まで、様々な物が置いてある。

 正直言ってドン引きだし、何に使うのか聞きたくもない。

 かつて俺が通っていた学校の理科室ですら、これほど禍々しい雰囲気ではなかっただろう。


 俺が室内の光景に頬を引き攣らせていると、店員さんが五本のマナポーションを持って戻って来た。


「ここの町では材料がなかなか手に入らないから、一本の値段は少し高い。一万五千ジェニーだが、大丈夫か?」


 一万五千ジェニー……つまり、金貨一枚と銀貨五枚になる訳だが、それは確かに高いと言える。

 普通の相場なら、金貨一枚が下級マナポーションの値段だからだ。


 しかしマナポーションに使用される材料は、エルキンス領ではブリッツの街近くにある魔の森でしか採れないので、値段が高くなるのも仕方ないのだろう。

 しかも、今はワーウルフのせいで商人の行き来も少ないだろうしね。


 ま、特に法外な値段という訳ではないので、俺は店員に頷きながらお金を差し出した。


「どうもな。あぁ、マナポーションを買ってくれたお礼に、アンタに耳寄りな情報をやるよ。

 まぁ、俺も噂で聞いた程度で、本当かどうかは知らないがな」


 不適な笑みを浮かべる店員が、室内に俺達二人以外には誰も居ないというのに、何故か顔を間近にしてボソボソと話し出した。


(今気付いたけど、酒臭いな!)


 真っ昼間から飲んでいたらしい店員に、これで錬金術ギルドを首にならないのかと心配してしまう。


 ま、それはともかく、噂とやらの説明が長いので要約すると………以下の通りになる。


 一つ、最近のリュカでは、深夜になると怪しい人間が彷徨いているらしい。


 一つ、その怪しい人間は、何故か正門付近で何かを待っているようにジッとしているらしい。


 一つ、ワーウルフの異常発生が起こる少し前には、ダンジョンが存在する森でも怪しい人間達の姿を見た者もいるらしい。


 一つ、リュカの町で人殺しが最近あったそうだが、その怪しい奴らが犯人なのではと言われているらしい。


 一つ、怪しい奴らは冒険者が使うような剣術ではなく、まるで騎士のような正統剣術を使っていたらしい。


 とまぁ、だから何? って感じの内容だった。

 まぁ、結構酔っぱらっているようなので、ただ噂話がしたかっただけかも知れないね。

 しかし、それでも最後には"怪しい人間には注意しろよ“と忠告してくれるのだから、殺人事件が発生してるくらいだし、少しは注意しておくのが良いと思われる。

 火のない所には煙がなんとやらってやつだ。


 俺は一応の礼儀として少しのチップを渡し、店員に礼を伝えると錬金術ギルドを出て宿屋に戻った。

 そして満足するまで食事を摂ると、今日も防衛の為に集合場所になっている正門へと向かう。


(早朝の時みたいに、突っ掛かってこないと良いけど………多分、突っ掛かってくるんだろうなぁ)


 黒矢のメンバーは全員美人な女性(しかもビキニ装備)なので、眼福ではあっても性格がアレだから正直言うともう会いたくはない。

 だが、この緊急時に駄々をこねている暇などない訳で………。


 と、そんなことを考えていると、集合場所の正門に着いた。

 そこには当然、昨日に引き続き沢山の冒険者が居る。

 無論、黒矢のパーティーも、だ。


 そしてこれまた当然、俺の姿を見つけたジェノバさんは、険しい表情で俺を睨み付けてきた。

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