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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
成人となり、ランクアップを狙う
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ランクGのダンジョン

(うっわぁ……人少ねぇ)


 リトリアと呼ばれる村の入り口で、俺は少しだけ驚いていた。

 その理由は単純明快。

 村の住人が少ないからだ。

 しかも、住居の数もビックリするほど少なかった。


 おそらく、リトリアに存在する住居数は、多くても百軒ほどであろうと思われる。

 であれば、人の数も言わずとも予想出来るだろう。


「キリュウ、どうしたんだ?」


 このリトリアへと向かって進んでいた道中で、仲良くなった商人のオジサン………もとい、スルンさんが声を掛けてきた。

 彼はムーアという町の出身らしく、今は大きな街で出店する為の資金稼ぎに励んでいるそうだ。

 嫁と子供が自慢なようで、野宿した日の晩はずっと家族に会いたいと愚痴を言っていた。


 まぁ、それはさて置き、俺はスルンさんにリトリアの印象を口にする。


「ダンジョンが存在するわりには、異常なほど人が少ないですね」


「あ~……だな。でも、それもある意味しょうがねぇんだよ」


 村の入り口で立ち話もなんなので、宿屋へと移動しながらスルンさんが話をしてくれた。

 で、その理由とは………なんと言ったら良いのか、実に悲しい話である。


 通常、村などの中にダンジョンが存在するのならば、冒険者にとって都合が良いので沢山の人が集まる。

 その典型的な例が、俺が拠点にしているブリッツだ。

 あの街には、初心者用のダンジョンもあるし上級のダンジョンさえもあるので、非常に多くの冒険者で賑わっている。

 無論、そんな冒険者が持ち帰る素材を目当てに商人も集まって来ていたりする。

 だが、このリトリアでは少し事情が変わってくるのだ。

 それは………


「そんなにダンジョンで手に入るアイテムはショボいんですか?」


「あぁ、かなりショボい。何せ、モンスターを倒しても殆どはアイテムを落とさないらしいし、尚且つ落としても牙一本とからしいぞ」


「それは………」


「冒険者からしたら、旨味のねぇダンジョンなんだわ」


 せめて劣化品でも良いから、ポーションやマナポーションを落とすなら違っていたかも知れない。

 そうしたら、この村は町………いや、運が良ければ街まで成長していた可能性すらある。

 しかし現実は厳しく、ダンジョンで手に入るアイテムは良くて牙だけ。

 確かにそんな事情があるのならば、ダンジョンが存在する村でも人は集まりはしないだろう。


 だが、俺のようにランクを上げる為だけに冒険者が集まっても良さそうなものなのだが……。

 そう疑問に思っていると、更にスルンさんが説明してくれた。


 なんでも、新人冒険者は最初だけは依頼をこなすのが楽しく感じるらしく、特別直ぐにランクを上げようとする者は居ないそうだ。

 まぁ、中には俺のような奴も存在するらしいが、それはかなり希少な部類になるらしい。


 そう聞かされれば、ますますこの村が可哀想に思えてくる。

 しかし意外なことに、村の人はそれほど気にしていないようだ。

 何故なら、このリトリアの少し先に行けば、港町があるらしく結構な頻度で商人が立ち寄るので、それほど生活に困ることもないらしい。

 故に、リトリアの住民は驚くほど明るい。


「それじゃあ、俺は部屋を取るから」


「長々と質問してスイマセン」


「いやいや、助けて貰ったんだ。これくらい何でもないよ」


 流浪の宿と記されている看板を掲げる宿屋の前で、スルンさんと別れた俺は、このリトリアの村にある冒険者ギルドへと移動する。

 まぁ、駄目だろうとは思っているが、それでももしかしたらという可能性があるので、一応ギルドでパーティー募集をしてみようと思う。


 で、そのギルドに到着した訳だが………


(……冒険者が一人も居ない)


 しかも、ギルド職員も居ないように見える。

 って言うか、気配察知のスキルを使っても、ギルド内には人の反応を見つけられなかった。


(こりゃ駄目だなぁ。一人でダンジョンに入るしかないだろう)


 この惨状では諦めるしかなく、俺は直ぐにギルドを出ていく。

 そして、次に向かうのは目的のダンジョンだ。


 俺と一緒にこの村に来た商人の人達が、到着早々道端で露店を開いているのを横目に、冒険者ギルドから三百メートルほど離れた場所へと移動する。

 すると、暇そうに立っている人がいた。

 勿論、その人はダンジョンへと入る人の確認をする為にいるのであって、ただ意味もなく佇んでいる訳ではない。

 しかし、やはり誰も来ないダンジョンだからか、目の前の人は心底暇そうに見えた。


 俺はそんな人物へと近付き、ギルドカードを提示する。

 以前には記されてなかったランクGと書かれたギルドカード、それを欠伸混じりに確認した男性は、"ふ~ん“と呟き続けて言葉を発する。


「こんなダンジョンに来るなんて、物好きな奴だな」


「……ランクを早く上げたいので」


 苦笑しつつ答えると、ロバート・デ・ニーロっぽい仕草で頷く男性。

 って言うか、マジで似てる。顔もクリソツです!


「ま、精々頑張るんだな。……あぁそれと、俺はこの村の冒険者ギルドの職員だ。だから、素材を買い取って欲しい時は言えよ」


 面倒そうに俺に伝えるデ・ニーロは(似てるので勝手に命名)、そう告げると空を眺め始めた。


「……あの」


「……………」


 声を掛けても無視ですよ。

 さっさとダンジョンに入るなら入れって感じだ。


 現在中に入って居る冒険者が存在するのか尋ねたかったが、デ・ニーロがシカトするので仕方なく諦めた。

 なので、俺はデ・ニーロに"行ってきます“と告げると、ダンジョンの階段を下っていく。


 そして然程しないうちに、一階層へと到着した。


「ブリッツにある初心者用のダンジョンと変わらんな」


 広さも構造も一切変わらないので、これなら何時もの調子で戦えるだろう。

 ただしそれは構造だけであり、出現するモンスターは全然違う。

 事実、一階層を興味深く眺めていた俺の目前に、初心者用のダンジョンでは見なかったモンスターがいた。

 そのモンスターの名称は、ワイルドターキーと呼ばれる奴だ。

 無論、地球に存在する酒の名前とは関係ない。

 まぁ、七面鳥に似ているモンスターなので、全く無関係とは言わないが。


 ともあれ、このダンジョンでの初戦闘になるので、俺は気を引き締めながらシミターを構えた。


(……ん? 全然襲ってくる気配が無いな)


 剣を構えてジッと待つが、ワイルドターキーは俺に視線を向けたままで身動ぎ一つしない。

 なので、来ないのなら此方から攻撃させて貰うことにした。


 俺は少しだけ腰を落とし、一気に前方へと駆け出す。

 そして、ワイルドターキーとの距離を詰めると、上段からの打ち下ろしを実行した。


━━━ギィィン


「な、なんだ?!」


 まるで見えない壁でも存在するのか、俺の攻撃は金属音を響かせながら弾かれた。

 ならばと、今度は横薙ぎにシミターを振るう。


━━━ギィィン


 再度金属音をダンジョン内に響かせ、俺の攻撃は掠りもしなかった。


(なんだよこれ?!)


 不気味なほどに身動ぎ一つしないワイルドターキーから、俺は少し距離を取ってモンスターの挙動を眺めた。

 それと同時に、先の二回の攻撃を防いだ要因が何かを考える。


 そして思い付いたのは、風属性を用いた鎧で防いだのでは、という結論だった。

 しかし、何を考えているのか分からないほど身動ぎ一つしないので、それが当たっているのかどうかは不明だ。

 その後、もう一度攻撃をくわえてみたのだが、やはり見えない壁によって防がれた。


 その結果、やはり風の鎧だと断定した俺は、ワイルドターキーを睨み付けながら暫く考え込む。

 と言うのも、何故か一歩も動かないので、こんな風に悠長に考えていられる訳だ。


(魔法で……いや、ハンマーを試してみるか?)


 シミターの攻撃力で足りないのなら、巨大なハンマーなら風の鎧を破壊出来る可能性があった。

 まぁ、絶対とは言わないが、やってみる価値はあるだろう。

 どうせワイルドターキーは一切動かないし……っつうか、何で動かないんだろう?


 そんな風に疑問に思いながら、俺がウエストポーチに手を突っ込む。

 すると、今まで身動ぎ一つしなかったワイルドターキーが、いきなり逃げるように走りだした。


 無論、逃がすつもりなど皆無なので、ハンマーの代わりに棒手裏剣を取り出した俺は、全力で投擲する。

 ちなみに、この六年で投擲術の熟練度は5を超えているので、ハイゴブリンに向かって投げると一発で頭蓋を貫通して仕留めるほどに威力が上がっていた。

 その投擲術のスキルを用いて放った棒手裏剣は、金属音などさせずにワイルドターキーの胴体を貫通する。

 そう、風の鎧など存在しなかったように、だ。


「はぁ? さっきまであんなに弾かれてたのに、なんでこんなに簡単に仕留められるんだよ」


 随分呆気ない結末に、俺は納得出来ないでいる。

 スキルは、熟練度が5を超えると一気に強くなるのが判明しているが、剣術のスキルだって熟練度4を超えているので、そこまで差がある訳じゃない。


(なのに、何故……)


 地面に倒れ伏したワイルドターキーの死体が消えるのを見ながら、呆然としつつ理由を考える。

 しかし、幾ら考えても答えは出てこない。


 それもある意味当たり前のことで、パズルのピースが少ない状態で絵を言い当てるようなものだからだ。

 つまり、少過ぎる情報から正確な回答が得られる訳がないのだ。


 と言うことで、俺は一旦考えるのを中断し、先へと進む。

 そして暫くして、曲がり角でジッと佇むワイルドターキーを発見した。

 しかも都合が良いことに、此方に気づいていないようだ。


 俺は笑みを浮かべながら、棒手裏剣を放った。


━━━ギィィン


「は!?」


 背後を向けていた筈なのに、俺が攻撃するのを悟っていたとでも言うのだろうか?


 ともあれ、風の鎧で身を守ったワイルドターキーは、一度俺に視線を向けると一目散に逃げ出した。

 それを見て焦った俺は、もう一度駄目元で棒手裏剣を放った。

 そして風の鎧に弾かれることを想定して走り出す。


 しかし、棒手裏剣はワイルドターキーの体を見事に貫通するという結果を残した。


「いやいや、意味が分からん。……もしかして、ジッとしてないと風の鎧を維持出来ないのか?」


 これは………当たりかも知れない。

 と言うより、十中八九正解だろう。

 何と言ったら良いのか、嫌がらせの為のモンスターって感じだな。


 何か凄くガックリきたが、攻略法が分かったので取り敢えずは良しとしておこう。

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