冒険者ランクを上げよう
深淵の神グリモワールさんとの邂逅から六年の歳月が流れた。
この六年、俺はレベル上げを後回しにしてスキルの熟練度を上げることに集中していた。
無論、まったくレベルを上げてない訳ではないが、強敵であるモンスターを倒すには、どうしてもスキルの熟練度が高くないと危険なので仕方なかったという事情があるのだ。
と言うのも、やはり初心者用のダンジョンで冒険者の死体を見たのが大きな原因だと思う。
あの時の光景を見てしまえば、誰でも慎重に行動しようと思う筈だ。
それに、俺のステータス値の伸びは平均よりちょい少ないらしいしね。
ともあれ、熟練度の上昇も上手くいっているし、調合という薬剤師には必須のスキルを取得したり、日常で使用する調理というスキルなどの様々なスキルを取得してたりもする。
まぁ、取り敢えずステータスを見てくれれば、どれだけ努力したのかは理解して貰えるだろう。
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【 名 前 】 セイイチロウ=キリュウ
【 年 齢 】 12
【 種 族 】 ハイヒューマン
【 レベル 】 45
【 体 力 】 90
【 魔 力 】 250
【 攻撃力 】 90
【 防御力 】 90
【 俊敏性 】 90
ステータスポイント:残り0
【種族スキル】 ステータス操作
【 スキル 】 気配遮断4.9 気配察知4.9
短剣術4.5 戦斧術4.5
戦鎚術4.5 投擲術5.0
二剣術4.5 剣術4.5
槍術4.5 弓術4.5
木工5.0 鍛冶4.0
解体2.5 調合3.0
調理3.0
【 魔 法 】 火魔法4.0 水魔法4.0
土魔法4.0 風魔法4.0
【ダンジョン】 ステータスポイントUP
魔力ポイントUP 魔力回復UP
【 加 護 】 愛の女神 深淵の男神
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滅茶苦茶上がってるでしょ? 必死に努力したのだよ。
新しいスキルはあまり熟練度は高くないんだけど、結構役立つ物もあったりする。
特に、調合がそうだと言えるだろう。
実際、このスキルを得てから自作のポーションを作って売ったりしてたので、かなり懐が暖かくなってるんだよね。
そのお陰で、今の俺の装備は幅広くなっている。
剣はシミターを二本、槍は全金属製の短槍を一本と同じく全金属製である通常の長さの槍を一本、斧は手斧とハルバードを一本ずつ、鎚は手鎚と尖った巨大ハンマーを一本ずつ、そして自作で新たに制作した弓。勿論、鏃と羽がついた矢も自作で揃えてる。
これだけの装備を揃えられたのは、調合のスキルのお陰だと言っても過言ではない。
それに、他にまだ買った装備はある。
それは、身を守るのに欠かせない防具だ。
これにはかなりの金額を注ぎ込み、サイクロプスの皮を使った籠手や胴鎧を買った。
全部を揃えるのに、庶民の十年分くらいの金額が掛かってたりする。
そう考えると、調合のスキルの偉大さが理解して貰えるだろう。
ちなみに、この調合のスキルを取得出来たのは、冒険者仲間の紹介でバイトしたことが要因である。
そのバイト先で、色々と薬草の知識を教えて貰い、自分でも試行錯誤した結果取得出来たのだ。
ミックとジャガーには感謝してもしたりないよ。
で、ここまで準備万端にした理由は、俺が十二歳となり成人したからだ。
これで漸く冒険者としてランクが付くことになる。
まぁ、そうは言ってもランクGなんだけど。
それでも、これで正真正銘の冒険者なのは間違いではなく、これからどんどん難しい依頼も請けられるようになる訳ですよ。
しかし、喜ばしいのは事実ではあるが、一つ問題が浮上してくる。
それは、ランクGの依頼では薬草採取くらいしかないことだ。
ここで少しランク制度について説明しよう。
ランクは下からG、F、E、D、C、B、A、Sの八つある。
で、ランクを上げるには、自分のランクと同じ依頼を百回達成しなければならない。
故に、一日に一つの依頼を請けるペースならば、百日は掛かってしまうのだ。
一日に二件の依頼を請けたとしても、五十日。
これではポーションを売っていた方が金になるし、俺の目的であるダンジョンに入る許可は貰えないということになってしまう………いや、コツコツやってれば、何れはランクが上がり許可も貰えるだろうが、それまで長い時間を要してしまう、ということだ。
俺は、出来れば直ぐに中級のダンジョンに入りたいので、そうなると早くランクDには成らねばならない。
と、ここでその問題を早期に解決する裏技を使おうと思っている。
まぁ、ルールには何時も抜け道があるものなのだ。
その抜け道とは、今俺が拠点にしているブリッツから二日ほど歩いた場所に、リトリアと呼ばれる村があって、そこにはランクGに指定されている全五階層のダンジョンが存在していて、なんとそのダンジョンを踏破すればランクFに昇格して貰えるのだ。
これは俺にとって最高の抜け道だと言える。
なればこそ、ここまで装備を充実させたのだよ。
しかし、だがしかし、ここでもまた一つ問題が浮上する。
それは、俺がソロの冒険者だということだ。
まぁ、ソロだとダンジョンに入れないとかってことではないのだが………俺のレベルが低いので、一人で入るのが危険だということである。
なんでも、リトリアのダンジョンでは推奨されているレベルがあるそうで、55~60レベルくらいの人じゃないと厳しいらしいのだ。
しかも、それはパーティーを組んでいる場合である。
で、ソロなら70レベルくらいは必要になるらしい。
この六年間、俺はボッチですよ。
まぁ、友達は沢山出来たよ? 出来たけど、一緒にパーティーを組んでくれる人は居なかったんだよね。
それと言うのも、ランク外の奴がパーティーに居れば、当然普通に依頼を請けるのが無理になるので、俺はずっとボッチだった訳。
これはどうしようもないよね。
という訳で、俺は臨時でも良いからパーティーを組んでくれる人を探し続ける日々を過ごした。一・週・間・も!
でも現実は非情で、ランクGのダンジョンに一緒に入ってくれる人など見つからず、俺は一人寂しくリトリアに向けて出発することにした。
現地で見付かるかも、という希望を胸に抱きながら……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁぁぁ、なまじブリッツの冒険者のランクが高いのが問題だよ。こんな時は困るなぁ」
そう、ブリッツの冒険者ギルドに居る奴らは、軒並みランクが高いのだ。
それは、ヴァイスハイト国内でも最高の質の冒険者が揃っているので仕方ないのだが。
「でもなぁ………かと言って、新人冒険者だと明らかに弱すぎるし」
トボトボと一人寂しく歩く俺は、曇天の空模様を眺めながら呟く。
まぁ、厳密に言えば一人ではない。
街から街、あるいは街から村へと移動する際は、商人などがグループを作って移動しているので、俺はそのグループの枠に入れて貰っている。
彼ら商人からしたら、成人したばかりの冒険者である俺だとしても、立派な戦力だとみなされるのだ。
勿論、裕福な商人などは自前で雇った冒険者が居たりする。
が、金のない商人は、同じく金のない商人達と一緒に移動するのが普通なのだ。
これも生活の知恵である。
ともあれ、そんなことより目下の問題を解決するのが重要だな。
熟練度だけで言えば、俺は中級冒険者の末席には連ねられるくらいであるが、レベルは中級冒険者どころか初級の上程度しかない。
しかもステータス値で言うなら、同じレベルの人間と比べると圧倒的に低いのだ。
これでは、リトリアに行ってパーティー募集したとしても、多分無理かも知んない。
「……どうしよう」
「どうしたんだ? 何か悩み事か?」
俺が誰に問い掛けるでもなく一人寂しく呟いていると、俺と同じくリトリアに向かっている最中である商人のオジサンが尋ねて来た。
一見すると、人の良さそうな見た目だ。
俺はそのオジサンに、軽く事情を説明する。無論、スキル云々やレベル云々に関しては言わない。
雷電の皆に、耳にタコが出来るほど注意されているから当然だ。
それはさて置き、商人のオジサンは意外なほど親身に問題の解決策を考えてくれた。
しかし、やはり解決策は出てこない。
その代わり………
「取り敢えず、少しだけダンジョンを見てみるってのはどうだ? 少しでもヤバいと思ったら、直ぐに逃げれば良いんだしよ」
真剣に考えてくれたオジサンには悪いが、それぐらい俺でも考えつくよ!
そりゃパーティーが見付かんなかったら、の場合で、最終手段です!
そう叫びたかったが、気の良いオジサンっぽいので、そんな失礼なことを言える筈もなく………
「はぁぁぁ」
「いや、そんなあからさまに落胆するなよ」
「う、ん。まぁ、なるようにしかならないよね」
「あぁ、そうそう。人生なんて、そんなもんさ!」
なんか投げやりな答えではあるが、ある意味真理でもある。
そう考えてしまえば、もうどうとでもなれって感じの心境になるよね。
これが解脱と呼ばれる心持ちなのだろうか?
俺がそんな取り留めも無いことを考えていると、商人の人達がザワザワとし始めた。
「ありゃ何だ?」
「ん? あれは……」
「おいおい……ヤバいぞ! ワーウルフだぁあ!!」
「クソッ、此処はブリッツとリトリアの中間地点だぞ! 何処にも逃げ場なんてない!」
まさに阿鼻叫喚って感じで悲鳴を上げる面々。
それもその筈、ワーウルフと呼ばれるモンスターは、討伐ランクDに指定されている強力なモンスターなのだ。
初級冒険者では絶対敵わない存在で、異常に大きな頭部が特徴である。
攻撃手段は頭部が大きすぎる故に、噛みつくだけ………なのだが、その噛みつく力は非常に強く、金属製の防具でも砕いてしまう個体もいるらしい。
そんなワーウルフが一体、此方に向けて駆け寄って来ていた。
現在のモンスターとの距離は、だいたい二百メートルほどだろうか。
俺はパニックになっている商人達を背にして、守るように前に出た。
そして、ウエストポーチ(成長して、本当にウエストに装着している)から弓と矢を取り出すと、射程に入るまで確りと狙いを定め、勢い良く放った。
シュッと風を切る音を響かせる矢は、九十メートルほどまで近づいていたワーウルフの顔に突き刺さる。
「グギャン!!」
「もう一発くらってろ」
突然の痛みに足を止めたワーウルフに、俺は再度矢を番えて躊躇なく放つ。
無論、今度も見事に命中。
しかし、なかなかタフなようで、痛みを怒りによって緩和させたらしく、再び此方に駆け寄り始めた。
俺はそれを見て弓は相性が良くないと判断し、ウエストポーチにしまうと同時に巨大なハンマーを取り出す。
このハンマーは両端が尖っているので、見た目は凶悪そのもの。
だが、勿論外見だけでなく、その一撃も凶悪なものだ。
ちなみに、このハンマーを制作したのは、俺の鍛冶の師匠であるエッズさんだ。
俺はその武器を構え、ワーウルフが間合いに入るまでジッと待つ。
そして、ワーウルフが間合いに入った瞬間………
「オォォオオオオオオラァァアアアア!!!」
上段から一気に振り下ろしたハンマーは、バギッという不気味な音を響かせながら、ワーウルフの頭蓋をかち割った。
そんな一撃をくらったワーウルフは、当然即死である。
と、その瞬間、俺の背後で固唾を飲んでいた商人の人達が、ワァッと声を張り上げた。
「うぉおお!! 一撃で仕留めやがったぞ!」
「スゲェ!!」
「若いのに凄い冒険者だな!!」
感嘆の声を漏らす商人達の素直な感想に、俺は少し照れる。
そして、少し得意げに口を開いた。
「解体するので、少しだけ待っていてくれませんか?」
「「おう、ゆっくりでも良いぞ!」」
「あぁ、兄さんと一緒なら大丈夫だろうしな」
「だな!」
俺の実力を間近で見たからなのか、商人の皆さんは気前良く許可してくれた。
なので、血の臭いで更なるモンスターが来る前に、パパッと解体を済ませる。
そうして再び俺達は街道を進み始め、翌日の昼にはリトリアに辿り着いた。




